2016.12.15

【パラスポーツ】[障がい者スポーツフォーラム]水泳の木村、陸上競技の辻も登壇。リオパラリンピックのメダリストらが競技環境の現状を訴える

12月4日、日本体育大学世田谷キャンパスで「障がい者スポーツフォーラム2016」が開催された。障がい者スポーツを応援するために毎日新聞が主催するイベントで、2回目の今年は前回の210人を上回り、約300人の聴講者を集めた。障がい者スポーツへの関心の高まりを感じさせるなか、リオパラリンピックのメダリスト、水泳の木村敬一や陸上競技の辻沙絵らが、競技環境の改善などを訴えた。

見えない世界で勝負するアスリートの思い

イベントは3部に分かれ、第1部は視覚障がいのあるアスリートが見えない世界で競技に挑むことについて、元サッカー選手で、スポーツジャーナリストの中西哲生さんを進行役に、現役選手を含む5人のパネリストが語り合った。


水泳で東京パラリンピック出場を目指す富田

水泳でアジア記録(400m自由形S13/弱視クラス)を持ち、東京パラリンピックを目指す富田宇宙は大学時代に取り組んだ競技ダンスの練習で培った柔軟性や持久力が水泳にも活きているといい、社会人や学生などレベルの高い選手との練習で「普段以上の力が発揮でき、成長できる」と、健常の選手との練習機会の重要性を話した。

また、「障がいをもって競技することは、一般の選手より何倍もサポートを必要とする。その理解と協力に対して、結果で応えたい」と抱負を語った。


リオパラリンピック柔道日本代表の半谷静香は中・高校時代は一般の柔道部に所属していたが、視力が弱く、組手争いは圧倒的に不利で、突き指も多かったという。技の模範が見えず、友人の助けを必要とした苦労を語った。だが、「耐えてやり続けることで、できなかったこともできるようになり、自信になった。部活動をやり通せた達成感が視覚障がい者の柔道で日本代表になった現在にもつながった」と笑顔を見せた。

半谷もまた、最近はオリンピック選手との練習機会が増えており、「実際に組むことで、体さばきや動きを感じることができ、勉強になる」など、垣根を超えたトップ選手との練習のメリットを強調した。

暗闇のなかで、ブラインドサッカー選手が聞く「音」を体感

途中で盛り込まれた、「ブランドサッカー選手体験」は新鮮な試みだった。目隠しをして行うブラインドサッカーは「音」が頼り。いったいどんな音が聴こえ、どんな判断をしているのか――。特殊なマイクで事前に収録した、ブラインドサッカーの「競技音」が映像とともに流された。真っ暗になる時間もあり、来場者は選手になったつもりで、耳を澄ませた。

「競技音」が流された後、収録に協力したブラインドサッカー日本代表候補の落合啓士が音を頼りに転がってくるボールの位置を正確に把握するコツなどを披露すると、ブラインドサッカー体験経験もある中西氏は、「相手ゴールに向くことすら難しい」と語り、北京・ロンドンのオリンピック競泳日本代表で、リオはパラリンピックの取材者として現地に赴いた伊藤華英氏は、「自分に必要な音を聞き分けるのは、すごいテクニック。(簡単そうにプレーする様子を)見ているだけで、鳥肌が立つ」と舌を巻いた。

落合は、「見えなくても見えるように動ける人はたくさんいる。見えないことはネガティブなことではないというマインドを、サッカーというツールを通していろいろな人に伝えていきたい」と意気込んだ。

伊藤氏は、パラリンピック選手も、オリンピック選手と同様に、高い目標を立て厳しい練習を重ねているという意味で、「真のアスリートだ」と強調。「選手の障がいを理解すると、競技を見るときにももっと楽しめる。私も、見えない選手が、どうしてまっすぐ泳げるのかなど感覚的に知りたい。オリンピックもパラリンピックも互いの歩み寄りが大切」と話した。

中西氏は、「視覚障がい者のスポーツといっても、競技ごとに特徴や苦労がある。新たな理解と視点で、パラスポーツを観て、興味を持ってほしい」と聴講者に呼びかけた。

「練習場所の提供を」トップ選手が訴え


オリンピアンの伊藤氏らも登壇し、熱いトークを繰り広げた

第3部では「パラスポーツの力」と題し、リオのメダリスト2選手と周りで支えた指導者らが意見交換を行い、周囲の理解やサポート不足というパラスポーツを取り巻く課題が浮き彫りになった。

全盲のスイマー木村敬一はリオでは体調不良もあり、悲願の金メダルには届かなかったものの、5種目出場で4個のメダル(銀2、銅2)を獲得。「体調は絶不調だった。高校生だったら、学校は行かないっていうくらい」と、定評ある“ユーモラスなコメント”で会場を和ませつつ、苦しいなかでのメダル獲得に、「自分ひとりで戦ったわけでなく、コーチやチームメートなど大勢のサポートのおかげ」と感謝した。


一方、練習環境については、他選手と衝突しないよう1コース貸し切りが条件となるため、リオパラリンピック前の時期も、「借してくれる練習場を探して各地を転々とした」と苦労を明かした木村。「選手は競技を通して、いろいろなことを訴えられる大切な立場だし、今は訴えていくチャンス。この機会を大切にしながら、東京パラリンピックの会場が満席になり、日本人が大活躍できるよう精一杯がんばりたい」と前を向いた。

また、パラリンピック初出場ながら、陸上400mで銅メダルを手にした辻沙絵は、在学する日体大が陸上競技部内に昨年立ち上げたパラアスリートブロックのサポート体制がメダル獲得につながったと感謝した。その上で、「パラスポーツはリハビリの一環ではない。競技スポーツとして、環境も変化してほしい。また、パラスポーツは楽しいんだと、会場に足を運び、目で、肌で実感してほしい」と訴えた。

伊藤氏も、パラリンピアンはオリンピアンと違い、移動や生活など競技以外のサポートも必要であり、道具も使うので、製作技術の向上や金銭面の支援など理解を求めた。

障がい者スポーツを取材する毎日新聞の岩壁峻記者は、オリンピックに比べ、パラリンピック競技へのサポートは不十分だが、リオパラリンピックで初めて設置されたマルチサポートセンターの有効性を紹介するなどして、今後の進展に期待を寄せた。

フォーラムは予定の2時間を超える盛りだくさんな内容だった。4年後に控える東京パラリンピックや、「その後」にも向け、聴講者にはさまざまなことを考える、よいきっかけとなったのではないだろうか。


text & photos by Kyoko Hoshino
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