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ボッチャ
第3回ボッチャ東京カップ2019、優勝した火ノ玉ジャパンAを苦しめた一般参加チームは?
障がいの有無や年齢、性別にかかわらず、誰でも参加可能で、ボッチャ日本代表“火ノ玉ジャパン”も出場する「ボッチャ東京カップ」の第3回大会は9日、東京・武蔵野総合体育館で開催された。
今年はシニア、一般、大学、高校、小学校別の予選に全国から約100チームが参加。この日は予選を勝ち抜いた精鋭18チームが6チームに分かれて予選リーグを行い、1位通過したチームが火ノ玉AジャパンとBが待つ決勝トーナメントに進出し、優勝を争った。
延長にもつれ込んだ決勝戦
第4エンドを終えても3対3と決着がつかず、延長戦にもつれ込んだ「火ノ玉ジャパンA」と「NECボッチャ部」の決勝戦。緊迫した試合は、タイブレイクに突入し、勝利の行方は両キャプテンの一投に託された。
火ノ玉ジャパンの戦いぶりを間近で見ようと、観客コートを囲むなかでの緊張の一瞬。まず、NECボッチャ部の田村和秀さんが体勢を低くしたフォームから渾身の1球を放つ。だが、その青いボールをジャックボールにピタリと寄せることができず、田村さんは天を見上げ、両手を顔で覆った。
一方、百戦錬磨の強さを見せたのは河本圭亮だ。ランプを使って赤いボールを正確に転がし、しっかりとジャックボールにアプローチした。
やはり火ノ玉ジャパンは強かったーー。
試合を振り返り、河本が「日本選手権の決勝よりも緊張した」と安堵の表情を見せれば、チームで銀メダルを獲ったリオパラリンピック銀メダリストの杉村英孝は「NECのほうがパワーがあり、技術もつけている。厳しい場面はたくさんあったが、ハンデのある僕らが勝てるのがボッチャのおもしろいところ」と熱を込めて語った。
NECの躍進が競技の底上げを証明
火ノ玉ジャパンの村上光輝監督が「今年は予選リーグへの出場チームが多く、レベルも高い」と語ったように、健常者にもボッチャが確実に広まっていることを印象付ける大会となった。
それを証明したのが決勝の舞台に立ったNECボッチャ部。NECでは、東京オリンピック・パラリンピックのゴールドパートナーになったことをきっかけに、2017年、社内にボッチャ部が創設された。以来、月に2回、本社会議室などで練習を重ねてきた。現在、部員は28人で、今回は予選を突破しての初出場だった。
快進撃を演じたひとり山本武洋さんは「厳しい場面を打開するのが得意な人、確実にジャックボールに寄せるのが得意な人と、最近はそれぞれの個性を出せるようになってきている」とチームの成長を口にする。
そんな持ち味を一人ひとりが発揮したのが決勝リーグだった。廣瀬隆喜率いる「火ノ玉ジャパンB」にストレート勝ちした準決勝では、「1日100球投げる」というほどボッチャにのめり込んでいる田村さんが安定した投球を連続させ、第2エンドでは6球すべてを使い切ることなく、試合を決めた。田村さんは「火ノ玉ジャパンに勝つなんて信じられない結果。もう1回、火ノ玉ジャパンと試合ができるなんてうれしい」と喜びを爆発させた。
火ノ玉ジャパンAとの決勝では、ボッチャのボランティア歴も長い野津崇さんも、厳しい局面を打開する一球を投げるなど見せ場を作った。
また、NECボッチャ部はジャックボールを置く位置にこだわった。「右奥にジャックボールを投げる戦術は、田村さんの制球力があってこそなんです」と明かしたのは山本さんだ。
右奥にジャックボールを放てば、左側のスローインボックスに座る田村さんからは遠い位置になる。しかし、遠距離からでも田村さんの投球が安定しているため、第4エンドの立ち上がりでは、田村さんのボールが、相手エースの杉村の攻め手を減らし、日本代表軍団を大いに苦しめる一因となった。
準決勝でNECボッチャ部に敗れた火ノ玉ジャパンBの廣瀬は、「大会1回目の頃、参加者はジャックボールに寄せることだけを考えている人がほとんどだったが、今回はコースを考えたり、しっかり戦術を考えている人が増え、レベルが上がっていることを感じた」と言い、杉村は「健常者のレベルが上がることで、僕らも新しい戦術などが見つかるはず。こうして盛り上がることはうれしい」と楽しそうに振り返っていた。
年齢や性別を越え、同じ土俵で戦えるボッチャをアピール
今大会はボッチャが障がいの有無だけでなく、年齢や性別も越えて同じ土俵で戦えることもアピールしていた。
地元・武蔵野市の大野田小学校の3年生が結成した「レッドチーム」は予選リーグで、ウィルチェアーラグビー日本代表の池崎大輔や、車いすバスケットボール元日本代表の根木慎志らが結成した「アスリートチーム」を2―1で下し、レッドチームの池澤ひな子さんは「大人に勝ててうれしかった」と笑顔を見せる。
チームを率いた知念良尚教諭は「選手たちはインターネットでボッチャについて調べ、作戦も自分たちで考えたんです」と目を細める。
敗れた根木は「アスリートとして子どもたちに負けたのは悔しいけど、障がいはもちろん、年齢も越えて、同じ場で戦えるのは素晴らしい!」と楽しくてたまらないという表情で振り返った。
また、健闘したのは予選リーグを突破し、5位入賞を果たしたシニアチーム「ボッチャ山崎C」だ。チーム代表の古川千恵子さんは66歳だが、他のメンバーは全員70歳を超えている。東京・町田市が主催した認知症の勉強会を兼ねたボッチャの体験会でメンバーは知り合ったといい、2年前にチームを立ち上げた。以来、月に2回、練習会を行っている。
準々決勝でNECボッチャ部に0-7で敗れたあと、古川代表は「私たちも体勢を低くし、安定した投球ができるようにならないと」と反省を口にしたが、キャプテンの田辺美江子さんは「日本代表と同じ舞台で試合ができるなんてドキドキで、天にも舞い上がる気持ちでした」と打ち明け、「障がい、年齢、性別を超えて戦える。それがボッチャのよさなんだなと思いました」と多くの参加者が抱くこの競技の魅力について語っていた。
そして、存在感を放ったもうひとつのチームが日本財団パラリンピックサポートセンター職員で構成された「パラサポGOLD」。金子知史キャプテンは「チーム練習が全然できないまま当日を迎えてしまった」と話しつつも、「仕事柄、普段から体験会を行ったり試合を見たりする機会が多いので、何となく作戦がわかるのと、体験会ではデモンストレーションで投げることもあるので、そのあたりが役に立ったかもしれません」と準々決勝まで勝ち上がった要因を分析。火ノ玉ジャパンAと対戦した準々決勝では2点を先制したが、「勝てるかも、と思ったのは序盤までで、第2エンドの3投目くらいから負けを確信していました。でも、火ノ玉ジャパンの作戦会議や、杉村さんの指示出しなどを間近で聞けたのは素晴らしい経験でした」と満足そうに話した。
残念ながら予選で敗退してしまった特別支援学校チーム「けやっきーず」の宮原陸人くんは、次世代のパラリンピック候補選手だ。「みんなで話し合ったり、チームワークを大切にして戦ったけれど、ボールをつけられたあとにミスが出てしまいました。最後、火ノ玉ジャパンが勝ったのは“さすが”という感じ。すごい試合でドキドキしました。これからはパラリンピックにでられるようにがんばりたいです」と新たな目標を語ってくれた。
東京2020パラリンピックに向け、ボッチャはますます広がりを見せていきそうだ。
【第3回ボッチャ東京カップ2019 リザルト】
1位 火ノ玉ジャパンA
2位 NECボッチャ部
3位 火ノ玉ジャパンB
4位 チーム武蔵野
5位 ボッチャ山崎C、パラサポGOLD、チーム楓、バンビーズシニア
text by TEAM A
photo by Sayaka Masumoto
※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。