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車いすバスケットボール
主将と次世代エースの誓い「“一心”で、メダルを獲りに行く」
text by Number編集部(Sports Graphic Number)
photograph by Takuya Sugiyama
※本記事はSports Graphic Number との共同企画です。
連載第8回のゲストは、強豪国とも互角の勝負を繰り広げる
日本の車いすバスケを牽引するキャプテンと若手のホープ。
代表チームの進化の核心から、リーダーシップの重要性、
果ては髪型に至るまで、草なぎ剛と存分に語り合った。
車いすバスケットボール日本代表が、東京パラリンピックに向けて勢いに乗っている。昨年の世界選手権では9位に終わったものの、今年8〜9月に行われた「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 2019」で同4位の強豪国イランを破り、メダル圏内の実力を証明したのだ。
本番まで1年を切り、目標とするメダルへの道筋は見えているのか。リオパラリンピック後から代表でキャプテンを務める豊島英(あきら)と、17歳でリオを経験した新鋭、鳥海(ちょうかい)連志。代表争いも激しさを増す中、ともに中心選手として、来年の活躍が期待される2人に話を聞いた。
草なぎ 鳥海選手はまだ20歳ですよね? 若いなあ。しかも日本代表に初めて選ばれたのは15歳! いきなり年上の大人に囲まれて、最初はドキドキしたでしょう。
鳥海 当時はまだ同世代の選手もいなかったので、はじめての合宿は緊張しました。海外でプレーする先輩もいたし、とにかくみんな自分より上手かったので。
豊島 緊張してたの? そうは見えなかったけど。今の代表候補選手の年齢層は最年長が39歳と幅が広いんです。車いすバスケはクラブチームには40歳超えてる人もいるので、年上とのプレーには抵抗ないと思うんですけど……どうですか?(笑)
鳥海 もちろん、今はまったくないです。
草なぎ キャプテンの豊島さんから見て、鳥海選手はじめ若い選手の存在は、チームにどういう影響を与えていますか。
豊島 試合では、若手の勢いで流れが来ることも多いです。それに刺激を受けて、全員が奮起し、相乗効果でチーム全体のレベルが上がってくる。その意味で必要不可欠な存在ですね。僕が初めて代表に入った2012年のロンドンパラリンピックの頃は、プレーに関することもそうですし、代表として活動する上で必要な些細なことも年上の選手とシェアできていなくて、それがストレスにもなっていました。だからこそ自分がリオのあとにキャプテンに就任して、まずはじめに考えたのがチームの一体感の作り方でした。若い選手の意見を積極的に聞いてあげたり、ベンチでも声出しの方法を変えたり。
鳥海 豊島さんはリオの前からずっと僕のことを気にかけてくれて、ミスした時にもフォローしてくれた先輩です。僕は長く年上の方々と接してきたので意見を言いやすいですが、どうしても若い選手は、先輩に対して意見を言いづらい面があると思う。今は19歳の赤石(竜我)選手のような年下の選手もいるので、同世代の選手から意見を引き出してあげることを僕も意識しています。そうすることで、チームとしていい環境を作り出せると思うんです。
草なぎ うーん、しっかりしてる。僕が20歳の頃とは全然違うな(笑)。
豊島 プレーの面を考えても年上に気を遣って物を言わないメンバーにはなってもらいたくない。勝つために互いにぶつかって、言いたいことを言い合ってこそ、その先があると思います。
草なぎ 8月の大会では強豪のイランに勝って。今は日本代表のチーム状態もすごくいいみたいですね。
豊島 イランには勝ちましたが、昨年の世界選手権で3位のオーストラリアには負けてしまいました。でもそのオーストラリアはイランに負けているんです。
草なぎ 実力が拮抗しているんですね。イランもオーストラリアも同じアジア・オセアニア地区のライバルだと思いますが、他の地域に比べてレベルは高いんですか?
豊島 高いです。だからここでトップになれば、東京でも十分、メダルに手が届く。日本は他の地域の強豪とも渡りあえるようになっています。リオで銀メダルを取ったスペインを相手に、世界選手権ではワンゴール差、6月の親善試合では1点差まで迫れた。以前は試合前から「負けるだろうな」というイメージでしたが、今は自分たちのバスケが出来れば互角に戦える手応えがあります。
草なぎ 2016年のリオパラリンピックで日本は9位でした。そこからかなりの進歩ですね。
鳥海 実はリオの時はベンチに入るメンバーは12人いても、出場するのは、スタメンの5人がメイン。僕もほぼベンチでした。
豊島 苦しい時間帯も5人で押し切ってしまうようなバスケだったんです。今は選手層も厚くなり、12人でプレーイングタイムをシェアしながら試合に臨める。さらにその時間帯に出場しているメンバーの特徴に合わせ、攻守両面のプレーを選択できるようになってきました。
草なぎ メンバー選びという点では、車いすバスケには持ち点のルールがありますよね。そこを勉強していくと面白い。
豊島 選手はそれぞれ障がいの程度で持ち点が1.0から4.5まで決まっていて、数字が低いほど障がいが重くなります。コートに出ている選手の持ち点の合計は14点以内にしないといけません。そこがひとつの戦略のカギになります。
鳥海 特に障がいの重い、持ち点2.5の僕のようなローポインター(2.5以下)がどれだけ活躍できるかは試合展開にも大きく関わってきます。
草なぎ 豊島さんの持ち点は?
豊島 僕は2.0点なので、鳥海と同じくローポインターです。
草なぎ じゃあおふたりの存在って、持ち点という意味でもすごく重要になってきますね。素朴な疑問ですが、同じローポインターでも、プレースタイルや持ち味はそれぞれ違ってくるんですか?
鳥海 それぞれ抱える障がいが違う中でも、僕の場合は特例で、上肢障がい(右手指が1本、左手指が3本欠損)があって、パスもシュートも左手ではできません。逆に、下半身の障がいは軽度。だからスピードやチェアワークは、ほかのローポインターと比較してもそれなりのレベルにあると思います。片輪を上げて高さを出す「ティルティング」など、大きいアクションでプレーすることで、相手チームのローポインターとのマッチアップで違いを作りだすことを意識しながらプレーしています。
豊島 僕はディフェンスが持ち味かな。スピードを活かしたスティールだったり、相手のハイポインター(持ち点3.0以上で、障がいの程度が軽い選手)を抑えるアグレッシブな動きだったり。海外のチームは高さを使ってくるので、リングに近づけたくない。だから引いて守るのではなくて、ゴールから遠ざけるためのアグレッシブな守備が大事になってきます。この点をチームとして徹底することで相手はどんどん苦しくなる。今はガンガン行ける選手が揃っているので、守備のプレッシャーは世界に通用する大きな武器だと思います。
本番まで、時間はないようで、ある。
日本はもっとレベルアップできる。
鳥海 あと、攻守両面で誰がリーダーシップをとるかはゲームを左右するので、豊島さんの存在は本当に大きい。司令塔としての力は、豊島さんには絶対に敵いません。
草なぎ お話を伺っていると、豊島さんのキャプテンシーは凄いですよね。それって天性のものですか。
豊島 いやいや(笑)。キャプテンのあるべき形とかもわからないので……。
鳥海 この間の大会のミーティングで、豊島さんがチームの心を一つにして戦おう、という意味で「一心」という言葉を筆で書いてくれたんですよ。自分たちがそれぞれ持ってる気持ちや大義が一つになるように、その言葉を作ってくれたんだと思います。
草なぎ いい言葉だなあ。舞台稽古の初日に使おうかな、「一心」。
豊島 あんまり「やってます感」は出したくないので、基本的には見えないところで動いているんですけど(苦笑)。
草なぎ あ、それはわかります。バスケもそうですが、映画や舞台など人が集まって何かを作りあげていく時、チームワークは大事ですよね。僕は、監督や演出家がいるし……と考えて、あまり積極的にリーダーシップをとるほうではないのですが、選手も俳優もそれぞれ個性があって、一生懸命さゆえにぶつかってしまうこともあるわけじゃないですか。そこでバランスを取れる人がいるのはすごく心強いはず。
豊島 見て見ぬふりの方が、後になって辛くなるんです。気づいた時に行動した方が、気分的にも楽になるので、あまり大変だとは感じませんね。
草なぎ 東京パラまで1年を切って、代表活動も増えていくと思います。チームで過ごす時間も濃密になってくるでしょうね。
鳥海 草なぎさんにひとつ質問をしてもいいですか?
草なぎ もちろんです。
鳥海 芸能人の方って常に人に見られることを意識していると思うのですが、何か気をつけていることがありますか。実は僕も東京に向けてどういう髪型にしようかと考えていて。今は長髪ですけど、本番での髪色とか悩むのも楽しくて。
草なぎ いいですね! 僕も基本的に誰かがいたらいいところ見せたいし、格好つけたいし、モテたい。それは当たり前なんだけど、だからこそ一人でいる時にちゃんとしたいと思っています。一人でいる時こそ、恥ずかしくない行動をしよう、と。誰も見てないからいいや、って気持ちになると良くないというか。ご先祖様も見てるかもしれないし(笑)。でも、鳥海選手は身体のコンディションだけじゃなくて、髪型も調整しないといけませんね(笑)。鳥海選手は普段からこういうキャラクターなんですか?
豊島 いつもこんな感じです(笑)。
草なぎ でもプレーも髪型も自分のスタイルですから。スポーツでも観客のみなさんを盛り上げるということも大事ですもんね。最近は健常者のバスケでも、Bリーグはもちろん、八村塁選手がNBAにドラフトで指名されたり、日本代表がW杯に出場したり、凄く盛り上がっていますよね。
鳥海 僕は縁があってほかのスポーツで活躍している同世代のアスリートと関わりを持たせてもらうことが多いんです。バスケだと女子のオコエ桃仁花選手とか。切磋琢磨ではないですけど、彼らの活躍を見るのは単純に嬉しいですね。
豊島 バスケに限らず、日本代表の試合は見入ってしまいます。勝ち負けだけじゃなくて、選手の表情を見て、つい自分がその立場だったらどうなるか、を想像してしまう。ラグビー日本代表の勝利を見ると、自分たちも結果を出さないとな、という気持ちが湧き上がってきます。
草なぎ 逆にそれはプレッシャーにはなりませんか?
豊島 もちろんありますが、それ以上に今後への期待感が大きいです。ふとしたときに「リオから3年も経ったんだ」と思うことがあります。この3年間のチームの成長を振り返ると、この先の1年間でも今より日本代表は強くなれる、と感じます。
鳥海 あ、それはわかります。
豊島 いまの代表チームが目指している「トランジション(攻守の切り替え)バスケット」という軸はそのままに、細部でレベルアップできる部分がまだまだたくさんありますから。1年を切って逸る気持ちはもちろんありますが、時間はないようでまだある。とにかく本番で一番高いところを目指して、コーチ陣が考える戦術をどれだけの精度で遂行できるか。残された時間で一歩一歩進んでいきたいです。
鳥海 僕は2020年の開催が決まった時は、14歳でした。「東京」という目標があったからこそ、ここまで成長できたという実感を持っています。そういう意味で、今から東京までの1年間がずっとエンドレスに続いてほしい。そうしたらどんどん成長できるじゃないですか。
草なぎ 僕も頑張らないと! おふたりの話でなんだか元気が出てきました。
豊島英 Akira Toyoshima / Wheelchair Basketball
1989年2月16日、福島県生まれ。中学2年生で車いすバスケを始め、日本選手権(天皇杯)でMVP3度。’12年ロンドンを経験し、’16年リオパラリンピック後は代表キャプテンを務める。WOWOW所属。
鳥海連志 Renshi Chokai / Wheelchair Basketball
1999年2月2日、長崎県生まれ。先天性の上下肢障がいで3歳で両足を切断。車いすバスケは中学1年生から。’16年リオパラリンピックに17歳7カ月で出場。’17年U23世界選手権でベスト5選出。WOWOW所属。
草なぎ剛 Tsuyoshi Kusanagi
1974年、埼玉県出身。11月16日に稲垣吾郎、香取慎吾と共に『ParaFes2019 〜UNLOCK YOURSELF 〜』に出演。11月27日、28日にイベント「草なぎ剛のはっぴょう会」を開催した。2020年1月11日〜2月2日にはKAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉にて主演舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』に出演。
本連載は約2カ月に1度の掲載、次回は12月26日発売号の予定です。
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