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車いすバスケットボール
車いすバスケットボール「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP」、東京2020パラリンピックに向ける強化&運営準備の“集大成”
2017年から3年計画で開催された「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 」は、9月1日に決勝戦が行われ、東京2020パラリンピックに向けて最後の大会を迎えた。
<代表チームの強化>3年間の収穫は、若手の成長と勝利の経験
男子代表チームが4ヵ国総当たりの予選と決勝トーナメントを行う本大会。
1年目は、オーストラリア、トルコ、イギリスの強豪と争い3位に。2年目からは、東京体育館から東京パラリンピック本番会場の武蔵野の森総合スポーツプラザに場所を移し、強豪ばかりオーストラリア、カナダ、ドイツを相手に日本は初優勝。
そして、最終年の今年も、2018年の世界選手権4強であるオーストラリアとイラン、さらには日本にとって宿敵といえる韓国という強豪の招へいが実現。予選では昨年のインドネシア2018アジアパラ競技大会の決勝で敗れたイランに63-57で雪辱を果たしたことが大きな収穫となった。一方、昨年は2勝したオーストラリアには日本の武器であるトランジョンを対策され、77-60で敗れ、そのオーストラリアに勝利していたイランが2勝1敗で並び、得失点差で日本は決勝進出を逃した。3位決定戦では50-36で勝利し、3位で大会を終えた。
強豪オーストラリアと力の差ついて選手たちはこう分析する。
「決定力に差があった。速さも高さのあるオーストラリアに対して、日本もそれ以上の速さを一人ひとりが身につけないといけない」(鳥海連志)
「すべての選手が世界レベル。インサイドはもちろんのこと、アウトサイドやスリーポイントの精度が高く、(障がいの重い)1.0点の選手がインサイドに潜り込んでシュートを続ける。あれはチームを救うし、個がチームを作り上げている強さを感じた」(藤本怜央)
それでも、得点力のある香西宏昭と藤本の二人に頼らない“12人が主役のバスケットボール”は磨かれつつある。本大会の開設が発表された2017年、及川晋平ヘッドコーチ(HC)は「若い力を汲み取りながら、(9位だった)リオ後の男子日本代表を披露し、いい試合の連続と勝ちをもぎとって自信をつけられれば。この大会が東京に向ける試金石となるように最大限のチャレンジをしたい」と話していたが、前回大会での優勝経験に加え、リオで17歳だった鳥海、スリーポイントを打てる古澤拓也、代表に定着したセンターフォワードの村上直広に加え、2019年は豊富な運動持ち味の川原凜、チーム随一のスピードを誇る18歳の赤石竜我もブレイクし、まさに公言していた通りの3年間になったのではないだろうか。
「連覇へ いどめ」が今大会のポスターのキャッチコピー。選手たちは決勝に進めなかったことを一様に悔やんだが、及川HCは、「選手たちはホームの大声援の応援を力に変えてイランに勝利し、オーストラリア戦でもあと少しのところまで戦えたことは、来年に向けて大きなアドバンテージになる」と選手をたたえ、指示の声をかき消すほどの声援を送った観客に感謝した。
11月には2020ホスト国の日本以外の各国がパラリンピック切符を争うアジアオセアニアチャンピオンシップが開催される。各国が目の色を変えて臨む大会で、速い展開で流れを呼び込む日本らしいバスケットを継続できるか。引き続き、注目したい。
<ムーブメントの拡大>有料席含め来場者22,547人が熱狂!
多くの観客を呼び込み、東京2020パラリンピックの成功へつなげる――それもこの大会の重要な目的だ。
今大会は全4日間でのべ22,547人が来場。とくに、29日、30日は地元3市(調布市、府中市、三鷹市)をはじめとする小中学校や都内のパラリンピック応援指定校の生徒などでスタンドが埋まり、3年目の開催で子どもたちを中心にした地元の人たちへ人気が定着してきたことをうかがわせた。
大会直前の8月22日には日本車いすバスケットボール連盟が調布市と相互協力に関する協定を全国で初めて締結。今大会の河石功実行委員長は「三菱電機WORLD CHALLENGE CUPほどの規模にはならなくとも、今後も大会の開催や交流を続けられるように提案していきたい」と期待を込めて語った。
また、初めての取り組みとして販売された日本代表シート(日本ベンチの真後ろ)も完売、31日と1日の有料アリーナ席も完売。テレビでも生中継され、これまで以上の多くの観客が車いすバスケットを観戦したことになる。
会場設営では、だれもが観戦できる配慮や工夫も見られた。1年目にはなかった親子連れのためのキッズスペースやベビーカー置き場も設置され、今年からはスロープで上り下りできる車いす用のシートもアリーナに設けられた。ゴール裏に設けられた車いす席は、従来のコートサイドの席と比べて見えにくいなどの声もあったが、席を整理するボランティアなどを配置すれば混み合ったときなど、皆がもっと快適に観戦できるに違いない。
さらに、毎試合、終了後には選手との記念撮影やサインを求めて“出待ち”をするファンの姿もあり、車いすバスケットボールが健常の競技も含めた人気スポーツの仲間入りをしたと感じさせた。日本選手が速攻のレイアップシュートを外したときなどはもう少しブーイングが湧いてもよかったと感じるが、来年の本番は、今大会で生まれたムーブメントを持続させ、満員の観客席が日本代表の活躍で揺れるシーンを必ず見たい。
<運営準備>審判員やテーブルオフィシャルの強化にも手ごたえ
そして、もうひとつ、国際レベルの審判員、スコアや時間の管理をするテーブルオフィシャルズ(TO)、競技ボランティアの育成も大会開催の目的だった。
河石実行委員長によると、男子U23、女子U25など世界レベルの大会で大事な試合で活躍できる若い審判員が順調に育ち、さらにTOについては日本バスケットボール協会に講師の派遣をお願いして講習会を開きつつ、日本車いすバスケットボール連盟独自の方法にこだわって20名のTOを養成した。
本番の審判員とTOは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が選ぶことになるが、「この大会を経験して育った審判員とTOの多くが、パラリンピックという特別な舞台で活躍する姿を思うと楽しみ」と河石実行委員長は話し、本番会場となる体育館を見渡した。
主役である選手も、支える人も、応援する人も。それぞれが最高の準備をして1年後の東京パラリンピックを迎える。
1位 イラン
2位 オーストラリア
3位 日本
4位 韓国
text by TEAM A
photo by X-1