-
-
Sports 競技を知る
-
-
-
-
Athletes 選手プロフィール
-
日本初のワールドシリーズ! メダリスト、女子中学生……躍動したパラスイマーに注目

パラ水泳の主要国際大会「ワールドシリーズ」が4月10日から12日、日本で初めて開催された。
世界パラ水泳連盟のポイントシステムにより、障がいの種類や程度が違うクラスの選手たちがひとつの金メダルを争う。日本勢は大会初日、100m平泳ぎで山口尚秀(SB14)が自らの世界記録を更新する1分2秒64を出して金メダルを獲得。パリパラリンピックの金メダリストである鈴木孝幸(50m平泳ぎ SB3)、木村敬一(100mバタフライ/50m自由形 S11)が出場して大会を盛り上げた。
パリの日本代表が好調アピール
日本選手の多くは順位よりもタイムを意識してレースに出場。9月にシンガポールで開催される世界選手権の代表派遣選考を兼ねた大会で、派遣基準記録突破を目指していたからだ。そのなかで、 100m背泳ぎの窪田幸太(S8)らが世界選手権でメダル獲得可能性のある「派遣A」を突破し、第一次日本代表選手に選出された。
パリパラリンピック100m自由形(S12)で銅メダルの辻内彩野は、同種目の予選で派遣Aを突破。
「いつも通りにやれば切れるタイムだとわかっていた」と笑顔。
今大会で受検したクラス分けは、現在のS12(2029年に再受検)に落ち着き、「この世界(パラ水泳)に入って、初めてパラリンピックの年(2028年)にヒヤヒヤしないですむクラスがもらえた。うれしくてしょうがないです」と素直な気持ちを語った。
パリ大会に向かう過程では以前のS13クラス(比較的軽度の弱視)で主に50mの練習をしていただけに、パリは複雑な心境で挑んだに違いない。ロサンゼルスで開催されるパラリンピックを見据え、辻内の100m自由形に注目だ。
50m自由形で辻内と一緒に表彰台に上がった石浦智美(S11)も予選から好調をアピール。30秒28をマークし、派遣Aを突破した。パリ大会後、2023年から指導を受けている高城直基コーチと伸びしろがあることを確認し合い、リスタートしたばかり。世界選手権に向けて弾みをつけた。
来年には、自国開催の愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会を控える。日本チームは、「多くの種目に日本代表を出場させ、今後の国際大会で世界のベスト8に入るために、若手のマルチメダリストを育てたい」(強化リーダーの上垣匠氏)という目標を掲げており、代表選考も派遣Aに次ぐ「派遣B」は多数の種目でクリアしている選手が優先され、派遣A及び派遣Bは21歳以下の若い選手のための別の基準も設定されている。
そんな“逆境”にも負けず、強さを発揮したのが50mバタフライの西田杏(S7)だ。
「得意種目が1種目の私は、この大会で派遣Aを切らなければならない。それがわかっていたから、(気持ちが)強くならざるを得ない状況でした。自分自身を信じられるレースをするために、自分自身を信じられる練習を積んで臨みました」
結果は36秒61の日本新記録。「自己ベストを更新し、100点満点のレースができた」ととびきりの笑顔を見せた。
笑顔の西田とは対照的にレース後、うれし涙を流したのは18歳の前田恵麻だ。
「ずっと(派遣基準記録突破を)目標にしていたので、本当にうれしかったです」
200m個人メドレー(SM9)で自己ベストを大きく更新し、初の世界選手権代表に近づいた。今大会では初めて世界大会の決勝を経験したといい、「(予選と決勝の)2本を泳ぐ体力がない。課題も見つかった」と前田。伸び盛りの若手が富士から世界に羽ばたく。
次世代スイマーも躍動
育成世代には初の国際大会を経験した選手も多い。3種目に出場した都甲万結(S9)は、パラリンピックを目指す中学生スイマーだ。
「始まる前はどんな大会か想像できず怖かった。でも、世界の選手たちとレースができてすごく楽しかったです」
そう話す都甲は、“国際交流”にも積極的だ。スマートフォンのアプリを駆使してブラジルの選手に話しかけ、連絡先も交換したという。
ポイントシステムの実施により、ハイレベルな競い合いが見られた今大会。「速さだけではなく、アスリートとしての強さを磨くことにもつながる。日本開催のおかげで、多くの選手が強くなるための経験をできたと思う」と上垣リーダーが言うように、今大会で得難い経験ができた選手は多いはずだ。
日本パラ水泳連盟の河合純一会長も期待を込めて言う。
「若手に国際大会の楽しさを感じてもらえたならうれしい。『また国際大会に帰ってきたい』というモチベーションにつなげてもらい、次のパラリンピックで活躍してほしい」
ワールドシリーズは、来年も富士市で開催される予定だ。
text by Asuka Senaga
photo by X-1