大谷翔平も使ったマンダラチャート。仕事にも活きる「9マスの思考法」の秘密とは
今年、日本でもっとも注目されたアスリートのひとり、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。誰もが難しいと思った二刀流での成功をメジャーリーグで実現した彼が、高校生の時に書いていた「目標達成シート」の原型が「マンダラチャート」。目標を達成する9マスの思考法の理論とその応用法について、一般社団法人マンダラチャート協会代表理事の松村剛志氏にお話を伺った。
マンダラチャートは思考を整理するフレームワーク
マンダラチャートとは、仏教の中でも密教の世界観を表した仏画「曼荼羅(マンダラ)」のような図を利用した思考法のこと。大きくわけて「A型チャート」と「B型チャート」の2種類がある。前者は3×3の9マスからなり、目標やテーマに合わせて9つのマスを自分で埋めていく。これをさらに展開していったものが「B型チャート」だ。大谷選手が高校生の時、このマンダラチャートを原型にした目標達成シートの中央に書いていたのは「ドラ1 8球団」という言葉。つまり「ドラフトでプロ野球8球団から1位指名を受ける」という目標だ。
このエピソードから、マンダラチャートは目標達成のためのシートと思っている人が多いようだが、実は効果が及ぶのはそれだけではないと松村氏。
「マンダラチャートは経営コンサルタントだった私の父、松村寧雄(やすお)が1980年に仏教の密教の曼荼羅をもとにして開発したものです。曼荼羅はお釈迦様の教えをわかりやすく伝えるために密教の弟子たちが作ったもので、現代風に言うならば、難しい文章で綴られた経典をビジュアル化したものということですね。これを応用してフレームワーク化したのがマンダラチャートです」(松村氏、以下同)
マンダラチャートはロジック・ツリーやPDCAサイクルなどと同じフレームワークなので、思考整理や現状理解、顧客分析、課題解決など、ビジネスやマーケティングの世界でも活用できるのだそうだ。
「マインドマップ」との違いは?
マンダラチャートと似たフレームワークに、アイデア出しなどに役立つ「マインドマップ」がある。マンダラチャートとはどう違うのだろうか?
「マインドマップは自由に白紙の状態から広げていくので、自由度が高いのが特徴です。一方マスのあるマンダラチャートは原稿用紙を埋めていくようなイメージです。どちらが優れているということはなく、発想を膨らませるブレストのような時にはマインドマップを使い、全体像を把握したり、人に伝えるような時には、マンダラシートを使うというように使い分けてもいいかと思います」
確かに、もしも目標達成や課題解決の方法を白い紙に自由に書いていいと言われても、それほどの数は書けないのではないだろうか。あるいは書けても、方法が偏ってしまう可能性もある。ところがマンダラチャートの場合、最初に項目分けした枠があるので、多視点でバランスよくアイデアを出すことができそうだ。
埋められないマスは自分自身の伸びしろ
とはいえ、マス目を全て埋められないという人もいるだろう。特にB型チャートは81マス、中心の9マスと周囲のブランチの中心を除いても64マスもあるのだ。
「書けない部分があるとしたら、そこは伸びしろです。たくさん書けるところは、普段から関心が高いこと、実践していること。何を書いたらいいかわからないマスがあるとしたら、それはこれから関心を向けられる、力を注ぐことができることに気づけたということですから、チャンスなわけです。そこは空欄のままにして、後で埋めていけばいいですし、チームで1つのマンダラチャートを作成してもいいんです」
B型チャートは企業研修などで使うことが多いそうで、会社ならば同じプロジェクトの仲間、スポーツならば同じチーム、夫婦や家族で取り組むこともできるという。
「自分一人では発想に限界があって埋められない部分があっても、仲間と一緒に作ると意見を出し合って協力しながら作っていくことができます。これによってコミュニケーション、ブレインストーミングができるので、組織内で意思疎通をはかるのにも適しています」
PDCAサイクルではなくCAPDサイクル
ビジネスシーンでは当たり前になっているPDCAサイクル。これはPlan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の仮説・検証プロセスを繰り返し、業務改善などに役立てるというもの。
「マンダラチャートを開発した私の父は『仏教―(マイナス)宗教=システム思考』だということに気づき、人生とビジネスを豊かにする発想法として曼荼羅を活用することを思いつきました。仏教には、『苦集滅道』という考えがあります。これは、PDCAではなく、順番を変えたCPADサイクルになっているんです」
仏教の苦集滅道とは
- 苦:人生で出会う様々な問題や困難、試練
- 集:問題や困難、試練を生み出している原因
- 滅:問題や試練が解決された状態
- 道:「滅」に至る方法
「マンダラチャートで問題解決をする場合は、この『苦集滅道』、つまりCAPDサイクル手法を使うといいと思います。いきなり目標を立てるのではなく、1番目に現状を分析してチェックする。2番目に原因を考える。3番目に理想の状態を描く。4番目に実践活動をする。こうしたサイクルを意識してマスを埋めていくと、やりやすいと思います」
こんなことにも使える、マンダラチャートの活用法
マンダラチャートは貯金やダイエット、事業の成功など、目標達成に役立つのはわかるが、それ以外にどんな使い方があるのだろうか。
「マンダラチャートは難しいことをわかりやすく多くの人に伝えるための曼荼羅が起源ですから、マインドマップのように発想を広げるのと同時に、人に何かを伝える時にも役立ちます。たとえば一般的な企画書や報告書、議事録などをWordで作る場合、ページが何枚にもなり、最終的に何を伝えたいのか分からなくなることがあります。しかしマンダラチャートを使えば、1枚で完結するので、相手に伝わりやすく、読む側もひと目で全体像を把握することができます。たとえば、A型チャートを新規商品開発の企画書を作るとします。その場合、いつ、どこで、誰が、なんのために使う商品なのか、といった5W2Hを1枚にまとめることができます」
この他にも、松村氏の著書『仕事も人生もうまくいく!【図解】9マス思考 マンダラチャート』には実際に松村氏のセミナーで参加者が作ったマンダラチャートがいくつも掲載されているが、その目的は実に多彩だ。最後にその一部をご紹介しよう。
《A型チャート》
- 例1:自社のホームページを作成(会社経営者)
- 例2:ひろしま国際平和マラソンに参加(30代女性)
- 例3:高次脳機能障害の90歳の母の闘病を支える(60代女性)
《B型チャート》
- 例1:自社の成長(不動産業経営者)
- 例2:プロ野球選手になる(小学校6年生男子)
- 例3:台湾旅行記(20回以上台湾に渡航した方)
B型チャートの例3、「旅行記」は意外な使い道だが、マンダラチャートは何かの記録や報告書、レポートとしても役立てられるのだ。このようにマンダラチャートの利用者は子どもから大人まで、目的も趣味や仕事、親の介護や旅行記など多岐にわたっている。マンダラチャートには使う人や目的を選ばない無限の可能性があるようだ。
松村氏は自身の著書の中で次のように語っている。
――『仕事も人生もうまくいく!【図解】9マス思考 マンダラチャート』(青春出版社)より
アイデア次第でどんな目的、目標にもたどり着ける地図を作ることができるマンダラチャート。後編では、その具体的な書き方や使い方について解説する。
<後編を読む>
大谷翔平と同じメソッドで目標達成・課題解決!「マンダラチャート」の書き方・実践方法に迫る
https://www.parasapo.tokyo/topics/109598
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真・素材提供&取材協力:一般財団法人日本マンダラチャート協会
https://mandalachart.jp/
<参考図書>
『仕事も人生もうまくいく!【図解】9マス思考 マンダラチャート』
松村剛志著・青春出版社刊
『日本人メジャーリーガーが目標達成した!夢を叶えるマンダラチャート』
マツダミヒロ著 松村剛志監修・宝島社刊