2019 Goalball Japan Men’s Openが示した未来への明るい道筋

ゴールボール男子、パラリンピック初出場への明るい道筋に
2019.01.21.MON 公開

1月14日、3年目の開催となる「2019 Goalball Japan Men’s Open」で日本を代表するチームが初めて頂点に立った。

大会後、「日本の選手たちは互いに刺激し合ったし、勝つことで自信も得られた」と江黒直樹ヘッドコーチ(HC)はコメントした。

江黒直樹HCは若手に自信をつけさせた

パラリンピック未出場である日本代表男子の育成と強化を図る大会。今年は、タイ、オーストラリア、カナダ(バンクーバー・ゴールボール・クラブ)の3チームを招き、AとBの2チームにわかれた日本代表の5チームが対戦した。そんな中で日本が手にしたものとは――。

団結力が光った日本A

決勝戦は、2日間にわたって行われた総当たりの予選を3勝1敗で勝ち進んだ日本Aと、その日本Aが予選で唯一敗れた相手・タイによって行われた。

どちらが勝ってもおかしくない。そんな激戦だった。試合はスピードのある球で猛攻を仕かけるタイに対し、日本は球速の増す、おろしたての硬いボールに反応できない。序盤で次々と失点を重ね、いきなり0-5と大きく離されてしまう。

「僕が流れを壊してしまった。実力不足でした」
守備の要であるセンターのキャプテン田口侑治は、そう反省を口にする。

優勝した日本Aのキャプテン田口侑治(写真中央)

ここで日本Aはウィングプレーヤーの辻村真貴を投入し、センター宮食行次、ライト山口凌河という布陣に替え、再び勝機を狙うべく呼吸を整える。

途中出場した辻村真貴は言う。
「どんな状況でも声を出していこうと試合前に話していた。『とにかく我慢だ』、『一点ずつ取り返そう』と、あきらめずに声を出した」

アジアトップレベルの攻撃力を誇るタイは、威力あるボールを投じる。ゆえに規定のエリアでボールがバウンドしないことによる、ペナルティを犯しやすい。

相手ペナルティでもらえるペナルティスローこそ、流れを手繰り寄せるチャンス。そう考えていたのは今大会最多得点プレーヤーの山口だ。日本チーム屈指のパワーを誇る山口は、相手のレフト・センター間を抜くショットで反撃の狼煙を上げた。

実は、予選のタイ戦でペナルティを思うように決められず、決勝こそはと闘志を燃やしていた山口。試合後にこのシーンを振り返り、「コントロールよく投げられて、チームに貢献できたかな」と照れ笑いを浮かべた。

ペナルティスローのチャンスをものにした山口は、バウンドボールでも加点。続いて身長182㎝の宮食が守備でも魅せ、見事な読みで相手ペナルティスローを止めると、チームをさらに勢いづけた。

タイのペナルティを止め、日本の流れを作った宮食
今大会で存在感を発揮したひとり宮食行次は競技歴1年少しで伸びしろがある

盛り返す日本A。「冷静に!」。ベンチにいる江黒HCから声が飛ぶ。その後、観客・関係者の目は、コートを自由自在に動く辻村の姿に魅了されることになる。

レフトからライトに大きく移動した辻村は、華麗なスピードボールでネットを揺らした。

攻守ともに進化中のウィング辻村真貴が覚醒した

辻村は多彩な球種による攻撃が持ち味だが、昨年10月のインドネシア2018アジアパラ競技大会以後、普段の練習で使用するボールの重さを3㎏から4~5㎏に増やし、試合本番でいい球が投げられるようにと強化を図ってきた。その成果も実り、次々と得点を決め切った。

6-6で試合を折り返した日本Aは、後半も辻村のショットがさく裂。タイもスピードボールで応戦したが、大事な場面で山口が決めて最後は15-12で勝利を決めた。

「それぞれいいときも悪いときもあったが、4人でフォローし合うことができた」。試合後、キャプテンの田口は胸をなでおろした。

もともとウィングだったが、東京2020パラリンピック日本代表に名乗りを上げるためにセンターにも取り組む宮食も、「守備は全然ダメ」と守備への課題を残しつつ、「勝てたのは、流れを持っていかれそうなところで点を取ってくれたウィングのおかげ」とチームの結束力を誇った。

「この勝ちを大切にしたい」。日本の進むべきは、辻村のこの言葉に集約されていた。

「日本人とは違う異質な球を受けられていい経験になった」と辻村

最年少選手を盛り立てた日本B

決勝に先駆けて行われた3位決定戦は、日本B(予選3勝1敗)とオーストラリア(予選1分3敗)が対戦し、日本の若手成長株・金子和也のクロスや国内髄一のパワーを誇る信澤用秀の精度の高いショットが光り、日本Bが6-3で圧勝した。

金子和也は「試合後に聞こえた拍手にじーんとした」と地元大会こその喜びを表した
パラリンピック出場を逃してきた悔しさを知るベテランの信澤用秀

選手たちが口をそろえて称えるのが高校生の佐野優人だ。今大会、近年の国際主要大会で日本のセンターを守ってきた川嶋悠太のアクシデントで急遽センターに抜擢され、ゲームメークの役割も遂行した佐野は、ボールの出どころを周りに伝える役目を「間違えてもいいから、声を出して引っ張ろうと心がけた」と言い、守備力に手ごたえを得たという。

日本代表生き残りをかけて、守備力と同時に高めていきたいのが攻撃力。「相手の手先、足先に投げられるズバ抜けたコントロール力を磨きたい」と話し、パワーで押し切るだけではない日本のゴールボールを追求していくつもりだ。

チャンスをものにし、存在感を示した佐野優人

ラッキーボーイの誕生に、競技歴17年のキャプテン信澤は「(川嶋)悠太も危機感を持ったと思うし、選手間の競争力が上がったと思う」とコメント。江黒HCもチームの活性化を「こういうのを期待していた」と喜ぶ。

フレッシュな選手たちが躍動し、未来への道筋を見せてくれた。

佐倉市民体育館での開催は2年目
最多となる24得点の山口凌河
【2019 Goalball Japan Men’s Open リザルト】

1位 日本A(宮食行次、山口凌河、辻村真貴、田口侑治)
2位 タイ(Sukchum Chonlathi、Wangtrongjitr Tanapong、Poosrisom Noppadon 、Fankhamal Bancha、Phonphirun Siwarin、Chadmee Pornchai)
3位 日本B(信澤用秀、佐野優人、小林裕史、川嶋悠太、金子和也)

優勝を喜ぶ日本Aの選手、スタッフら

text by Asuka Senaga
photo by Haruo Wanibe

※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。

『2019 Goalball Japan Men’s Openが示した未来への明るい道筋』