ウィルチェアーラグビー日本一決定戦で沖縄が3連覇!

ウィルチェアーラグビー日本一決定戦で沖縄が3連覇!
2018.12.20.THU 公開

12月14~16日の3日間にかけて、三井不動産 ウィルチェアーラグビー日本選手権<第20回記念大会>が開催された。今年は8月のGIO 2018 IWRF ウィルチェアーラグビー世界選手権で日本代表チームが初の世界チャンピオンに輝き、日本のウィルチェアーラグビー界にとって大きな実りのある一年だった。そんな年を締めくくる日本選手権は、課題だった集客にも力を注いだ結果、最終日は約2300人が来場。決勝戦は日本一決定戦にふさわしい好ゲームが繰り広げられ、見守る観客をヒートアップさせた。

クラブチームナンバーワンの座をかけて8チームが争う日本選手権。20回記念大会の今年は、第1回から出場している西の雄Okinawa Hurricanes(沖縄)が3連覇を達成するか、過去最多8回の優勝を誇る東の雄BLITZ(東京)が昨年準優勝の雪辱を晴らすか、そして強豪ながら優勝経験がないAXE(埼玉)や日本代表エース池崎大輔がいる北海道Big Dippers(北海道)がどこまで食らいつくかが注目された。

ベテランが揃うBLITZは3位だった

高知と大阪の合同チームが初の決勝へ

そんな中で初めて決勝に進出したチームがあった。日本代表キャプテンの池透暢がいるFreedom(高知)だ。今年は、選手数の不足を補うため、関西唯一のチームであるHEAT(大阪)との合同チームとして参加。「今年一年で選手それぞれが成長し、優勝できる可能性を感じながら戦った」(池)というFreedomは、予選で北海道Big DippersやBLITZを撃破。準決勝ではRIZE CHIBA(千葉)に50-44で勝利し、決勝に駒を進めた。

勝ち上がってきたもうひとつのチームOkinawa Hurricanesは、2016年から助っ人外国人のマット・ルイス(3.5)をチームに加入させて一時代を築いている。四肢切断のため体幹を使うことができ、パワーフルなプレーが持ち味のルイスは、今年代表チームを退いたものの、リオパラリンピックでオーストラリア代表として金メダルを獲得した申し分のない実績を持つ。Okinawa Hurricanesは、昨年まで中心選手だった乗松聖矢(1.5)がFukuoka DANDELION(福岡)に移籍し、選手数5人という苦しいチーム事情も抱えながら、3連覇を目標にチーム一丸となっていた。

国内ランキング1位のOkinawa Hurricanes。2人のエースが決勝戦で咆えた!

手に汗握る日本一決定戦

決勝の行われた16日は、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)のスペシャルサポーター稲垣吾郎さんがゲストとしてタックルなどの競技体験する催しがあり、大勢の観客が見守る中で決勝が始まった。

にぎわいを見せた千葉ポートアリーナの客席

先制したのは、Okinawa Hurricanes。機動力のある仲里進(2.5)とルイスの2人ができるだけ距離を保ちながら、Freedomのデイフェンスをかわして得点を重ねていく。

一方のFreedomは、選手層でOkinawa Hurricanesに勝る。試合は一進一退の展開になったが、チームは世界選手権金メダルメンバーの池、永易雄(2.5)、育成選手の壁谷和茂(2.0)がいるファーストラインで序盤のうちにOkinawa Hurricanesからリードを奪い、後半はメンバーを入れ替えながら戦おうと考えていた。

日本代表キャプテンでもあるFreedomの池透暢

だが、初めての決勝の舞台には独特の緊張があったようだ。Freedomは、ボールをキャッチする前にトライラインを通過してしまうなど細かいミスで得点できず、思うようにリズムに乗れなかった。

そのひとつの例が第一ピリオド終了間近の一場面だ。同点の場面でラストトライ(※1)を狙うFreedomは、永易がトライライン前の好位置につけていたが、池から渡ったボールを持って走る壁谷はパスを出さずにそのままトライラインへ。しかし、コンマ何秒間に合わず、Freedomはリードを奪えなかった。

※1 ピリオドの最後に得点したチームは、次のピリオド開始時にボールの保有権があれば連続して攻撃して点差を広げるチャンスがある。ボールの保有権がなくても、ピリオド最後のトライを決めることで相手に連続して攻撃機会を与えないことにもつながる。つまり、ウィルチェア―ラグビーにおいてピリオドのラストトライを決めることは重要な意味を持っている。

「Freedomは我の強い選手が揃っているので、いい緩衝材になろうと心掛けた」と壁谷和茂(左)

このときの判断を障がいクラス2.0の壁谷はこう説明する。
「相手のプレッシャーが池選手と永易選手にかかるのは明らかでした。だからこそ、一試合を通じて、2人にそのプレッシャーを受けさせのではなく、どこかのタイミングで僕が行かなくてはならない。それを第一ピリオドで相手に見せたいかったから、欲が出てしまったんです」

「激しい試合になったが、冷静にプレーできた」とマット・ルイス

ゴールを守ったOkinawa Hurricanesは、激しいディフェンスで相手進路を封じ、さらには一度ルーズになったボールも取り戻すなど、連覇への強い意志を感じさせるプレーで前半を2点リードで折り返した。

アグレッシブなプレーで存在感を発揮した、パラリンピック4大会出場のベテラン仲里は、実はこんな思いで戦っていた。
「ルイスがいるから強い、とは言われたくありませんでした。それに、世界一の池キャプテンと永易選手のFreedomに絶対に、負けたくなかった。自分は世界選手権の代表から落選したので、日本選手権は(コートサイドで見守る)日本代表のケビン・オアー監督に代表復帰をアピールできる唯一の場でしたから」

決勝の舞台には、さまざまな思いが交錯していた。

劇的な幕切れ

しかし、Freedomも負けていはいられない。2点ビハインドのまま迎えた第4ピリオド。ボールを前に進めるルイスを池がバックコートに戻してターンオーバーを奪い、再び試合の流れを変えたのだ。またしても取っては取られての激しい攻防となり、観客の目は試合にくぎ付けになった。

縦横無尽にコートを走り、代表復帰をアピールした仲里進

その後、試合が大きく動いたのは、残り1分を切ってからだ。タイムアウトを取って立て直しを図ったFreedomが、ディナイデイフェンス(※2)やタックルでOkinawa Hurricanesのファールを誘うと、残り10秒で47-47の同点に。この後が、劇的だった。ベテランローポインターである河野俊介(1.5)からボールを受けた仲里は、ゴールに向かってまっすぐに走った。それを見たFreedomの池は、仲里をトライポストの外側にはじきだそうと決死のタックルを仕かけるが、試合終了の合図とともに、仲里の車いすはトライラインを通過した――スコアは48-47。Okinawa HurricanesがFreedomの追随を退けて勝利し、仲里が右腕を突き上げて、Okinawa Hurricanesの3連覇達成を観客に知らしめた。

※2 ディナイデイフェンス:ボールを保持していない選手にパスが渡らないよう、パスコースを腕などで遮るディフェンス

3連覇を歓ぶOkinawa Hurricanesの選手たち
Okinawa Hurricanesの選手は5人。車いすに乗って練習相手になったスタッフも連覇を支えた

3位決定戦は、世界選手権の日本代表・島川慎一(3.0)を擁するBLITZが地元・千葉のRIZE CHIBAを54-45で破って勝利。MVPはOkinawa Hurricanesを3連覇に導いたマット・ルイスが受賞。新人賞は創部2年目のTOHOKU STORMERS(東北)から16歳の橋本勝也(3.5)が選ばれた。

表彰式後に世界選手権の報告会も行われ、日本代表チームに大きな拍手が送られた

※カッコ内は、障がいの種類やレベルによって分けられた持ち点。

text by Asuka Senaga
photo by X-1

※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。

『ウィルチェアーラグビー日本一決定戦で沖縄が3連覇!』