太田さんの話、ものすごく頷いて聞かれてましたね(笑)。
安 : はい(笑)。実際、すごく苦しんでますから。
太田 : それはね、フェンシングがうまくなるには必要なことですから。超回復みたいなもので、一回落ちないと上がっていかないんです。ジャンプするのと一緒ですよ。屈まないと。
安 : 去年の10月からその部分の強化を始めてるんですけど、ここまでやってきて、どんどん苦しくなってるような感覚があります。たぶん、もっとピュアな状態で車いすフェンシングを始めていたら違ったのかもしれないんですけど、僕は車いすバスケをずっとやってきて、それに対しては20年以上ずっと、野生の勘みたいなところで勝負してきたので。考えるっていうことに対して、すごく苦手意識があるんです。でも今は、向き合い続けるしかないんですよね。半年間やってきて、ようやくぼんやりと、駆け引きというものが見えてきてる状態です。
さらに強くなれる実感が得られているということでしょうか。
安 : いやいや、まだまだ。状況に合わせた攻め方を考えられないことも多いし、アイデアも引き出しも足りないですし。実際に海外の選手と試合する際も、コーチとのレッスンどおりに分析しながら戦えているかというと足りないですし。実感が得られてると言えるまでには程遠くて。悩んで苦しんでます(笑)。
太田さん自身はそういう苦しみはなかったんですか?
太田 : 僕は器用だったんですよね。思考と動作を一致させるのも得意だったし。それに僕はズル賢いので(笑)。うまくいっていない人たちからも学ぼうとするんです。うまくいってる人たちだけじゃなくて。「なぜあの人は、ああなっているのか」というのを、ずーっと見て分析するのも好きで。だけど、わかっていてもできないことって、誰にも必ずありますから。時間軸から逆算して、フェーズ的にその修正が間に合わない場合は、いいところだけを伸ばしていくことも必要。そのうえで弱点が邪魔をしないように修正作業をする。フェンシングの場合、一番よくないのは失点に直結するミス。それだけは修正したい。
安 : なるほど。そういう整理もできるといいですね。
太田 : 失点に直結するミス──たとえば、構える時のクセとかね。強い選手って、試合をしながら相手の構えのクセだけで、その狙いを読めたりするから。やはり野球のピッチャーのフォームと一緒。腕の振りがストレートと変化球で違えば打たれてしまうけど、同じだからバッターはチェンジアップで空振りするわけで。だから、構えのクセをコントロールできれば、それすらフェイントに使えるようになります。
安 : 言ってること、すごくわかります。理解もできるんですけど、実際に自分のフェンシングの状態を考えると、一筋の光がようやくうっすら見えてきたようなところなので。遠いなあって思ってしまうというか。たとえば、僕のクセでいうと、とにかくポイントを欲しがってしまって、焦ってアタックをしてしまう時があるんです。そうすると、だいたい失点してしまう。
太田 : そういう時、僕だったら、ポイントを欲しがる理由はどこにあるか?と考えてみます。なぜ欲しがってしまうのか、どういう条件が重なったら欲しがってしまっていたのか。
なるほど。ものすごく思考するスポーツなんですね。
安 : どうやらそうみたいなんですよね。車いすバスケは肉体的にハードで、練習だけでも疲労で動けなくなったりする。車いすフェンシングはそこまで体は疲れないんですが、なんかこう、あくびが出る疲れがあります。メンタルもハードだし。競技にちゃんと向き合うほど、顔を背けたくなるというか。