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トライアスロン
【舞台裏】思い出の地に降った魔法の雨|GO Journal 4号
2019年9月、それまでの猛暑が嘘のように肌寒いある雨の日。
大きな荷物を抱えた一人のアスリートが、東京・お台場の撮影現場に現れた。
トライアスロンの秦由加子選手。パラスポーツと未来を突き動かすグラフィックマガジン「GO Journal ISSUE 04」の表紙を飾るアスリートだ。
これまでに発行されたGO Journalはすべて読んだという秦選手。「選手一人一人の言葉がストレートに伝わってきた」と、同じアスリートとして共感する部分が多かったという。
実は、GO Journalクリエイティヴ・ディレクター、蜷川実花さんの大ファンで、「お会いするのがすごく楽しみだった」と、そっと明かしてくれた。
Scene 1
雨と光が織りなす地上のきらめき
最初のカットは、青々とした木のしげみをバックに撮影。蜷川さんがカメラを向けただけで、普段なら通り過ぎてしまいそうな木々が生き生きとして見えるから不思議だ。
傘をたたく雨音とシャッター音が軽快なリズムを刻み始めた。
シャッターを切りながら次のスポットへ。彼女と撮影クルーを待っていたのは、エメラルドグリーンの世界だった。
緑色に舗装された路面が雨の膜をまとい、光が反射して幻想的な空間を作り出した。撮影スタッフにとっては望まぬ雨だったかもしれないが、むしろそれを初めから計算していたかのようなニナガワマジック。撮影現場は一体感で包まれた。
Scene 2
Tokyoの夜を駆け抜ける
夜が深まり始めた頃、光を放つ宝石のような素材のジャージに着替えた秦選手がウォーミングアップを始めた。ストレッチをしたり、義足のたわみを使って跳ねる。徐々にアスリートの顔へと変わっていく。
30m程の距離を何度も走る。撮っては確認する作業の連続。手応えを感じてうなずく蜷川さん。
「かっこいいね!」という蜷川さんの一言に秦選手もほっとした表情を見せる。良い作品を作りたいという撮影クルーの結束力を高めた。
Scene 3
まばゆい光と優しさに包まれて
最後のシーンは、ふんわりとしたダウンのアウターにレーサーパンツ、ヘルメットを被って、バイクのショット。寒さは増し、降り続く雨が秦選手の顔をたたく。暗い駐車場に白く浮き上がる秦選手。
「トライアスロンは雨の中でもレースを行うので大丈夫です。私だけ温かい衣装なので申し訳ないです…」と気遣いをみせる秦選手。
人を思いやる優しい気配りができるのも彼女の魅力のひとつだ。
蜷川実花×秦由加子のラストショット
撮影開始から4時間が過ぎようとした頃、蜷川さんは充実した表情でカメラを置いた。 「蜷川さんがカメラ越しにいろいろな話をしてくださって楽しい時間でした。『美人さんだね』って言われたのは素直に嬉しかったです」と、少し照れながら秦選手は撮影の感想を語った。
2019年8月には灼熱の太陽のもと、今回の撮影が行われたお台場で、東京2020パラリンピック本番を想定したテストイベントが行われた。
「お台場は、近づくだけでドキドキする場所です。ここで撮影ができたのも素晴らしい思い出。来年は、東京パラリンピックのレースを“お台場の思い出”として記憶できるような一年にしたいです」と、東京2020大会での活躍を誓った。
「誰かにとっての憧れの存在になりたい」という秦選手の“現在(いま)”をとらえた「GO Journal ISSUE 04」。 ニナガワマジックの写真の世界とともに、現在を生きるアスリートの呼吸を感じてほしい。
text by Rihe Chang
photo by Hiro Nagoya
●鳥海連志選手のメイキングレポートはこちら
https://www.parasapo.tokyo/topics/24025