子どもたちにパラリンピックの魅力を伝えて東京2020を盛り上げる。国際パラリンピック委員会公認教材「I’mPOSSIBLE」を記者発表
日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)、アギトス財団、日本パラリンピック委員会(JPC)は、学校教育の現場でより多くの子どもたちにパラリンピックの魅力を伝えるための教材「I’mPOSSIBLE」を開発。その日本版が東京2020に向けて、4月末から全国の小学校全校に配布される。2月21日の記者発表では、日本版を公認した国際パラリンピック委員会(IPC)のフィリップ・クレイヴァン会長らが出席し、パラリンピック教育の重要性を訴えた。
パラリンピックの選手たちが体現するメッセージ
「I’mPOSSIBLE」は、国際パラリンピック委員会(IPC)のパラリンピック教育プログラム。世界各国に先駆けて、まず日本が学校教育の現場に取り入れることになった。
「不可能(Impossible)だと思えたことも、ちょっと考えて工夫さえすれば、何でもできる(possible)ようになる」。
教材名の「I’mPOSSIBLE」は、2014年に開催されたソチパラリンピックの閉会式のワンシーンに由来する。その閉会式では、スタジアムにImpossibleの言葉がゆっくりと降りてきて、車いすに乗ったアスリートが15mのロープを登り、Impossibleの言葉に到達。彼はIとMの間に飛び込み、自分がアポストロフィーになってI’mPOSSIBLEに変わる見事な演出があった。
この「I’mPOSSIBLE」は、まさにパラリンピックの選手たちが体現しているメッセージであり、また教材にはパラリンピックムーブメントの中心を担うパラリンピアンたちが伝えたいメッセージも盛り込まれている。
フィリップ・クレイヴァン会長は、「パラリンピック教育は、素晴らしいパラリンピアンたちの能力を若い人たちに深く知ってもらい、価値を理解してもらうことで、彼らが家に帰り、自分の親や祖父母に伝えていく『リバースエデュケーション』だと考えている。通常は、大人が子どもに伝えていくものであるが、このパラリンピックムーブメントの素晴らしさは、若者が教師になることだ。次世代に『彼らが決意を持ってやれば何事も可能である』と学んでほしい」と力強く話した。また「このプログラムは、興奮を呼び、近々に行われるパラリンピックに焦点を当てるだけでなく、これからの共生社会をつくっていくものだと確信している」と期待を込めた。
続いて、開発メンバーの一員である日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会の鳥原光憲会長が登壇。
「これまでは国内でのパラリンピック教育ツールはほとんどなかった。これは我々の情報発信が足りなかったことも一因だが、今回ようやくIPC公認のパラリンピック教材を提供できるようになった。パラリンピック競技は、障がいがあってできなくなったことがあっても規則や用具などを工夫することで参加を可能にするという側面を持っている。『工夫をすれば、できないことはない』という気づきを広げていくことで、多様性と調和について考える機会が増えることを大いに期待している」と、本教材開発の意義を語った。
実際に、オリンピック・パラリンピック教材を称するものはすでに存在していたものの、パラリンピックに関する内容は極端に少なく、誤訳があったり、他の障がい者スポ―ツが含まれているなど、正確でない内容の教材が多く出回っていて、IPCなどは東京2020に向けて「I’mPOSSIBLE」の活用を推し進めていく。
素晴らしいことが、この東京から始まる
パラサポ最高顧問で、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長も挨拶し、「東京2020はオリンピックとパラリンピックをひとつの組織体でやろうとなった世界で初めての試みだが、本当にやってよかった。『東京2020』という言葉ひとつでオリンピックとパラリンピックも含まれることを、日本の人たちにも了解を得たと思っている。日本の学習指導要領は、私も気づかなかったが、オリンピックという言葉しかなかった。それを変え、オリンピック・パラリンピックということになったのは大きいことである。とても素晴らしいことが、この東京から始まる」と話した。
また、来賓として出席した丸川珠代東京オリンピック・パラリンピック担当大臣は「東京大会に向けた3年間は日本社会のありかたを新しいステージに引き上げる期間になる。物理的なバリアフリーはもちろん、教育を通じた心のバリアフリーを東京2020の次世代に残すレガシーにしていく」と挨拶し、水落敏栄文部科学副大臣は「この教材はパラリンピックの競技用具や歴史が子どもたちにわかりやすくクイズ形式で記載されていて、パラリンピックの理念がうまく反映されている」と話し、教材の完成を喜んだ。
これまでのパラリンピック教育は、パラリンピック開催国で行われることが一般的だった。しかし、パラリンピック開催国のみだけでなく、またパラリンピックムーブメントをより大きなものとするために、全世界の子どもたちに向ける教材として「I’mPOSSIBLE」が制作された。
日本の教育現場で活用しやすいように改良されている日本版は、小学校高学年用に45分(1時限)で完結するよう編集されており、教師用(教師用ハンドブック、教師用指導案、教師用授業ガイド)、児童用(授業用シート、児童用ワークシート)、資料DVDで構成される。
パラサポの山脇康会長は、「今月14日に公表された小・中学校の学習指導案要領改定案には、『主体的・対話的で深い学び』の実施が掲げられている。この教材では、例えばパラリンピック競技の体験学習を通じて、気づきや発見を含めて、そこで感じたことや考えたことを元に、工夫することの大切さや諦めないことの大切さを学んだり、障がい者理解を深めていくことができると思っている」とアピールした。
最後に、パラサポのプロジェクトマネジャーで長野1998パラリンピック冬季競技大会金メダリストのマセソン美季が教材について説明し、「私も、パラリンピアンとして、東京大会を大成功に導くための教材開発に関与できて大変光栄。子どもたちがパラリンピックを学び、興味を持ち、応援したいという気持ちや、自分たちに何ができるかという気持ちになれるようなきっかけづくりに活用してほしい」と教材に込めたおもいを語った。
教材は来年以降、増やしていく予定で、第一弾の4授業分は全国の2万校の小学校に配布されるほか、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のホームページからデジタル版のダウンロードが可能になる。
text&photos by Parasapo