義肢装具の最新テクノロジーが集結! 30年ぶりに日本で開催された展示イベントに世界が注目

2019.10.29.TUE 公開

10月5日から8日の4日間、神戸コンベンションセンターで、義肢装具の世界大会『ISPO 17th WORLD CONGRESS』(第17回国際義肢装具協会世界大会)が、30年ぶりに日本で開催され、世界70ヶ国から医師や義肢装具士、理学療法士、エンジニアなど約5000人が集結した。
また、5日と6日には、隣接するワールド記念ホールで、一般の方を対象とした兵庫県主催のパラスポーツイベントも実施され、パラリンピック陸上競技で2つの金メダルを持つ、ハインリッヒ・ポポフ氏がトークショーを行った。

東京2020パラリンピックに向けて、日本の先端テクノロジーに世界からの注目が高まっているが、今回はスポーツシーンだけでなく、障がいのある方やお年寄りの日常生活を支える世界の技術を紹介したい。

日本での開催は30年ぶり

ISPOは義肢装具関連技術の向上と教育の普及・標準化を目指し活動する団体で、2年ごとに世界で大規模な義肢装具関連の国際学術会議を開催している。今大会のテーマは「Basics to Bionics(基礎からバイオニクスへ)」。従来のリハビリテーション手法や人と機械(リハビリテーションロボット)の相互作用など、基礎技術と最先端技術の関連性や、双方の重要性について幅広く扱われた。

シンポジウムでは、リハビリテーションに携わる専門家、教師、臨床医、研究者、技術者、製造業者、医師、セラピストらが登壇

世界の技術に驚き! 世界70ヶ国・約120社、圧巻の展示!

日本は、アジアで2番目に大きい医療製品のサービス市場とされており、今大会は、各社にとってアジアで新しいビジネスを構築する絶好の機会であることから、欧州を含め世界70ヶ国から約120社が出展し、会場を埋め尽くした。海外企業のうち3割はドイツの会社が占め、各社のブースでも「made in Germany」の看板が大きく掲げられていた。

ドイツには、整形外科職人(Orthopädische Schuhe)が存在するなど、医療と義肢装具の分野で先進国とされている

ドイツの代表的な企業である「ottobock.」は、1919年に創業した総合医療福祉機器メーカー。スポーツ義足のイメージが強いが、車いす、小児用座位保持装置や歩行器など、様々な機器を取り扱う。装具の制作工程の一部を実演するワークショップコーナーもあった。

ひときわ来場者の目を引いていたのは、「stamos + braun prothesenwerk」社(ドイツ)の本物そっくりなシリコン製の義手。使用する人に調和する自然な形と色が特徴で、機能性と装着快適性の高さが利点だという。

シリコンテクノロジーの進化。よく見ると爪の長さまでそれぞれ違う

こちらもドイツの会社「amparo」。
足や手に装具を着ける際に、直接肌と触れ合う部分であるソケットを手掛けている。従来の複雑な製造プロセスを数ステップに簡素化し、脚や腕にダイレクトにフィットする新しいシステムを開発。

フィットしなければ、痛みが出ることもある重要なソケット部分
ソケットの製造プロセスの一つを体感できるコーナーも

1971年にアイスランドで創業された「öSSUR」の電子制御式膝継手「リオニーXC」は、角度と体重移動を察知し、自動でアシストする。

普段はプログラマーの仕事をしているという、ユーザーの西村さんは「生活がとても快適になりました。気分があがると、行動範囲も変わる。子どもとキャッチボールができるようになり、家族との時間を楽しめるようになったことが何より嬉しいです」と笑顔を見せ、「いつかパラトライアスロンに挑戦したい」と、夢を語った。

階段を上り下りをする動作を見せてくれた西村さん
アプリとの連動機能もある

最後に日本の企業をご紹介しよう。今回、国内メーカーは35社が出展。
リハビリテーション機器の総合メーカー酒井医療株式会社は、外からも目立たない治療器「WILMO」を展示。片まひ患者の弱い筋電を検出し、それに比例した電気刺激を与えて随意運動をアシストする治療法で改善を目指す。本体質量は約55gと腕時計のような手軽さだ。

装着を繰り返すことで、症状の改善を目指せるという

走り幅跳びの金メダリスト、ハインリッヒ・ポポフ氏がトークショーに登場!

隣接するワールド記念ホールにて開催されたパラスポーツイベントでは6日、パラリンピックの陸上競技100mと走り幅跳びの両方で金メダルを持つ、ハインリッヒ・ポポフ氏、陸上・女子走り幅跳びの兎澤朋美(とざわ ともみ)選手、吉田知樹(よしだ かずしげ)選手がトークショーを行った。

(写真手前右から)吉田選手、兎澤選手、ポポフ氏

ポポフ氏は、2012年のロンドンパラリンピックで陸上競技の100M、2016年のリオ大会で走り幅跳び金メダルを獲得したパラ陸上界のスーパースターだ。現在は、東京パラリンピックに向けた選手サポートや、世界各地でランニングクリニックを開催し、義足で走る楽しさを伝えている。

現役を引退した今でも、東京パラリンピックへの思い入れは特別のようだ。
「初めて日本を訪問した時に、スポーツを教えるだけでなく、小学校を訪問し、子どもたちと交流することがありました。その時に感じたことは、日本人はお互いを尊重しあう文化を持っていること。それぞれ色とりどり持っている違う部分を尊重し合って、文化とスポーツが融合するような大会にできるのではないかと思っています」

さらに、日本のパラリンピックは特別なものになると感じているという。
「選手個人の試合や戦績も大切ですが、関係者の皆さんが『どうやったら一帯になって盛り上がっていけるか』を常に考えている。きっとユニークな大会になる」と、期待を込めて語った。

陸上競技の100Mと走り幅跳びでアジア記録を持つ兎澤朋美選手は、
「いよいよ東京パラリンピックが来年に迫りました。私自身も出場を目指して活動しています。(振り返ると)2016年リオ大会のポポフ氏や日本人選手の活躍を見て、『もっと頑張ろう』と勇気付けられ、気持ちがプラスになったことで、今があると感じています。来月行われる世界選手権で4位以内に入ることが出来れば、内定が近付くので、東京に繋げられるよう頑張りたいと思います」と、東京パラリンピックに向けて意気込みを語った。

同じく、走り幅跳びで今後の活躍が期待される吉田知樹選手は、
「来年の東京大会は、日本の人たちにパラリンピックをもっと知ってもらえる良い機会だと思っています。競技を頑張ることで、障がいのある人が何か新しいことをチャレンジしたり、スポーツを始めたりする後押しができれば嬉しいです。」と話した。

30年ぶりに日本開催となった国際義肢装具協会世界大会。義肢装具は、単に身体をサポートする道具ではなく、装具を必要とする人の心を自由にする。東京2020パラリンピックでは、世界の先端技術が結集され、アスリートたちの羽ばたく瞬間を見られることだろう。

パラサポの会長 山脇康(右から3人目)と、同スタッフでパラ・パワーリフティングで東京パラリンピック出場を目指す山本恵理(右から2人目)も会場に駆け付けた

text & photo by Parasapo(Yuri Motoyama)

『義肢装具の最新テクノロジーが集結! 30年ぶりに日本で開催された展示イベントに世界が注目』