超人特集

vol.6

世界中がマークする
2015-16シーズン総合覇者

アルペンスキーヤー

森井大輝 選手

選手プロフィール

1980年7月9日、東京都あきる野市生まれ。4歳から家族と一緒にスキーを始め、やがてモーグルに熱中。高校に進んでからはアルペン競技で インターハイを目指してトレーニングに励んでいたが、高校2年時にバイク事故で脊髄を損傷。入院中に長野パラリンピックをテレビで観て、チェアスキーを始める。パラリンピックには4大会連続出場。2014年ソチ大会では日本選手団の主将も務めた。障がい別クラスはLW11。

今シーズン総合Vの活躍で
3個のクリスタルトロフィーを
獲得。

パラアルペンスキーのナショナルチームの選手たちは、雪上トレーニングやレース出場のために年間150日を海外で過ごす。遠征に出るたびに持参する荷物も大量だ。シッティングカテゴリーの選手である森井大輝の場合、チェアスキーや予備のシート、種目ごとに異なるスキーなどを合わせると、合計150kgにもなる。
2016年3月、アメリカから日本に向かう森井の荷物群には、さらにひとつ、大きな箱が加わっていた。箱の中身は、クリスタルガラス製の大きなトロフィーが3個。IPC(国際パラリンピック委員会)アルペンスキー・ワールドカップ、男子シッティングカテゴリーの総合優勝、種目別大回転(GS)優勝、種目別回転(SL)優勝の証だ。
「すごく実りのあるシーズンでした。とくにSLは得意とはいえない種目だったので、そこで優勝できたのは自分でも驚いていますし、うれしく思っています」
ワールドカップは、一発勝負となるパラリンピックや世界選手権とは異なり、転戦しながらシーズンを通して戦うシリーズレース。2015-2016シーズンは、スロヴェニア、イタリア、スイス、フランス、そしてアメリカの5ヵ国で、合計17戦が行なわれた。同じ種目であっても、コースや雪質、天候など、1戦1戦まったく条件が異なる中で安定した成績を残さなければ、クリスタルトロフィーを手にすることはできない。ましてや総合優勝となれば、種目による得意不得意もシーズン中の好不調の波も最小限に抑えた強靭なオールラウンダーのみが挑める領域となる。その頂点に森井は4年前に初めて立ち、そして今シーズン、2度目の栄誉を勝ち獲った。
まるで鎧のような筋肉をまとった森井の背中を、世界中のシッティング選手が追いかけ、追い越そうとしている。


まだ手にしていないのは
パラリンピックの
金メダルだけ。

チェアスキーとの出会いは、バイク事故で入院中の病室で見た長野パラリンピックのテレビ中継だった。初めて目にするチェアスキー、そしてそれを操ってコースを駆け降りる選手の滑り。失意の底にいた森井の心に、希望の灯がともった瞬間だった。
チェアスキーを手に入れ雪上に立った森井は、瞬く間にその才能を開花させる。乗った初日にひとりで連続ターンを描くという伝説めいた第一歩を踏み出すと、国内大会にデビュー。そこで一躍、注目を浴びる存在となった。そして2002年、ソルトレークシティパラリンピックに初出場。「きっとメダルが獲れるはず」と自信たっぷりで臨んだ怖いもの知らずの若者は、そこで初めて壁にぶつかった。斜面変化が続く複雑なコースへの対応力、瞬時のリカバリーを可能にする体力、そして大舞台にも臆しない精神力。海外の強豪選手に比べて、当時の森井にはすべてが不足していた。
このときの悔しさが、アスリートとしての森井の原点となる。人並み外れた感覚だけで駆け上がってきた天才が、次のパラリンピックに向けて本気の努力を始めたのだ。すべてを競技活動のために費やした4年の間に、スキーをずらさずに鋭い弧を描くカービングターンの技術を磨いた森井は、世界中からマークされる選手に成長。2006年トリノパラリンピックでは、大回転で銀メダルを獲得した。
2010年バンクーバー、2014年ソチでも連続してメダルを手に入れたが、いずれも100%満足できる結果だったとは言い難い。チェアスキーの調整やコースコンディションに苦しみ、実力を出し切れずに終わったという気持ちが、森井には強く残っている。
だからこそ、5度目の挑戦となる2018年ピョンチャンパラリンピックにかける思いには特別なものがある。
「パラリンピックの金メダルだけ、僕は持っていないんです。だからピョンチャンでは、表彰台のてっぺん、金メダルしか狙っていません。どんなことをしてでも獲りに行く」
アルペン会場となるコースを試走した感想を尋ねたところ、「僕が好きなコースでした」と自信を持って答えた森井。銀や銅は、今の彼にふさわしいものではない。悲願の金メダルを胸に抱く王者の姿を、皆が待ち望んでいる。


text&photos by Isao Horikiri

2016-05-31

  • Share on Facebook
  • Share on Twitter
  • Share on Google+