世界中から問い合わせがくる日本発のスポーツ「スポGOMI」が今かなり熱い!
SDGsというキーワードが浸透した近年、私たちが解決すべき社会課題に関するイベントが日本全国で行われるようになった。それはとても喜ばしいことではあるが、残念ながら一過性であることも少なくない。そんな中、ゴミ拾いとスポーツを組み合わせることで、環境問題の解決を「持続可能」にした人たちがいる。その名もずばり「スポGOMI」。生みの親である馬見塚健一さんにお話を伺った。
ゴミ拾いにスポーツを組み合わせたスポGOMIとは?
スポGOMIとは、ゴミ拾いとスポーツを組み合わせた、日本生まれの新しいスポーツ。簡単に説明すると、決められたエリア内で、制限時間内に一番たくさんのゴミを拾ったチームが勝ち。これのどこがスポーツなのか? 開催される場所や大会ごとにルールは微妙に異なるが、まずは基本的な実施方法を紹介しよう。
(1)チーム戦で行う(基本は3~5名)
(2)1試合60分とする
(3)決められたエリア内でゴミを拾う
(4)拾ったゴミは各自治体の決まりに従って競技時間内に分別する
(5)集めたゴミの重さによって燃える、燃えないなどの種類ごとに定められたポイントを獲得。その合計で勝敗を決める
その他にも細かい決まりはあるのだが、こうした基本的なルールはスポGOMIの生みの親、馬見塚さんが代表理事を務める一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブが試行錯誤を重ねてたどり着いた内容なのだそうだ。
なぜチーム戦なのか?
より多くのゴミを拾うだけなら、個人戦のほうが効率がよさそうだが、チーム戦にしたのには理由がある。
「スポGOMIでは競技の前に作戦タイムを設けているんですが、ゴミを分別しながら拾う、あるいは先にゴミを拾えるだけ拾って最後の10分で分別するなどチームによって作戦が違ってきます。チームで作戦を立て、みんなで協力することで、スポーツ性が高まりますし、モチベーションも上がります。実際、チームワークがいいチームが上位に入賞するケースが多いですね」(馬見塚さん)
また獲得できるポイントの中でも、タバコの吸い殻は特にポイントを高く設定しているのだが、これにも理由がある。
「たとえば、燃えるゴミは100グラム10ポイント、燃えないゴミは100グラム5ポイントに対して、タバコの吸い殻は100グラム100ポイント。これは、小さいお子さんから高齢者まで1つのルールの中で競い合っていただきたいから。小さくて軽いタバコの吸い殻なら、小さい子どもでも簡単に拾えます。ですから小さなお子さんのいるチームが優勝するといったドラマも生まれる可能性があるんですね」(馬見塚さん)
一般的なスポーツではハンデとされる性別や体格などを気にせず、誰もが一緒に参加し、チームの勝利に貢献できるのがスポGOMIの特徴のひとつ。そのため家族で参加する人たちや、過去の大会では最高年齢89歳の参加者もいたという。
ゴミ拾いが楽しい! だからこそ起きた「行動変容」
スポGOMIが誕生してから10年以上が経つが、その中でいくつか印象に残ったエピソードがあると馬見塚さん。
「新潟県三条市で、スポGOMIを開催した時のことです。参加してくれた小学5年生の男の子たちが、翌日学校で先生に『昨日スポGOMIというイベントに参加したけれど、楽しかったし、いいイベントだったから学校でもやってみたい』と相談したそうです。でも先生はスポGOMIを見たこともないし、学校の外に出るのは危ないので、学校内でという条件付きで許可が出た。しかし、学校内にはあまりゴミは落ちていないですよね。そこで、彼らはクラスのみんなと相談して、学校にある解決すべき課題を考えたそうです。そこで思いついたのが落書き消し。自分たちでルールを作って、学校内で『スポーツ落書きけし』をやったんです。それを聞いた三条市の市長が、彼等を表彰したそうで、我々も感謝状を贈りました」(馬見塚さん)
その時に馬見塚さんが感じたのは、子どもたちの持つ可能性。スポGOMIを体験したことで、自分たちの日常の中にある課題を見つけ、ルールを作り、クラスメイトや大人たちを巻き込んで実行する子どもたちの力に驚いたそうだ。同時に、スポGOMIがその行動変容のきっかけになったことが嬉しかったという。
スポーツは魔法のキーワード
2008年に馬見塚さんが初めてスポGOMIを開催しようとした際、自治体の理解を得るのに大変苦労をしたそうだ。自治体からは「単なるゴミ拾いと何が違うのか?」「街中でスポーツをするなんて危ない」と、最初は許可がおりなかった。ようやく実施に漕ぎ着けた後も、他のゴミ拾いをしている団体からは「遊び半分だ」と批判されることもあった。しかし、それでもブレずに続けてきた結果、現在では日本全国のさまざまな都道府県で実施、自治体だけでなく企業研修での利用やユニクロとの共同開催も。また近年では海外からのオファーもありマレーシアや韓国などでも実施された。いくら社会課題を解決する、世の中のためになると言っても、単なるゴミ拾いだったら、ここまで広がることはなかっただろう。
「僕はスポーツって魔法のような言葉だなと思っていて、海外で僕らがスポGOMIを開催できるのも、スポーツだからだと思うんです。普通のゴミ拾いだったら、自分たちで勝手にできちゃいますよね。でもスポーツというキーワードがあることで『ルールがあるみたいだから、きちんと聞かないと実施できないぞ』と思ってくれるみたいなんですね。先日も『どういうスポーツですか?』と問い合わせがインドネシアからあって、インドネシアで実施することができました。これもスポーツだからこそです」
先日、荒川で行った大会では、小学校6年生の女の子たちのチームが優勝した。彼女たちはそれぞれ違う中学校に進学するため卒業の記念に参加したそうで、優勝したことを知ると全員が号泣したという。単なるゴミ拾いだったら、号泣することはなかっただろう。仲良しのみんながチームとして力を合わせたスポーツだったからこそ、優勝できて嬉しかったのだ。
今、スポーツ甲子園が熱い!!
スポGOMIは先程紹介した基本的な競技の他、時代を反映したeスポーツと組み合わせた「eスポGOMI」や、パラアイスホッケーの元日本代表選手、上原大祐さんが発案した「車いすスポGOMI」などさらなる進化を遂げている。そして近年、特に熱い戦いを繰り広げているのが「日本財団 海と日本プロジェクト スポGOMI甲子園」、通称「スポGOMI」だ。
これは、全国の地区予選を勝ち抜いた高校生チームが決勝大会に進み、全国一位を決める大会。2019年にスタートして、今年は4回目。最初は人数が少なかった高校生にも参加してほしいと始めた企画だったそうだ。
「高校生は受験があるし、部活動にも忙しいから、参加者が集まるだろうかと不安でした。しかし蓋を開けてみると、びっくりするほどの人数が参加してくれて、今年は35もの都道府県からエントリーがありました。中には『去年、先輩が地方予選で敗れたので、私たちがリベンジしに来ました』とか、『昨年負けて悔しかったので、今年は練習をしてきました』と言ってくれる子たちもいます。わざわざゴミ拾いの練習をしてきてくれるんですよ。嬉しいですよね」(馬見塚さん)
また、スポGOMI甲子園では、ゴミ拾いのために自分たちで作ったアイテムを持ち込むことが認められていて、いいアイテムを開発したチームにはオリジナルアイテム賞が授与される。その賞を狙って、体育会系だけでなく文系の高校生も参加するなど、かなりの熱戦となっているそうだ。
ゴミ拾いはあらゆる環境問題解決の第一歩
スポGOMIは、始めた当初はなかなか理解を得られず、苦しい思いをしたこともあると馬見塚さん。しかし14年の間、諦めずに続けてきたことで、今こうして日本を跳び越え、世界にも広がりを見せている。
「今地球上で起きている環境問題は、1つの方法で解決できる問題ではありません。そしてその原因の多くは人類が作ってしまったことなので、我々人間が解決しないといけない。そしてそれは、1つ1つの小さな積み重ねでしか解決できないと思っているんです。自分たちができる小さなことが積み重なって1つになったとき、問題を解決できる大きな力になる。その一番最初のフェーズがゴミ拾いだと僕は考えています。ゴミ拾いをすることで、ゴミを捨てないようにしよう、買ったものは大切に使おう、買うならば再利用できるものにしようなど、いろいろな気づきが生まれる。そうしたきっかけになるのがスポGOMIだと思っています」(馬見塚さん)
馬見塚さんの夢はいつか、全ての国連加盟国の人たちがスポGOMIを一度はやったことがあるという未来。各国、ゴミ処理の状況は違うため実現には壁もあるが、スポーツであるスポGOMIならば、それも実現可能なのではないだろうか。
スポGOMIの参加者の中には、ゴミを見つけると嬉しくなると同時に、「ゴミは本来はない方がいいはずなのに」という矛盾を感じる人もいるという。しかしそのモヤモヤこそが、環境問題を意識するための第一歩なのだ。スポGOMIのホームページにはこんな言葉が記されている。
ゴミ拾いはスポーツだ。
私たちは、この世の中からこのスポーツ自体が無くなることを目指して活動をつづけていきます。
いつかスポGOMIがその役目を終えてこの世界から消えてしまうまで、どれくらいの時間がかかるだろうか。それが早いのか遅いのかは地球上に暮らす私たちの心がけ次第。まずは第一歩を踏み出すためにスポGOMIに参加してみてはどうだろう?
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ
スポGOMI公式HP/https://www.spogomi.or.jp