-
- 競技
-
水泳
一体どうやって対局してるの!?全盲のスイマー、金メダリストの木村敬一選手の趣味は、将棋!
全盲のスイマーで、東京2020パラリンピックの金メダリスト木村敬一選手の趣味は、なんと将棋!人が視覚から得る情報は8割と言われる中、盤面も対戦相手の表情も見られない木村選手は、一体どうやって対局しているのでしょうか?どうしてそんなに将棋にハマっているのでしょうか?木村選手自身が発案し行われた、ファンと将棋で交流するイベント『HEROs DREAM』に潜入し、直撃インタビューしてきました!
ーー初めにズバリ質問です。全盲の木村選手は、どうやって対局しているのでしょうか?
木村選手(以下、木村): 視覚障がいのある人用の将棋盤を使って対局しています。角や桂馬など斜めに動く駒は、盤面の全体を把握しながらやらなくてはいけないので、それは普通に難しいところではありますね。
ーー頭の中に盤面が浮かんでいるという状態ですか?
木村: 浮かんではいます。でも途中でどこに駒があるのか分からなくなってくるので、駒や盤を触りながら現在の状況を把握するんです。対局の回数を重ねていくと、ある程度パターンが分かってくるので、相手の先の手の想像がつくようになってくるんです。
ーーそもそも、どんなきっかけで将棋を始めたのでしょうか?
木村: 将棋を初めて教わったのは小学生のときです。寮生活をしている中で、指導員の先生から教えてもらいました。でも、それからは全然やっていなかったんですよ。それで数年前、アメリカにスポーツ留学をしたんですけど、時間を持て余していたときに、ふと将棋のことを思い出したんです。それでオンラインの将棋をやり始めました。大体1日で3局くらいやっていたので、今までに計3000局くらいやっていますね。
ーーそんなに対局しているんですか!木村選手はどんなところに、将棋の面白さを感じているのですか?
木村: 水泳は自分との勝負ですが、将棋には相手との駆け引きがありますよね。自分が指したい手と、それをさせまいとお互いが先を読み合い、最終的に勝ちを取りにいく楽しさがある。そこが面白いですね。
ちなみに、水泳ではスタート前の緊張はありますが、泳ぎだしてしまえば緊張というのはないんですよ。でも対局中はずっと緊張したままですね。
ーーイベント中、解説の中村桃子女流二段が何度も「ぐいぐい攻めてますね」とおっしゃっていましたが、やはり戦法は水泳と同じ「攻め」ですか?
木村: 僕はめんどくさがり(笑)なので、ひたすら攻めの一手です。守りに入っていると対局もなかなか進まないので、どんどん駒を動かしていきたいタイプですね。
ーー今回のイベント「HEROs DREAM」では同じくパラ水泳の金メダリスト、鈴木孝幸選手と対戦していましたが、お二人はすごく仲が良さそうでしたね!
木村: 僕がアメリカに留学していた時期に、ちょうど鈴木選手もイギリスに留学していて、よく電話で話しながらオンラインアプリで将棋を指していた仲なんです。毎回、時差がどのくらいあるかよく分からない状況で長電話になって、「もうこっちは真夜中ですからね!」とかブーブー文句を言いながら対局していましたね(笑)。鈴木選手は僕より先に海外でトレーニングをしていたので、いろいろなアドバイスをもらったり、将棋を通して交流する時間は、すごく有意義なものでした。ちなみに勝敗は、僕の5勝40敗くらいです……。
ーー改めて、木村選手にとって将棋はどんな存在ですか?
木村: 将棋はふとした時間を楽しく埋めてくれる存在です。実は東京パラリンピックの選手村でもよく将棋をしてました(笑)。4人部屋だったんですが、僕、鈴木選手、山田拓朗選手は将棋を指せましたけど、窪田幸太選手は将棋を始めたばかりだったんです。一番年下なので、「お前もやるぞ!」と無理矢理誘ったんですけどね(笑)。今回の大会は、部屋で過ごさなくてはいけない時間が多かったので、自分たちでうまく競技とプライベートのオンオフを作っていかなくてはいけなかった。そこでみんなで将棋を指せたというのは、チームとしてもすごくよかったですし、リラックスできましたね。
ーー木村選手が東京パラリンピックで金メダルを獲得できたのも、将棋のおかげ!?
木村: そこまで大きな影響があったかは分かりませんが(笑)。でも、選手村での時間を楽しく過ごせたのはすごくよかったです。水泳に限らず、将棋のような趣味も一つのことを続けて頑張っていけばより楽しくなっていきますよね。今回みたいなイベントも開催できて、仲間も増えるわけですから。なので今後は将棋ももうちょっと強くなりたいと、今回のイベントで改めて思いました。パラアスリートである僕が将棋を通して発信していくことで、パラスポーツという新しい世界、違う世界をもっと多くの方に見せられるようになれたらなと思います。
好きな将棋について、天性のポジティブさを武器に、ユーモアや自身の体験を交えつつ熱く語ってくれた木村選手。個人戦で木村選手に勝った10歳のファンには「好きなことで強くなっていけば、友だちも増えていくよ」とアドバイスするなど、印象的な笑顔と場を和ませてくれる人柄は、鈴木選手もムードメーカーだと言っていたとおりでした。今後も将棋イベントを開催していきたい!という木村選手からますます目が離せません!
※おまけ※
木村選手が東京大会で金メダルを獲得した際の記事はこちら↓
水泳・100mバタフライ木村敬一、ライバルがいたからこそ流せた「君が代」
https://www.parasapo.tokyo/topics/63533
PROFILE 木村敬一
1990年生まれ、滋賀県栗東市出身。2歳の時に病気で視力を失い、10歳のときに水泳を始める。2008年北京大会から4大会連続でパラリンピックに出場。ロンドン2012大会で銀メダル1・銅メダル1、リオ2016大会で銀メダル2・銅メダル2を獲得。東京大会での金メダル獲得のために日本では出来ることをやりつくした、との想いから、渡米。東京2020大会では100m平泳ぎで銀メダル、100mバタフライでは悲願の金メダルを獲得した。
text by Jun Nakazawa
photo by Daisuke Taniguchi, 日本財団HEROs