「一人ひとり障がいが違う」脳性まひ者CPサッカーとは? 注目選手に魅力を聞いた

「一人ひとり障がいが違う」脳性まひ者CPサッカーとは?
2019.06.20.THU 公開

東京2020パラリンピックで実施競技から外れてしまい2028年の競技復活を目指す「脳性まひ者7人制サッカー」、通称CPサッカー。そのクラブチーム交流戦「国際クラブチームチャレンジCUP」が6月15日、大阪のサッカーのメッカ「J-GREEN堺」にて開催された。

海外からは、北京パラリンピックの中国代表ヤン・イェ主将が率いる上海市のチームを招聘。日本代表を多数擁するエスペランサ(神奈川)と、昨年、全日本選手権4位のCP神戸(兵庫)との3チームで総当たり戦を行った。

2016年のリオパラリンピックでは正式競技だった7人制サッカー(CPサッカー)

日本代表を多数擁するエスペランサが圧倒!

試合は、エスペランサが連携の取れたパスワークや鋭い駆け上がりで他チームを圧倒。上海チームは勝利をものにできなかったが、チョウ・ゴンエン団長は「日本の選手と交流できたことが何よりうれしい」と笑顔でピッチを後にした。

また、CPサッカー体験会とミニゲームも実施。「相手の障がいを把握し、よりボールを受けやすい方の足にパスを出すといった配慮をしながらプレーをしています。これは日常生活にも活かせますよね」といった説明に、参加者たちは深くうなずいていた。

右半身を固定した状態でのドリブルを体験する元Jリーガーの加地亮さん
元プロ選手の播戸竜二さんは「固定していない側の筋肉をすごく使う。選手たちはスゴい」と感想を述べた

活躍が光った選手たちに直撃!

7月には日本代表がCPサッカーのワールドカップ「2019 IFCPF World Cup」に出場する。国際大会での勝利とCPサッカーの普及を目指して切磋琢磨する選手たちに話を聞いた。

■浦辰大(うら・たつひろ)

日本代表でも中心的存在の浦辰大

23歳/先天性の左半身まひ/障がいクラス:FT2/所属チーム:エスペランサ/ポジション:FP
2017IFCPF世界選手権(アルゼンチン)日本代表主将。高いコミュニケーション能力と献身的なプレーでチームをけん引する。

「とにかくサッカーが大好きで、チームの練習がない平日の週に1~2回、仕事の後、健常者の社会人チームでサッカーやフットサルをしています。

以前はフィジカルを鍛えることを重視していたのですが、国際大会を経験するうちに考え方が変わりました。やはり海外の選手にはフィジカルではかなわない。ならば、判断力を磨いてプレースピードを上げることで、身体を当てられることなく競り勝つことができるのではないかと、今は思っています。ところが僕の場合、左半身にまひがあるため右に重心が傾きがちで、左方向への動き出しが遅くなりがちだったんです。そこで、いま専門的なトレーナーさんと一緒に、重心の位置を身体の中心に置くことを意識して、俊敏性を高めることに取り組んでいます。

CPサッカーの選手は、一人ひとり障がいの種類や程度が違います。そのため、お互いの障がいを理解して、プレーすることが肝心です。サッカーはもともとコミュニケーションが大切なスポーツですが、CPサッカーはそれがさらに重要になるわけです。幸い、僕は人と話すことが大好きなんです。相手のことも知りたいし、僕のことも知ってほしい。だから、クラブチームでもキャプテンとして、一人ひとりとできるだけコミュニケーションを図ることを意識しています。

日本代表チームのキャプテンとしては、チームを統率する強いキャプテンシーを求められていて、そこに近づきたいとも思っています。とはいえ、ただ一方的に厳しい言葉を投げかけるのではなく、みんなが意見を言い合えるチームが理想的だと思うんです。自分のコミュニケーション力を活かしつつ、みんなで勝つという雰囲気を作り上げていきたいです。

7月のW杯は、CPサッカーが日本で広まるきっかけになるような大会にしたいんです。実際、日本代表の選手たちはみな、日本のCPサッカーの歴史を変えようという熱い想いを持っています。ですから、最低でもグループリーグを突破し、ベスト8以上に進出することを目指します。そして、日本代表に入れなかった選手たちの期待に応えられるようなプレーができれば最高ですね」

■谷口泰成(たにぐち・たいせい)

国際経験豊富な谷口泰成

26歳/先天性の全身まひ/FT2/エスペランサ/FP
インチョン2014アジアパラ競技大会(韓国)などの日本代表。180㎝の長身とスプリント力が持ち味。

「小学1年から3年までは一般のチームでプレーしていたのですが、次第についていけなくなり辞めてしまいました。その後、CPサッカーと出会い、小学5年からプレーしています。

走るのは得意な方で、広州2010アジアパラ競技大会に日本代表として出場した際は、スピードを活かして右サイドでプレーしていましたが、3年ほど前からはフォワードでプレーする機会が増えています。

ロングシュートも得意です。シュート力をアップさせるため、週に一度のチーム練習の他、ジムに通い下半身を中心に鍛えています。

スペインW杯では、チームとしてはグループリーグを突破しベスト8位以内に入ること、そして個人としては、フォワードとして得点することが目標です。

CPサッカーは現在、パラリンピック競技から外れていますが、復帰するまでプレーし、出場を目指したいです。ただ、パラリンピックがなくても、各地で国際大会は開催されているので、そこへの出場をモチベーションにプレーし続けます」

■柳英行(やなぎ・ひでゆき)

日本代表の守護神・柳英行

36歳/右半身まひ/FT2/CP神戸/GK スペインW杯日本代表チームの守護神。野球のキャッチャー経験を活かし、左の手足を駆使したダイナミックなセービングでゴールを守る。

「もともと野球をしていて、中学生のころはキャッチャーとして野球の全国大会に出場したこともあるほどスポーツは得意なタイプでした。21歳のときの脳出血が原因で右半身が動かなくなり、右手の指も開かなくなったのですが、それでも何かしらスポーツを続けたいと考えていたところ、入院していた病院の先生からのすすめでCPサッカーを知り、22歳から始めました。

ゴールキーパーとキャッチャーは共通点も多いので、サッカーのセービングを学んだうえで、手や足の使い方など、自分なりの方法を編み出して練習を重ねました。最初は上手に倒れることができず、顔にけがをしたこともありましたけどね。

7月のW杯では、一つずつ勝ちを積み重ねて、これまでの成績を超えたいと思っています。とはいえ、世界で勝つためにはまだ課題があるのも事実です。日本の選手は、一人ひとりの技術はあるのですが、まだメンタル面でもろさがあり、1点でも先取されると引いてしまうところがあります。絶対に勝つという気持ちで、どんな状況になっても相手チームに立ち向かっていければ、勝機は見えてくると思っています。

日本代表は、だれもがなれるわけではないので、選んでいただいたからには一生懸命プレーします。36歳という年齢ではありますが、引退は一切考えていません。いつかCPサッカーがパラリンピック競技に復帰するまでがんばります」

■ヤン・イェ

上海チームのゲームメーカー、ヤン・イェ

37歳/先天性の右半身まひ/上海/FP
上海CPサッカーチーム主将。2008年北京パラリンピックに中国代表として出場。それ以前は、陸上選手として短距離に取り組んでいた。

「普段は仕事していて練習不足ということもあり、試合の出来はまずまずという感じです。日本のチームは強かったです。障がいは生まれつきのもので、この競技を始めたのは2004年からです。その前は陸上選手だったのですが、足のケガをきっかけに、サッカーをやってみようかなと。CPサッカーで2008年の北京パラリンピックには中国代表として出場しました。強化のため、ブラジルやイギリス、ポルトガルなどにも遠征していたんですよ。

今は競技志向で活動はしておらず、個人の趣味として楽しんでいます。上海の障がい者協会が用意してくれる学校の運動場で週に1回、土曜日に定期的に練習しています。メンバーは12名です。そのエリアはサッカーが盛んで、少年サッカーチームはもちろん、社会人もサッカーを楽しんでいるので、7人制のフットサルのようなスタイルで練習試合をすることもありますね。

普段、みんなで集まる機会がなかなかないのですが、CPサッカーを通じて一緒に汗をかけるのが楽しいです」


CP神戸の助っ人として参加した久保善暉(P.C.F.A.SALTAR)はプロを目指していた大学時代に病気で半身まひに

CP神戸の一員として出場した20歳の三浦良介(P.C.F.A.SALTAR)も7月のW杯の日本代表

なでしこCP選手も躍動!

■浜田美弥妃(はまだ・みやび)

将来が嘱望される女子プレーヤーの浜田美弥妃

24歳/先天性の右半身まひ/FT2/エスペランサ/FP
小学生からボールを蹴り始め、中学生でCPサッカーチームに加入した“国内女子CPサッカー選手第1号”。

「小学3年から地元のサッカーチームでプレーしていました。CPサッカーを始めたのは、中学2年から。中学生になってもサッカーを続けられる環境を探していたとき、偶然、インターネットでCPサッカーを知ったのがきっかけです。

得意なポジションは、ディフェンスです。チームに入った当初は、ゴール前でシュートを狙うフォワードを任されることが多かったのですが、守備的なポジションをする機会があり、その際「キーパーの手前で、身体を張ってゴールを守るってかっこいい!」と、ディフェンスに面白さとやりがいを感じたんです。ディフェンスをすることで、シュートにつながるまでの流れが重要だと改めて分かり、以来、サッカー観戦の際にも、シュートシーンばかりに注目するのではなく、ピッチ全体を観るようになりました。

CPサッカーは男女混合なのですが、女子選手はまだ少ないため、チームメイトも対戦相手もほとんどが男性です。さすがにスピードやフィジカルでは男子にかないません。でもその分、周りの状況をよく見たり、相手選手の蹴る方向や位置を予測して動いたり、タイミングを見計らって相手選手とボールとの間に身体をうまく入れたりすることで、十分勝負できていると自負しています。右半身が動かしにくいのですが、条件はみな同じ。身体の使える部分はすべて使って勝負しています。

昨年あたりから女子選手が増えてきたので、できれば女子の日本代表チームをつくってほしいです。そして私もぜひ日本代表に入りたいですね」

※国際大会は、2017年より女性の参加が可能になった

■大田麻衣(おおた・まい)

女子髄一のスキルを持つ大田麻衣

38歳/先天性の左半身まひ/FT2/エスペランサ/FP
サッカー経験があり、広い視野と柔軟な右足首を使った巧みなボールコントロールが魅力。女子のCPサッカー普及に努める。

「もともと身体を動かすのは好きで、海外にいた小学生のころに3年間通っていたポルトガルのアメリカンスクールでは、陸上、テニス、ソフトボール、バスケットボールと、シーズンごとにいろいろな部活動をしていました。

サッカーを始めたのは、日本の高校で女子サッカー部に入部してから。大学時代は体育会の女子サッカー部に入り、週に6日、活動していました。さすがにレギュラーにはなれませんでしたが、選手兼マネージャーとして部の運営に携わったのはいい経験になりました。
エスペランサに入ったのは2018年5月です。外資系IT企業に転職したのをきっかけに、社内のボランティア関連のアクティビティに参加するようになったのですが、その際、CPサッカーで女子選手を募集していると聞きまして。最初はサッカー経験を活かして女子への普及活動に貢献できたらと思っての参加だったのですが、まずは自分がプレーしてみないと分からないかもと思い、プレーヤーとしても活動し始め、いまに至っています。

プレーしてみて、改めてCPサッカーの魅力ってたくさんあるなと思っています。たとえば、CPサッカーをすることで筋力がつき、歩くのが精いっぱいだった人が走れるようになったりするんです。すると、おのずとできることも増えて、それが自信にもつながります。また、今回の大会のように試合を通して海外の方と交流したり、海外遠征に行く機会もあるなど、世界もぐんと広がりますよ。世界のトップレベルを目指して競技力向上に励むこともできますし、同時にだれでも楽しめるスポーツであるのもいいところ。幸い英語ができるので、女子を中心にCPサッカーを世界に発信する活動をしていきたいです」


※FPはフィールドプレーヤー、GKはゴールキーパー。
※クラスは暫定。

【国際CPサッカークラブチャレンジCUP リザルト】


1位 エスペランサ(神奈川)
2位 CP神戸(兵庫)
3位 上海

サッカーのナショナルトレーニングセンター、J-GREEN堺で開催された

CPサッカーについて:
https://www.parasapo.tokyo/sports/football-7-side

text by TEAM A
Photo by Yoshio Kato

※本事業(国際クラブチームチャレンジCUP)は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。

『「一人ひとり障がいが違う」脳性まひ者CPサッカーとは? 注目選手に魅力を聞いた』