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車いすカーリング
車いすカーリング・北見フリーグスが日本一返り咲き。難しい氷での経験を世界で戦う糧に
「この優勝カップが再び津軽海峡を越えて戻ってきたねぇ」
北海道・北見フリーグスの小林勉コーチは、日本一の味を噛み締めるかのように笑顔で語った。
車いすカーリングの国内最高峰の大会「第15回日本車いすカーリング選手権」が24日から26日まで青森市のみちぎんドリームスタジアムで開催され、北見フリーグスがチーム長野との接戦を制し、昨年決勝で敗れた雪辱を果たし、2年ぶり3度目の日本一に輝いた。
今大会には、北海道ブロック(1位:北見フリーグス、2位:札幌ブレイブス、3位:チーム札幌)、本州ブロック(1位:青森チェア、2位:チーム長野、3位:ease埼玉)のそれぞれ上位3チームが出場。本大会の優勝チームが11月にフィンランドで開催される世界B選手権の日本代表の有力候補になる。そのため、大会の終盤は緊張感が漂った。
地元チームが苦戦した日本最高峰の戦い
本大会の注目のひとつは、3度目の地元開催で優勝を狙う青森チェアの戦いぶりだった。実際に、予選では難敵・北見フリーグス相手に7エンドまでリードし、古豪復活をうかがわせた。しかし、最終エンドで4点を許して逆転負け。フォース (※1)の畑山勇は「気の緩みもあったかもしれないが、敗因は氷。最後までウエイト(※2)を合わせることができなかった」と力不足を嘆いた。
青森チェアは今回の会場・みちぎんドリームスタジアムを練習拠点とするが、 “ホームの利”はほとんどなかったと言っていい。この舞台をつくったカーリングアイスエンジニアの中島潤氏は明かす。
「ストーンと氷の摩擦でほどよく回転がかかるよう、ストーンの底にエッジがついているが、その部分を新品にしたばかりなので曲がりが強く、選手たちは苦労したのではないか。そもそも使用しているストーンは県大会以上の公式戦で使うもの。日本選手権という重要な大会だから、青森チェアに有利になってはいけないからね」
青森チェアは、わずか1勝しかできずに予選で敗退した。
※1 フォース:チーム4人の中で4番目にストーンを投げる選手のこと。1番目はリード、2番目はセカンド、3番目はサード。
※2 ウエイト:投げたストーンに与えられた力のことで、滑るスピードを表す。
最年少チームが健闘!
決勝トーナメントに進めるのは予選の上位3チーム。前回優勝のチーム長野、一昨年優勝の北見フリーグスが順当に勝ち進む中、予選最終戦の勝利で3チーム目の決勝トーナメント出場を決めたのは戸田雄也率いる札幌ブレイブスだった。平均年齢37.5と国内のチームの中では最も若く、国際大会経験者も2人いて次世代を担うチームとして関係者からの期待も大きい。
しかし、準決勝。もともと苦手意識のあった北海道ブロックの覇者・北見フリーグスの壁に当たった。「この日のために1年間練習してきた」(セカンドの高橋宏美)という思いからか硬さも見られ、思うようなショットが決められない。1エンド、2エンドではハウス内にストーンを集めた相手に対し、フォースの戸田雄也が狙った位置にストーンを置くことでなんとか失点を1点に抑えたが、迎えた3エンドで大量6失点。続く4エンドも大量点を失い、札幌ブレイブスは2-15で敗退した。試合後、スキップの戸田は「 (先に投げる選手たちによる)ガードがなかなか決まらず、追い込まれて苦しかった。(戦術を)まったく読めていなかったわけではないし、攻めた結果ではあるけど……」と頭を抱えた。
チームは、札幌市のどうぎんカーリングスタジアムを拠点にし、平日の夜にシートを使用できるなど練習環境も比較的いい。パワーリフティング選手でもある戸田は東京2020パラリンピックに向けていったん氷から離れるが、再び強くなった姿でこの舞台に戻ってきてくれることだろう。
緊迫の決勝はライバル対決に
そして決勝戦は、予選を全勝で1位通過したチーム長野と、昨年の決勝でチーム長野に敗れて3連覇を阻止された北見フリーグスが激突した。
前日、チーム長野のスキップ・和智浩はこう語っていた。
「僕たちはドロー(※3)主体のチーム。アイスコンディションをしっかり読み、ミスなくしっかりできるかが勝負の分かれ目になる」
一方、予選でそのチーム長野に6-8で敗れた北見フリーグスの坂田谷隆は、「今大会、チームのウエイトが全然合わない。でも、うちは松田華奈(リードの女性選手)含めて総合的にパワーがあり後半、氷が重くなってきたところでも得点を重ねられる」と話す。また、約2時間前に行われた準決勝で大勝したことで失いかけた自信も取り戻していた。
※3 ドロー:ハウスの前か中にストーンを止めるショットのこと。
試合は、テイク(※4)主体で試合を進めた北見フリーグスが3点リードで試合を折り返した。チームは前日より曲がりが抑えられたこの日の氷ならテイク中心で戦えると判断したのだ。だが、7エンドでチーム長野の和智が好ショットを連投し、スキップの坂田谷にプレッシャーを与えて3得点。それでも、北見フリーグスはサードの柏原一大がチームを盛り立て、最終エンドを制し、8-6で逃げ切った。
「自分の指示が甘く、ショットのミスもあったので、勝てて本当にほっとしている」
大会を終えた坂田谷は、そう言ってようやく笑顔を見せた。
試合の局面でヒット・アンド・ロール(※5)を決めた柏原は「どちらに勝利が転んでもおかしくない緊張感はあったが、いつも通りにできた」と淡々と語った。
また、セカンドの岩田勉は、勝因を聞かれて「アイスを読めない課題は残ったが、最後は勝ちたいという気持ちの強さが結果に出たと思う」と笑顔をこぼし、最年少の松田は「予選でチーム長野に負けて『次は負けたくない』と気持ちを切り替えられたのがよかった」と答えた。
※4 テイク:相手のストーンをプレーエリアからはじき出すショットとのこと。
※5 ヒット・アンド・ロール:自分のストーンを目標のストーンに当て、なおかつ自分のストーンも目標の位置に置くこと。
次は北京パラリンピック出場をかける戦いへ
今大会の結果を受けて、2022年の北京パラリンピックを目指すナショナルチームが発足する。
日本が2022年の北京に出場するためには、11月の世界B選手権で3位以内に入り、世界選手権への出場権を得る必要がある。
「海外や世界選手権の氷はこれくらい難しい。今回の経験は必ず活きる」と坂田谷。
日本車いすカーリング協会の浪岡正行強化委員長は「世界との経験豊富な北見フリーグスとチーム長野の圧倒ぶりはこれまでの強化の結果。しかし、世界で勝ち上がるのは難しい。強豪の中国、韓国と試合をするなどして2022年の北京パラリンピック出場に向けて強化していきたい」と力を込めた。
1位:北見フリーグス
2位:チーム長野
3位:札幌ブレイブス
4位:ease埼玉
5位:チーム札幌
6位:青森チェア
text by Asuka Senaga
photo by Yoshio Kato