2017.12.05

【柔道】[第32回全日本視覚障害者柔道選手権]男子は全階級で海外勢が勝利。日本勢はリオパラリンピック銅メダルの廣瀬順子が女子57kg級を制す

11月26日、第32回全日本視覚障害者柔道選手権が東京・講道館で開催された。試合の機会が限られる視覚障害者柔道は、とくに海外勢との対戦となるとさらに限られるため、海外から強豪選手を招くようになって3年目。リオパラリンピックやワールドカップのメダリストを中心とした文字通りの強豪が顔を揃えたこともあり、男子では全階級で海外勢が勝利する結果となった。前回優勝の永井崇匡(73kg級)、北園新光(81kg級)、初瀬勇輔(90kg級)、正木健人(100kg超級)が欠場していたとはいえ、日本勢にとっては厳しい結果だ。

女子57kg級の廣瀬順子が唯一優勝


海外勢が強さを示す中で気を吐いた廣瀬順子

そんな中、日本勢として唯一優勝を果たしたのが女子57kg級の廣瀬順子。「参加人数が少なかっただけで、試合には全く納得していない」(廣瀬)とのことだが、今回は全試合で勝利しての優勝で、自身も手応えを掴んだようだ。「リオパラリンピックで銅メダルを獲ってから、プレッシャーを感じてしまっていましたが、今回は応援を力に変えることができた。もっと投技やパワーの部分を強化して、積極的に技を仕掛ける試合をしたい」と、さらなる成長への意欲を見せた。2位には韓国のキム・ソーヒョン、3位には藤原由衣が入賞した。



女子48kg級は韓国から参戦したオー・ヨンジュが優勝。リオパラリンピック銀メダリストのカルメン・ブルジグ(ドイツ)を破っての首位だけに実力は十分と言える。そのカルメンに敗れた半谷静香は3位に入賞したものの「ウズベキスタンでもカルメンに負けて3位だったので、今回こそ勝つつもりでいた。ゴールデンスコアの延長に入ったときまでは勝つ気満々だったのですが……。今は悔しい気持ちでいっぱいです」と唇を噛んだ。

女子52kg級ではドイツから参戦したリオの銀メダリストであるラモナ・ブルシグが優勝を果たす。2位はウズベキスタンでも5位入賞を果たした石井亜弧。「最後に一本を取られて負けたので悔しい」と語りながらも「東京に向けて一本をとれるように足技から大技へのつなぎを強化したい」と前向きな気持ちを見せた。

女子63kg級を制したのはスウェーデンから参加したニコリーナ・ペルンハイム。2位には小川和紗、3位にはシンディー・サイモン(アメリカ)が入賞した。女子70kg級は参加者が1人だけだったため、西村淳未が不戦勝で優勝。海外勢同士の闘いとなった女子70kg超級は韓国のリー・イェーウンが、アメリカのローリー・ピアスを破って優勝した。

海外勢が活躍した“日本一決定戦”

男子は午前中に予選リーグが行われ、その上位4名による決勝トーナメントで優勝者を決める方式。男子60kg級で唯一決勝トーナメントに残ったのは、昨年は66kg級に参戦していた齊藤大起だ。しかし、トーナメント初戦でルーマニアから参戦したアレクサンドル・ボロガに一本負けを喫して3位に。決勝ではそのボロガが韓国のジャン・ソンジンに一本勝ちを収め、優勝を果たした。


新鋭・瀬戸のこれからに注目だ

男子66kg級にはアトランタ・シドニー・アテネで金メダルを獲得している藤本聰、廣瀬誠、そして新鋭の瀬戸勇次郎の3人が決勝トーナメントに進出。この階級こそはとの期待を集めたが、優勝したのは韓国から来たユン・ヨンホー。トーナメント初戦では廣瀬から、決勝では藤本からともに投技で一本を奪って勝利を収めた。
最後は古傷を痛めてしまい踏ん張りが効かなかったという藤本だが「その状況でも予選では寝技で一本が取れたのが収穫ですね。海外のいろんなタイプの選手と闘うことは良い経験になるので、これからもどんどん呼んでほしい」と大会を振り返り「東京パラリンピックまで、あと約1000日。最初で最後の母国開催になると思うので、それに向けて全力でがんばりたい」と意気込みを語った。




瀬戸は藤本に背負い投げを決められた

藤本と準決勝で闘った瀬戸は今年8月の全国視覚障害者学生柔道大会からパラ柔道に取り組み始めた選手。それまでは一般の柔道の「金鷲旗全国高等学校柔道大会」にも出場しており、今後が期待される選手だ。初めて参加した8月の大会では、組んだ状態で始まるパラ柔道のスタイルに戸惑いを見せていたものの、それから3ヵ月間パワーの強化に取り組んだ成果を見せ、今大会の予選では2戦2勝で決勝トーナメントに進出。同級のレジェンド・藤本との対戦に挑んだ。試合では藤本の寝技を警戒しているところを背負投で一本負けを喫した。
「やはり世界を相手に闘ってきた人はパワーはもちろん、試合運びなど全てにおいて格が違う。何もできなかった」と藤本の実力に脱帽しながらも「60kg級に落とすことも視野に2020年の東京に向けてがんばりたい」と早くも次なるステージを見据えていた。



昨年覇者の永井崇匡が足首の負傷により、不出場となった男子73kg級は韓国のヤン・スンジュが優勝。石橋元気が2位、柳川雅是が3位となった。男子81kg級は加藤裕司、菊地裕三、佐々木嘉幸の3人が決勝トーナメントに駒を進めたが、優勝したのは韓国のキム・ユンホー。準決勝では佐々木を、決勝では加藤をともに投技で一本勝ちで下し、その実力を見せつけた。


準決勝で韓国選手を下した廣瀬悠

男子90kg級では準決勝で熱戦の末、韓国のチョン・ウンソを下した廣瀬悠がイギリスから参戦したエリオット・スチュアートと決勝を争う。廣瀬も粘り強く食い下がったがパワーで勝るスチュワートが奥襟を取っての内股で一本を奪い勝負を決めた。
「海外勢とのパワーの違いを感じた。パワーを付けなければ」と語る廣瀬だが、この日、女子57kg級で優勝した妻とともに東京パラリンピックに夫婦で出場したいとし、「リオで向こうは銅メダルだったので、その上の銀メダルを目指したい」と目標を語った。



男子100kg級では準決勝で前回優勝者の松本義和を破ったクリストファー・スケリー(イギリス)が決勝ではベン・グッドリッチ(アメリカ)に脇固めで一本勝ちを収めて優勝。リーグ戦のみで優勝が争われた男子100kg超級はジャック・ホジソン(イギリス)が優勝。ハワード・ウィルソンが(アメリカ)が2位、マイク・ラーセン(アメリカ)が3位と海外勢が上位を独占した。



大会終了後、男子日本代表チームの監督でもある遠藤義安大会委員長は「リオのメダリストも含めて海外から強豪選手が参加してくれたことでレベルの高い闘いが実現した。視覚障害者柔道は試合の機会が少なく、国際試合となるとなおさらだが、強い選手と試合をすれば負けても力がつく。とくに技術があってもパワーがなければ国際試合では通じないことも多い。パワーはトレーニングした分だけつくものなので、多くの選手に取り組んでほしい」と今大会の意義を語ったうえで「日本一を決める大会に海外選手に参加してもらうという形は、次回から考えなければならないかもしれない。本当であれば海外から選手を招いて行う大会はジャパンカップのような形で全日本大会とは別の場にするのが理想」と語り、新たな大会開催も視野に今後を検討すると明らかにした。

普段から、海外勢と試合をする場があれば、代表に選ばれた選手が国際試合を戦うのは東京パラリンピックが初めてといった事態も避けられる。海外勢との試合を経験する場が、今後も継続することが大切だろう。


text by Shigeki Masutani
photo by X-1
  • Share on Facebook
  • Share on Twitter
  • Share on Google+