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アスリートビューティーアドバイザー® 花田真寿美さん “自分の魅せ方を知る”ことで自信や魅力を引き出す応援をしたい
アスリートとビューティー。一見関連はないように見えますが、メークや姿勢など自分の魅せ方を知ることで自信がもてると実感するアスリートが増えています。かつてバドミントン選手からモデルに転身、現在はアスリートたちに外見と内面を磨くことで新たな可能性を開くプログラムを提供する、花田真寿美さんの活動に注目しました。
<パラアスリートを支える女性たち Vol.05>
はなだ・ますみ(31歳)
アスリートビューティーアドバイザー®
今回は花田さんが展開する「ビューティパーソナルレッスン」に潜入。“アスリート時代はファッションやメークとはまったく無縁だった”花田さん自身の経験から生まれた講座で、現役・元アスリートに向けて展開しています。この日の受講生は視覚障害者柔道の現役選手、廣瀬順子さん。視覚に障がいのある廣瀬さんはふだんご家族の方に見てもらいながらメークをしているそうですが、「アイラインを太く描きすぎてしまったり、ダンサーのような濃いメークになってしまったときもありました」とのこと。まずはメークに関する悩みのヒアリングから始まりました。
視覚障がいのある人ならではのメークの困難を探る
花田 今、メークで何か不安を感じる部分はありますか?
廣瀬 自分の肌にどの色のファンデーションがあうのかわからないので、似合う色を知りたいです。アイシャドウも色がわからないから、いつも無難な茶色ばかり。もう少しいろいろ試したい気持ちがあります。あとは眉の描き方がわからなくて。左右均等に描こうとしても難しいので、そのへんはどうしたらいいかなと…。
花田 なるほど。今、アイラインも引いていらっしゃいますよね。それはどのように?
廣瀬 感覚でひいています。
花田 わかりました。それでは講座の流れを説明しますね。アスリートとして競技に集中しているとどうしても美容にかける時間や情報量が少なくなるので、いつも基本のキからお伝えしています。まずは「なりたいイメージを知る」。頭の中にある漠然としたイメージを言語化してもらい、目指す方向をすりあわせます。次に「メークに使うアイテムを知る」。それから「メークの手順を知る」。半分は私がメークして、半分は自分でしてみる。こんな感じで進めますね」
アスリートにとってビューティーも必要なその理由
廣瀬さんが「なりたいイメージ」として挙げたのは“ナチュラル、上品、キュート、健康的”など8つのキーワード。「この中でいちばんなりたいのは?」と花田さんが聞くと、廣瀬さんは「キュート」と即答。「ではキュートに見えるために、ふだん意識していることはありますか?」と花田さんが問い返すと、「チークや口紅を健康的に」と廣瀬さん。レクチャーは対話とともに進み、すっぴんで競技ひと筋だった高校時代など“女子アスリートあるある”な話題で盛り上がります。今は「柔道を頑張るためにはオフも必要だと思うので、メークはいい切り替えにになっています」と廣瀬さん。選手のメンタルにとってビューティーも必要な要素であることが伝わってきます。
レクチャーしながら顔の右半分をメークしたら、今度は廣瀬さんが左半分を自分でトライ。懸案だった眉は、左右の眉尻をどこまで描けばいいのか指で位置を確認しながら描いていきます。最後に廣瀬さんとご家族用に今日のまとめを書いたシートが渡され、すべての行程が完了しました。
“競技に集中しろ、うつつを抜かすな”という風潮に一石を投じたい
−−講座を見ていて、アスリートビューティーアドバイザーは新しい価値観を提供する職業であるように感じられました。今、何か課題にされていることはありますか。
アスリートがビューティーを取り入れる文化は日本ではまだあまり根付いていません。“競技に集中しておしゃれにうつつを抜かすな”という風潮が強いんですね。でも私は“自分の魅せ方”を知ることは、自己肯定感につながると考えています。バドミントンの強豪校での選手時代の私は髪は角刈り、顔にはたくさんのニキビ。それでも試合にはすっぴんで出なければならず、コンプレックスを感じていました。
そんな自分の経験から「アスリートビューティーアップ講座」を開発しました。“より強く、より美しく、より主体的に”をコンセプトにメークやファッション、所作や立ち居振る舞いなど多角的な視点からアドバイスを展開して、モチベーションやパフォーマンスの向上まで目指した指導をしたいと考えています。
元アスリートの方からは「こんなサポートが欲しかった」と賛同をいただいたり、現役女性アスリートからは、「メディア対応時に自信をもって受け答えできるようになった」などの感想がありました。視覚障がいの現役男性アスリートからも「自分は見えないけど、ほかの人から“カッコいい”と見てもらえるのはとてもうれしい。姿勢が良くなり、自信をもって試合に臨めるようになった」とリピートをいただいたときはうれしい驚きでした。障がいのあるなしに関係なく、みんな思うことは同じなんですね。
これからも、アスリートが自分の魅力を引き出して自信に変える手段のひとつとして、ビューティーを戦略的に取り入れられる文化の大切さを胸を張って伝えていきたいと考えています。それがアスリートたちの可能性を広げる一助になれたらうれしいです。
(後編に続く)
text by Mayumi Tanihata
photo by Yuki Maita(NOSTY)