【海外武者修行日記】車いすバスケットボール・赤石竜我、競技人生初の挫折を乗り越えて

2025.04.18.FRI 公開

ドイツ1部リーグ「ケルン99ers」でプレーしている車いすバスケットボール赤石竜我。赤石にとって初挑戦となったリーグ戦は2025年3月で終了。今は4月の「ユーロカップ1」への出場に向け、練習に励んでいる。全3回シリーズの最終回となる今回は、渡独から半年で得た経験や変化、来期さらにはロサンゼルスで行われるパラリンピックへ向けての思いを聞いた。

赤石 竜我(あかいし・りゅうが)|車いすバスケットボール
2000年9月11日生まれ、埼玉県出身。東京パラリンピックで銀メダルを獲得した男子日本代表の最年少メンバー。来期もドイツ・ケルン99ersでプレーする。オフの楽しみは、『薬屋のひとりごと』『俺だけレベルアップな件』など5、6作分のアニメシリーズの最新話を動画配信サービスHuluで一気見すること。アウェイの試合ではブーイングが半端ないというが、気にならないそう。ただし「子どもたちの声援を聞くとがんばろうと思います」。コロプラ所属。

ケルンもすっかり春

ドイツ・ケルンに来て半年が経ちました。こちらもすっかり春で、だいぶ日が伸びています。暖かくなるにつれて街行く人たちの服装も軽やかになり、薄手の長袖1枚という人もいますし、僕のチームメートには早くも半袖という人も。僕が厚手の上着を着ていたら、半袖のチームメートから「なんでジャケットなんか着てるんだよ」なんてツッコまれたこともありました。

ケルン99ersでプレーする赤石

もともと鼻炎気味で花粉症でもあるのですが、ドイツでも花粉症を発症したんですよ。3月の初旬に鼻水がすごく出たので最初は風邪かなと思ったのですが、熱が出ないので、もしやと思い日本から持ってきた花粉症の薬を飲んだら症状が緩和して。こっちでも花粉が飛んでるんですね。幸い、プレー中は集中しているしアドレナリンが出ていることもあって、さほど気にならずに済みましたが。

オフは相変わらず自宅でゆっくり過ごすことが多いのですが、先日、ライン川沿いをぷらっと散策してみました。ケルンにあるチョコレート博物館の入口近くにあるおみやげコーナーをのぞいた後、その隣にある「ドイツ・スポーツとオリンピック博物館」 に入って見学。ドイツ代表の選手たちやオリンピックに関わる展示がたくさんあって、思いのほか楽しめました。僕はNBA好きのバスケファンなので、偉大なNBA選手だったダーク・ノビツキーのユニフォームが飾られているのを見たときは興奮しました! 自分が知っている選手のゆかりのものを間近で見られるとテンションが上がるものですね。

ロサンゼルスに向け、100%バスケットボールに集中できる環境を選択した赤石。「ドイツに来て本当によかった」

料理の腕前もアップ!

この半年で成長したなと思うのは、料理の腕! ドイツに来た当初はYouTubeを見ながらレシピ通りに作っていましたが、今はちょっと砂糖の分量を増やしてみようかなんて自分でアレンジしながらパパっと作れるようになりました。それこそ親子丼など何度も作っているメニューは、最初の頃よりだいぶおいしくできるようになったなあ、なんて自画自賛しています。料理が上達したのは、調味料にめんつゆを使うようになったからでもあります。めんつゆってすごく万能で、オイスターソースと合わせると味が決まって、いい感じになるんですよ。

基本、自炊なのですが、ときどきチームで外食もします。おいしいなと思うのは、ピザです。練習後や遠征先で食べる機会があるのですが、こちらの生地は薄くてサクサクしていて食べやすいですし、味もしっかりしています。一人1枚ずつ注文するのですが、僕はあまり外したくないので、王道のマルゲリータを頼むことにしています。イタリア料理って世界のどこで食べてもおいしいような気がするので、本場ならなおさらでしょうね。イタリアに住んでいたことがあるチームメートが「イタリアの料理はめちゃくちゃおいしい。きっと気に入るよ」と言っていました。4月にユーロカップに参戦するため初めてイタリアに行くので、本場のイタリアンをいただくのが今から楽しみです。

次の試合は、ユーロカップ1だ

心折れる敗戦が成長させてくれた

車いすバスケットボールのリーグ戦が3月で終わり、僕たちのチームは7位で2024/2025シーズンを終えました。ドイツでは、RSVランディルとRSBテューリンギア・ブルズ(以下、ブルズ) という2強がトップ争いをしているのですが、とくにブルズの強さは衝撃的でした。

世界的名将のハジ・バーニアコーチ(右)と赤石

ブルズは今、ヨーロッパで一番強いクラブではないかと思います。僕は昨年末に初めて対戦したのですが、あまりの強さに、試合の前半で心が折れて思考が停止してしまって……。あんなことは初めてでした。ヘッドコーチのハジもそれを察したんでしょうね、ハーフタイムでベンチに下げられたため、後半はなすすべもなく試合を見ていたのですが、結果は47-95。あまりに衝撃的で放心状態になり、家に帰ってからも、しばらくは何もできませんでした。

僕たちとブルズは何が違うのか。すごく悩んだ末、チームとして40分間やり続ける力なのではないかと個人的には考えています。
どんなに強いチームでも試合の中で波とか流れがあるものです。でもブルズは40分間通してチームとしてのプレーのクオリティが落ちませんでした。大差になってもコミュニケーションをとり続け、ちょっとしたミスにも本気で悔しがり、最後の最後まで全力で相手を叩き潰しにいく。チームとして、選手としての実力はもとより、意識も全然違うのでしょうね。これが本当に強いチームなんだと思ったし、その差を見せつけられたのが本当に悔しかったです。

ドイツリーグでチームは7位だった

僕にとって、あの試合はターニングポイントになりました。「まだまだダメだ」と痛感しましたし、「何のために俺はドイツに来たんだ」と改めて考えさせられた結果、より一層練習への向き合い方や日々の過ごし方が変わりました。以前行っていたメンタルトレーニングもこの2月から再開したんですよ。

いろいろな取り組みが功を奏したのか、今年に入って調子が上向き、得点も増えていきました。アウェイ戦となった2回目のブルズ戦では、試合終了のブザーが鳴るその瞬間まで全力で立ち向かい続けることを目標に試合に臨みました。結果は、42-105と前回より点差が開いてしまったのですが、個人的には次につながる負け方はできたかなと思っています。

ホームの試合は「ファミリー感のあるサポーター」が駆けつけ、客席を埋める

4月には、ヨーロッパのクラブチームが集まって戦う「ユーロカップ1」があります。僕が全く知らないチームと対戦することになるのですごく楽しみですし、大会を通して自分自身が成長できる場にしたい。もちろん、やるからには優勝を目指します。

また、ドイツの国内リーグでは特に後半戦、2点差、4点差で惜敗した試合がありました。来シーズンはぎりぎりの試合を勝ちに持って行って、プレーオフ進出を狙いたい。そのためにも、今まで以上に細かいところにこだわり続けることが必要かなと思っています。

赤石は、来期もケルン99ersでプレーする

改めてとなりますが、出場できなかったパリからロサンゼルスまでの4年間、バスケットボールに本気で向き合って全力で突っ走ろうと自分自身に誓いました。100%バスケットボールに集中できるこの環境は本当にありがたいですし、ドイツに来てよかったと心の底から思います。だからこそ、「赤石竜我がいるチームはやっぱ強いよね、勝てるよね」と思わせられるような選手になりたい。そして、日本代表でもほかの誰かを頼るのではなく、自分がチームを勝利に導くんだというマインドで引っ張っていける、そんな選手に成長していきたい。そのためにも、来期も自分自身にフォーカスしてがんばります!

text by TEAM A
photo by Laci Perenyi

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