2016.12.07

【車いすフェンシング】[車いすフェンシングオープン大会]健常の日本選手権でエキシビションを実施。安直樹が優勝も「納得していない」

東京・駒沢体育館(東京都世田谷区)で12月3日、車いすフェンシングのオープン大会が実施された。男子フルーレに4選手が出場。総当たり戦の予選プールを経て、決勝戦では車椅子バスケットボール出身の安直樹が加納慎太郎を15対11で振り切り、昨年に続き優勝した。

成長途上の安と加納が対戦

予選では加納に0対5の完敗を喫していた安は、「予選からちゃんといこうと思っていたのに、加納君に一気に畳みかけられた。優勝できたのは嬉しいが、剣の技術もまだまだで、動きだけで切り抜けた感じ。白ランプ(有効面以外を突いた時に点灯するランプ)ばかりつくし、自分でも痛々しく感じるひどい試合だった。全然納得してません」と反省を口にした。

安は、8月の全日本車いすフェンシング選手権の決勝でも加納と対戦し、そのときは15対7で勝利した。今大会も勝ちはしたが、15対11と点差を詰められた上、試合展開も、12対3とリードしてから3点を連取され、1点取り返して13対6としてからも、再び4点を連取されるという苦しいものだった。

「去年より技の幅も広がり、戦略も少しは考えられるようになった」と手応えを感じてはいるものの、本格的に車いすフェンシングを始めてまだ1年半ほどの安は、国内の選手層も薄く、練習環境も整っているとは言い難い現状に危機感を抱く。国立スポーツ科学センター(JISS)でオリンピック選手に車いすに座ってもらい、胸を借りることもあるが、「JISSの環境は素晴らしく、ありがたい。でもやはり、(立って行う)健常のプレースタイルなので、少し違う。今は海外選手の動画を参考に、車いすのセッティングや動き方などを学び、試しながらやっている状態」と明かす。

それでも、来年からはワールドカップ転戦なども予定されており、「来年は海外にも行かせてもらえるし、もう少しうまいフェンシングを、来年か再来年くらいにできたらと思っています」と前を向く。

一方、善戦した加納は2013年に車いすフェンシングを始め、昨年1年間はさまざまな事情により競技を離れたが今年、復帰した。「今は、世界で戦うために徐々に状態をつくりあげているところだが、まだまだ足りていない」と振り返った。だが、競技人口の少ない中で互いを高め合える、安と加納のライバル関係は貴重だ。


日本選手権に続き2位だった加納

「安さんに簡単に優勝されるような状況でなく、僕が刺激を与えられるような存在にならないといけない。予選では勝ったが、決勝は始めに走られてしまったのが敗因。終盤に盛り返したが、課題も見つかった。今後は自分の納得いく技ができるようになり、東京パラリンピックでメダル獲得が期待されるような選手になりたい」と目標を話した。



健常者大会のメインのピストで実施

今大会は、日本フェンシング協会主催の「全日本フェンシング選手権大会(個人戦)」(12月1日から4日)の大会3日目に組み込まれる形で実施された。こうした同時開催は昨年に続いて2回目となったが、今年は特に予選プールから全9試合が、「ポディウム」と呼ばれる、会場中央に一段高く設えられたメインのピストで行われ、会場の注目を集めた。決勝戦以外の試合は会場隅の第1ピストで行われた昨年とは異なる対応だった。

日本フェンシング協会の星野正史会長は、「少しでも多くの人に、車いすフェンシングという競技を見てもらいたいと思ったから。昨年初めて同時開催したが、私たち(健常者)も学ぶ部分が多かった。車いすに座れば、誰でもできるし、(オリンピックメダリストの)太田雄貴だってプレーできる。オリパラ一体となってフェンシングを盛り上げていきたい」と意図を説明した。

車いすフェンシングにとっても同時開催の意義は大きい。健常の元代表監督で、車いす競技も長年支援してきた江村宏二氏は、「昨年の(同時)開催によって、多くの車いす選手たちにとって、『あそこでやりたい』というモチベーションになり、選手層の広がりにもつながっている」と手応えを話す。

パラリンピック金メダリストが強化選手を指導


今大会も優勝した安(前列左から2番目)
photo by Kyoko Hoshino

国内の車いす選手はここ数年で、40人ほどまでに増えた。とはいえ、競技レベルには幅があり、世界を目指せる選手はまだ一握りだという。個々の選手の強化とともに、潜在能力のある選手の開拓など課題は多い。

そんななか、日本車いすフェンシング協会では今年10月から、パラリンピック金メダリストで、香港人のフン・イン・キー氏を日本代表の専任のヘッドコーチとして招聘した。おかげで、3~4日の強化合宿を1ヵ月に2回、京都で開催できるなど新たな強化体制が整いつつある。



キー氏は2008年頃から日本の協会関係者と交流があり、臨時コーチとして年に数回来日し、日本選手の指導に携わってきた。そうした経験をもとに、さらに力を尽くしていきたいと語る。

「ヘッドコーチとして、東京パラリンピック出場や表彰台を狙うともに、車いすフェンシングを2020年の先にもつづくよう日本に根づかせることも大きな目標。今大会のような(同時開催の)機会は競技普及のよいデモンストレーションとなる。出場選手にとっても、観客の多い会場で試合をすることは大舞台に慣れる意味でも意義がある」

日本の車いすフェンシング界にとって、当面の最大目標は、地元開催の東京パラリンピックで活躍できるような選手の育成だろう。残された期間は決して長くない。選手や協会など関係者の一層の奮起と活動のスピードアップに期待したい。

text by Kyoko Hoshino
photo by AFLO SPORT
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