視覚障がい者スポーツに特化した科学サポートを議論。専門家が都内でシンポジウム開催

視覚障がい者スポーツに特化した科学サポートを議論。専門家が都内でシンポジウム開催
2016.03.11.FRI 公開

視覚障がい者を対象にしたスポーツについてさまざまな角度から考える、「ブラインドパラスポーツシンポジウム」が3月6日、都内で開催された。今年のテーマは、「ブラインドアスリートのスポーツ科学サポート~リオデジャネイロに向けて」。“心技体”の各分野から専門家3人と現役のパラアスリートで、視覚障がい者柔道の廣瀬誠選手(写真上)が講演を行った。

座長の宮本氏「オリンピックに比べてまだ遅れている」

シンポジウムの座長を務めた筑波大学理療科教員養成施設長の宮本俊和氏によれば、約2年前からブラインドスポーツの関係者を対象にした定期勉強会を主宰しており、同シンポジウムもその一環で開催された。2020年東京パラリンピックの開催決定以降、パラリンピックへの関心は高まっているものの、選手に対するスポーツ科学的支援はオリンピックに比べてまだ遅れている現状を踏まえ、日本代表選手のサポートや障がい者スポーツに関わる専門家から最新の動向や手法などを聞くことで、ブラインドアスリートの支援につなげることが開催の理由だという。

ブラインドスポーツ関係者の勉強会を行う宮本氏

シンポジウムではまず、久留米大学健康・スポーツ科学センター講師の原賢二氏が心技体の“体”分野について、「フィジカルトレーニングの実際」というテーマで話した。昨年旋風を起こしたラグビーワールドカップ日本代表チームの具体的なトレーニング計画や環境づくりを紹介しながら、同チーム躍進の陰に、「フィジカル強化が大きな役割を果たした」と言及。競技パフォーマンス向上にトレーニング専門家の貢献は不可欠であり、さらに、トレーニングの成果は選手自身の目的意識やモチベーションが大きく左右し、また選手と指導者が問題点を共有し、共通理解をもとに実施することが重要であるとし、フィジカルトレーニングで最大の成果を得るには、「継続がいちばん。そのための仕組みづくりに注力を」と強調した。

“心”面からの視点を提示したのは、日本スポーツ振興センターのマルチサポート事業の中でパラリンピックを担当する、山田裕生氏。「メンタルサポートから」と題し、マルチサポート事業や選手へのメンタルサポートの概要を話したうえで、ブラインドアスリートに対する心理サポート経験を披露。「ブラインド選手の悩みや課題は、他の選手とあまり変わらず、むしろ共通点が多い。視覚からの情報量が少ないのは事実だが、視覚障がい者というより、各個人の特徴を捉え、個性を大切に見ていくことが重要」と話した。

筑波大学システム情報系の鈴木健嗣氏は、「ブラインドアスリート支援のためのテクノロジーからのアプローチ」というテーマで、“技”面の動向について話した。研究開発中の支援機器やプログラムを紹介し、個々の残存機能を最大限に活用し、本来有する能力を引き出す技術は、「ブラインドアスリート支援にも大きな貢献を果たすことができる」と応用の可能性を語った。

パラリンピアンの廣瀬「情報収集・分析の不足を補う科学的支援を」

最後に、「パラリンピアンの立場から」というテーマで、2004年アテネパラリンピック銀メダリストの廣瀬誠選手 (愛知県立名古屋盲学校教諭)が登壇。視覚障がいのため、人の柔道を見て学ぶ、「見取り稽古」ができないことや情報収集・分析の不足といった競技面での課題を挙げ、障がいを補うスポーツ科学的支援の重要性を訴えた。また、名古屋市に在住している廣瀬は、東京近郊との情報や機会格差についても指摘し、地方在住者への支援も要望した。

4度目のパラリンピックとなるリオ大会を目指し、厳しく稽古中の廣瀬選手だが、「自分はパラリンピックに出場して価値観が変わった。これから大会を目指す人に、自分の思いを還元することもパラリンピアンの責任。今後もこうした機会があれば協力したい」と話していた。

続いて、宮本座長のもと4演者によるパネルディスカッションも行われ、約60人の来場者も交え、「支援機器の活用例」や「視覚障がいのある子どもへの運動指導の方法」など活発な議論が交わされた。

選手や指導者、特別支援学校の教師といった来場者の中には、他分野の専門家も少なくなく、シンポジストから逆質問も飛び出し、ブラインドパラスポーツに特化した知見を広げ、深める有意義なシンポジウムとなった。視覚障がいの特性に応じたサポートの研究は、宮本氏いわく、「まだまだこれから」。今後の進展に期待したい。

text & photos by Kyoko Hoshino

視覚障がい者スポーツに特化した科学サポートを議論。専門家が都内でシンポジウム開催

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