2016.05.02

【陸上競技】[日本パラ陸上競技選手権]100mの辻が日本女子初の12秒台! リオで金メダルを狙う走り幅跳びの山本が世界新!

障がい者陸上の日本一を決める、日本パラ陸上競技選手権が大会4月30日、5月1日に鳥取市コカコーラ・ウエストパーク陸上競技場で開催された。国際パラリンピック委員会(IPC)公認大会で、27回目となった今年は、9月に開かれるリオパラリンピックの代表選考会のひとつに指定されており、代表入りを狙ってピークを合わせてきた選手たちが集結。熱のこもったパフォーマンスを繰り広げ、2日間で世界新記録1、アジア新3に加え、日本新も20個以上も飛び出した。競技団体によるリオ代表推薦選手の正式発表は最終選考会後の6月以降になるが、リオ開幕が楽しみになってきた。

切断・機能障がいの女子が大活躍


辻(写真右から2人目)らが称え合う

記録ラッシュの幕開けは切断・機能障がいクラスの女子100mだった。T47(片前腕切断など)の辻沙絵が、12秒86で日本新記録を樹立。日本女子のパラ陸上選手としては初めて13秒の壁を突破する快走で、「12秒台はずっと狙っていた。嬉しい」と喜びを語った。辻は200m、400mでも優勝した。

また、辻と同組で走ったT44(片下腿切断など)の高桑早生も13秒59で日本記録を2年ぶりに自ら更新。「冬場に強化したスタートだけを意識して走った。でもまだ、パラリンピックで決勝に残れるかどうかのタイム。上(メダル)を狙うにはもっといいタイムを出さないと」と勝ってなお、気持ちを引き締めていた。


山本が世界新! 値千金の大ジャンプ

圧巻の記録を残したのは、T42(片大腿切断など)の山本篤だ。4本目の試技で、オランダ選手のもつ世界記録を3cm更新する6m56で世界新記録を樹立したのだ。以前から、「世界新記録を一度は出したい」と目標を語っていた山本。「嬉しい」と声を弾ませ、何度もガッツポーツをして見せた。


世界記録をマークした跳躍

山本の好きな快晴の空のもと、1本目はファウルながら7mに迫る大ジャンプで観客をどよめかせ、味方につけた。2本目は自己ベストに迫る3m32。実はこのとき、左腰を痛めたというが、「今日はいける」と強行することを決意。
3本目は追い風参考ながら、6m48と記録を伸ばし、4本目はスタート位置についてから、じっくりと時間をかけた。「風がおさまるのを待ってから行こうと。出たら、うまくいった」と快心のジャンプを振り返り、「(今日のジャンプで)6m70、80まで見えた」。



昨秋の世界選手権で、ライバルのオランダ選手の前で大会2連覇を達成しており、「これでダブルパンチを食らわせられたかな」と、悲願のパラリンピック金メダルに向けて、一歩リードを印象付けた。

先輩、後輩が互いに刺激

視覚障がいのT13クラスでは、東邦銀行所属のふたりが活躍。2年先輩の佐藤智美は100mと200mで、今春入行の佐々木真菜は200mと400mでそれぞれ日本記録を更新した。佐藤は「100mは12秒台で走れる感触があったので、少し残念。佐々木さんはいい刺激。2020年に向けて一緒に頑張りたい」と話した。

盲学校時代の後輩でもある佐々木は、佐藤の100m日本新に刺激を受け、「私も」と思って走った400mで自己ベスト。さらに、並んで走った200mでは、「先輩の背中を追って走ったら、自己新が出た」と笑顔を見せた。切磋琢磨することで、さらなる成長に期待だ。

ロンドンパラリンピック銅メダリストの和田伸也(T11)は、日本新ペースだった1500mで伴走者が縁石に足を乗り上げてしまい、失格。「伴走者とは一心同体」と気持ちを切り替えて臨んだ5000mでは16分07秒07で大会記録を更新し、暑さと風のなか、「まずまずの記録」と安堵していた。


100m(T54)は、若手・生馬知季がベテランの永尾を抑え初制覇


互いに高め合う佐々木(写真左)と佐藤


新旧対決に注目の車いすクラス

車いすクラスは、改修されたばかりのトラックが柔らかく、競技用車いす(レーサー)が沈み込んでしまうため漕ぐには重くなり、記録的には低調となったが、興味深い対戦も少なくなかった。世界選手権での金メダル獲得で、リオでの活躍が期待される、T52の佐藤友祈は出場全3種目(400m、800m、1500m)でベテラン勢を寄せつけず、完勝。リオに向け、「レースで緊張してしまうところがあるので、もう少しリラックスして大舞台に臨めるようにしたい」と課題を口にした。

T54クラスでは、ロンドンパラリンピック日本代表の樋口政幸がやはり3冠(800m、1500m、5000m)とエースの貫録を見せた。長野県在住で冬場は基礎トレーニング中心という樋口は、「今の時期はまだスピードに体が慣れず、きつかったが、(リオ開幕の)9月までは4ヵ月ある。短いようだが、実は十分。自分のペースで仕上げたい」と経験豊富な余裕さを見せた。

そんな樋口を少し驚かせたのが、800mと1500mで2位につけた、若手の鈴木朋樹だ。特に1500mではスタートから樋口の前に出た。最後はかわされたものの、「いつも樋口さんが先頭で引っ張るレース展開なので、今日は先頭を譲らないという思いで走った。いつもと違うレース展開のほうがお客さんも楽しめると思う。今日はトラックが重く、風もあって最後までもたなかったが、今後克服すれば、もっと面白いレースができる」と手応えを口にしていた。


世界選手権金メダルの佐藤が強い


車いす部門のエース、樋口が3冠


記録ラッシュの立役者

もうひとつ、今回は重度障がいクラス(F33、55)の投てき種目でも日本新や大会新記録が続出した。その陰には、“ある装置”の存在があった。


車いす選手専用の投てき装置を
国内で初めて使用

これらのクラスでは、車いすや投てき専用台に座って競技を行うが、従来は大会のたびに持ち込んだ投てき台を係員がロープで支えたり、台に重しを乗せたりしていたため、固定力に難があった。
だが、鳥取市は今大会向けに、国内初の地面に埋め込み式の固定装置を新設。台をしっかりと固定できるようになった。実際、円盤投げで自身の日本記録を15cm更新する6m37で優勝したF33クラスの別府礼子は、「台が動かないので安心して投げられた。国内の他の競技場にも広がってほしい」と話した。




なお、国内最終となる代表選考会は6月4日から5日に新潟市のデンカビッグスワンスタジアムで開催される、「2016ジャパンパラ陸上競技大会」だ。夢舞台に向けた最終アピールの場として、今大会以上の高いパフォーマンスと盛り上がりに注目したい。



text by Kyoko Hoshino
photo by X-1
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