子育てママや障がいに合わせて楽しめる! 日本初のユニバーサルシアター

2019.12.04.WED 公開

映画館に行きたくても、小さな子どもがいると周りに迷惑をかけてしまうかも、車いすだと入れないかもなど、さまざまな理由からあきらめてしまう人も多いよう。実は、そういった人たちの気持ちに寄り沿う、日本初のユニバーサルシアターがあるのだ。

利用者のニーズに合わせたサポートが魅力の「シネマ・チュプキ・タバタ」

 

まず、ユニバーサルシアターとは、一体どんな映画館なのだろうか。今回紹介する「シネマ・チュプキ・タバタ」は、誰もが気兼ねなく楽しめる映画館を目ざして、2016年に設立された。車いすの人、視覚や聴覚に障がいがある人などの利用を想定した設備をととのえており、さらには小さな子ども連れのママやパパ、お年寄りなど、すべての人が安心して過ごせる工夫をこらしているのが特徴だ。

「シネマ・チュプキ・タバタ」はJR田端駅北口から徒歩5分のところにある。常設の座席は15席、車いす用席2席で、補助いすを入れても最大収容人数は20名ほどと、とてもこじんまりした映画館だ。「チュプキ」とはアイヌ語で自然の光を意味するそうで、館内の壁には大きな木が描かれ、シアター内は森をイメージした内装であたたかみがあり、居心地のよい空間となっている。

小さな映画館だからこその良さは、スタッフの目が行き届き、利用者のニーズに合わせたこまやかなサポートができること。子育て中のママには折りたたみ式のおむつ替えベッドの用意があり、視覚に障がいのある人には駅までの送迎サポートなどもしてくれる(予約時に相談)。

客席までバリアフリー。全作品に日本語字幕&音声ガイドつき

館内は入口からトイレ、そして客席まで段差はなく、バリアフリー。シアター内には車いす用の座席もあり、そのまま鑑賞できる。常設のシートは幅が広めでゆったりとしたつくりが特徴だ。大きなシネコンだと座席数が多く、トイレのために席を立つのにも周りに気を遣ってしまうが、ここではそんな煩わしさはなく、リラックスして映画を楽しめるのもうれしいポイントだろう。

上映する映画はすべて、日本語字幕と音声ガイドつき。日本語字幕は映画配給会社が制作している場合が多いが、音声ガイドは作られていないことも多い。そういった作品については、この映画館を運営するバリアフリー映画鑑賞推進団体「シティ・ライツ」が音声ガイドを制作しているのだ。

撮影に協力してくれた視覚障がいのある男性利用者は、月に3回ほど観に来るそうで、「スタッフの配慮があることが大きいですが、周りのお客さんも障がいについて理解があるので、安心して観に来ることができます。私にとっては外に出て社会とつながる機会でもあるんです」と語った。

音声ガイドは、手元で音量調整が可能。抱っこスピーカーの貸し出しも

 

各席には音声ガイド用のイヤホンジャックが用意されており、映画館の音響と同時に音声ガイドも聴けるような仕組みだ。聴覚障がいは左右で聞こえ方の程度が違うことがあるため、手元のボリューム調整器で左右とも音量を変えられるようになっている。また、音を振動で感じられる抱っこスピーカーにも注目したい。ふだんとは違う感覚も使って映画を楽しむことができるので、ぜひ試してみては?

子どもがぐずっても大丈夫!子育てママの味方「親子鑑賞室」

子ども連れだとなかなか落ち着いて映画を楽しめないという声もよく耳にする。子どもは急にぐずったり、じっとしていられなくて叫んだりするもの。「シネマ・チュプキ・タバタ」の代表平塚さんは、地域の子育て支援をしているグループを通して、ママたちの生の声をヒアリングし、映画館の設計段階でこの親子鑑賞室をとり入れたそう。最初はシアター内で鑑賞していて、途中で子どもがぐずってしまったときも、空きがあれば親子鑑賞室に移動できるので安心だ(予約も可能)。音や光に敏感なこともある、発達障がいのある子どもを連れて利用するケースも想定し、部屋の照明と音量を調節できるのもうれしい心配りだ。

親子鑑賞室はシアターに隣接しており、カーテンを開けると小窓があり、そこから映画を観ることができる。小さくても自由に動けるスペースがあるのは、子ども連れにはうれしい限り。個室だから気兼ねなく、おやつや軽食をとることもできる。

支援者の思いが育てたチュプキの樹

今年3年目に入った「シネマ・チュプキ・タバタ」。設立には多くの資金が必要で、SNSやクラウドファンディングを通して呼びかけ、500名を超える支援者からの募金で夢の映画館を実現することができた。入口近くに描かれた、たくさんの葉が生い茂る大きな木のイラストは、よく見ると1枚1枚の葉に支援者の名前が書かれているのだ。館内に一歩足を踏み入れると、とても温かい気持ちになるのは、支援者たちの思いに包まれるからなのかもしれない。

 

館内の壁には、舞台挨拶に来た上映作品の監督や俳優、声優のサインや、シネマ・チュプキ・タバタへの応援メッセージが至るところに。2015年公開の映画『あん』で主役を務めた、故・樹木希林さんや河瀨直美監督もこの映画館を訪れ、サインを残している。

みんなの意識が変わるユニバーサルシアターでありたい

支配人の和田さんの思いを尋ねた。「小さな劇場だから利用者さんとの距離が近いこともあって、この3年でリピーターがすごく増えました。近くの商店街の人たちが、道に迷っている視覚障がい者の方を案内してくださることがあったり、飲食店がイベントに協力してくれたりと、街全体としても自然と障がいのある方々を受け入れる輪が広がりつつあるのを感じます。ユニバーサルシアターがここ1軒だけでなく、日本中に増えることが私たちの願いです」

代表の平塚さんは、「シネマ・チュプキ・タバタ」は、さまざまな理由で映画館に行くことをためらうすべての人のために、安心できる場所でありたいと語る。「ここは、障がいのある人もない人も、子連れの方もそうでない方も、映画を観るという同じ目的で、思わず様々な人に出会える場所。障がいについて理解を深めるとか、むずかしい話ではなく、多様な人々と出会うだけで何かの気づきが生まれることも。どんな方でも遠慮せず来ていただきたいです。みんなの意識が変わるシアターでもありたいのです」

誰もが安心して楽しめる映画館は、すべての人に優しい、そして、その優しさの輪を多くの人に広げる心温まる場所だった。

シネマ・チュプキ・タバタ
http://chupki.jpn.org/

text by Makiko Yasui(Parasapo Lab)
photo by Shuhei Taguchi

『子育てママや障がいに合わせて楽しめる! 日本初のユニバーサルシアター』