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パラリンピックの人気競技・ボッチャに夢中の18歳、一戸彩音の素顔
屈託のない笑顔は、ボッチャを楽しんでいる証――18歳でパリ2024パラリンピックに初出場する一戸彩音(いちのえ・あやね)は、女子クラスが新設されたボッチャ日本代表の最年少です。パリ大会でブレイク必至のスター候補を紹介する“TOP PROSPECT(有望株)”第7弾は、次世代を担う一戸選手にフォーカス!
一戸 彩音(いちのえ・あやね)|ボッチャ
先天性の脳性まひ。中学校1年生のときに、学校のボッチャ部に入ったのがきっかけで競技を始める。東京都立小平特別支援学校時代に全国ボッチャ選抜甲子園で優勝を経験。2024年3月、ポルトガルで開催されたパラリンピック最終予選会では、有田正行と組んだBC3ペアで準優勝し、パラリンピックの出場権を手に入れた。スタイル・エッジ所属。東京都出身
高校時代に頭角を現す
――高校時代は、特別支援学校でボッチャに取り組む生徒たちの夢の舞台「全国ボッチャ選抜甲子園」で活躍しました。一戸彩音(以下、一戸):この3月に東京都立小平特別支援学校を卒業しました。在学中の3年間は、とにかくボッチャ甲子園に向けて取り組んできました。ボッチャ甲子園はチーム戦で行われるのですが、そこで学んだコミュニケーションが、いま日本代表として国際大会に出場しているペア戦につながっています。
――社会人になり、練習環境に変化はありましたか。一戸:高校時代は、基本的に週末や祝日に練習していましたが、社会人(編集注:一戸選手はアスリートとして企業に勤務)になり、いまは週4~5日、体育館を確保できれば8時間程度練習に費やすことができています。
――パリパラリンピックでは個人戦とペア戦に出場します。ペアの有田選手とは合宿を積んでコミュニケーションを高めてきました。
一戸:最初は本当に大変でした。私の滑舌が悪くて、有田選手もなかなか私が何を言っているのか聞き取れなかったんです。でも、最近では、ランプオペレーターの賢司さんよりも私の言葉を聞き取っているのでは、というくらいコミュニケーションが取れていると思います。戦術の細かいところまで話ができるようになりました。
――ところで、ランプオペレーターのお父さんを賢司さんと呼んでいるのですか。一戸:みんなが賢司さんって呼ぶから(笑)最近、ボッチャのときは賢司さんです。でも合宿中もホテルに戻ると「パパ」ですね(笑)
――自宅でも親子の会話の中心はボッチャ?一戸:いいえ、私はボッチャを家に持ち込まないようにしています! というのも、話を始めるとずっとボッチャの話ばかりしてしまいそうで……なるべく移動の車の中で話を終わらせるようにしています。
キーワードは“笑顔”
――パラリンピックは初出場。パリになにか“お守り”は持って行きますか。一戸:パラリンピックだからというわけではないんですけど、卒業した高校の友だちからもらったメッセージカードを持って行こうかな。写真でいつでも見られるようにスマホにいれているんです。
――カードには、どんな言葉が書かれているのですか。一戸:“勝つ”じゃなくて“笑う”と書くんですけど、“必笑(ひっしょう)”という言葉が記憶に残っています。
――ボッチャの会場となるパリ南アリーナは、パリオリンピックでは卓球やバレーボールが行われました。オリンピックはテレビなどで観戦しましたか。一戸:オリンピックは時間が遅かったので、たとえば開会式は最初のほうしか見られませんでした。合宿中は夜、ホテルでハンドボールなどいろんな競技をちょこちょこ見ていました。
パリが近づいてきたなと思うと、緊張とわくわくの両方がありますが、 それも含めて楽しみたいです。
一戸:一番若いので、その勢いで“火ノ玉JAPAN”を盛り上げていきたいです。
――最後に、パリパラリンピックの目標を教えてください。一戸:私は楽しむことが大事だと考えているので全力で楽しんでプレーしているところを応援していただきたいと思っています。メダルも大事なんですけど、パラリンピックに出られるということを噛みしめてしっかり楽しんでいきたいと思います。
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名前の漢字は「いろどるおと」と書いて「彩音」。元バンドマンであり、現在も音楽関係の仕事をしている父が「いろいろな色があり、感性が豊かな子に育ってくれれば」という思いを込めてつけたといいます。娘がスポーツ選手になる想像は「全然していなかった」が、「彼女が楽しめるように目いっぱい頑張り、その楽しむ姿を見て自分も楽しみたい」と賢司さん。この夏、パリの大舞台で堂々とプレーする一戸彩音、そして隣で共に戦う父の姿にも注目が集まります。
text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda