[第45回日本車椅子バスケットボール選手権大会]将来を嘱望された若手も奮闘。世界舞台挑戦への糧に

2017.05.12.FRI 公開

5月3から5日までの3日間、東京体育館では「内閣総理大臣杯争奪戦第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会」が行われ、決勝で宮城MAXが初優勝を目指したNO EXCUSE(東京)を振り切るかたちで接戦を制し、史上初の9連覇という偉業を達成した。優勝に大きく貢献したエース藤本怜央(4.5)が2年連続4度目のMVPに輝いた。同大会には各予選を勝ち抜いた16チームが出場。その中には、今後の日本車椅子バスケットボール界を背負うであろう若手の姿もあった。

栃木レイカーズの高松、悔し涙にくれた選手権デビュー

試合後、溢れる涙を、彼はどうすることもできなかった――。栃木レイカーズ高松義伸(4.0)、17歳。彼にとって初めての「国内最高峰の舞台」は、厳しいものとなった。

毎年のように優勝候補の一角に入る強豪・ワールドBBC(愛知)との対戦となった初戦、高松はスターティングメンバーに抜擢された。車椅子バスケットを始めてまだ1年ながら、彼の成長スピードはすさまじく、スタメンでの起用は、まさしくそれを物語っていた。

チームは、順調な滑り出しを見せ、第1ピリオドは17対11とリードを奪った。続く第2ピリオドはワールドBBCの猛追にあったものの、なんとか24対24の同点に踏みとどまり、逆転は許さなかった。チームとしては、まずまずといったところだっただろう。しかし、高松のプレーにいつものアグレッシブさがなかったことだけが気になっていた。

彼のプレーを初めて見たのは、今年3月に行われたU23男子日本代表候補の選考合宿だった。粗くはあるものの、その動きは、とても1年とは思えないほどで、将来性は無限大のように思えた。

ところが、日本選手権での彼に、その時感じられたものはほとんど見えなかった。結局、高松のプレーに変化はないまま、試合は終了した。チームも第3ピリオドに逆転を許し、そのまま引き離され、45対67で敗れた。

試合後のインタビューで、高松は何も言い訳にはしなかった。ただただ、「自分のプレーができなかった」ことを悔やんでいた。

「この悔しさを、次は絶対に晴らします」

U23男子日本代表に選出された高松の「次」は、世界の舞台だ。

U23のカギを握る長野WBCの丸山、熊谷

長野WBCの丸山

今年1月、U23男子日本代表は、世界選手権のアジアオセアニア予選で準優勝した。その快挙に大きく貢献した、丸山弘毅(2.5)と熊谷悟(3.5)の2人が所属するのが長野WBCだ。初戦でスタメン全員が日本代表候補というタレント揃いの埼玉ライオンズと対戦し、チームは39対68で敗れた。

主力として、すでに日本選手権の出場経験を持つ2人。年に一度の国内最高峰の舞台は、彼らにとって「自分の実力を試す場」となっている。そして、大会で得たものを成長の糧としてきた。

スピードに自信を持ち、カットインプレーを得意とする丸山は、スピーディなバスケットが持ち味のライオンズに対抗心を燃やしていた。特にリオパラリンピック日本代表で、持ち点が同じ2点台の永田裕幸(2.0)のスピードに対して勝負したいと考えていた。

「スピードだけは絶対に負けないつもりで戦いました。手応えを感じた部分もありましたが、ライオンズはただスピードがあるだけではなく、攻守の切り替えが速い。その部分では、まだまだ力不足を感じました」

一方、ミドルシュートを最大の武器とする熊谷は、ポイントゲッターとしての役割をまっとうしたいと考えていた。しかし、体育館の広さも天井の高さも、そして雰囲気も、いつもとは全く違う環境が影響したのか、前半はなかなか思うように得意のミドルシュートが入らなかった。それが、チームの敗因のひとつになったと感じている。

「終盤になって、ようやく自分のシュートが入るようになり、チームの流れもよくなっていったので、もう少し早い段階で修正できていればと悔やまれます」

長野WBCの熊谷

2人がU23男子日本代表として出場する「第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント」(5月14日~18日、ドバイ)は、日本チームにとって6月の世界選手権(トロント)前の最後の国際舞台となる。U23の支柱的存在のキャプテン古澤拓也(3.0)や、リオパラリンピック日本代表の鳥海連志(2.5)など、強化合宿に参加する「A代表」候補の4人が不在の状態で戦わなければならないが、だからこそ「自分たちだけでもここまでやれる」というところを示す重要な大会と捉えている。そして、チームを牽引するのは「自分たちだ」という自覚が、丸山と熊谷にはある。

熊谷は言う。

「丸山のインサイドに切り込んでいくという持ち味をいかすためにも、僕のミドルシュートが大事になってくる。古澤、鳥海がいないドバイでは、それが勝負のポイントになると思っています」

ほかにも、ピカイチの守備を見せる埼玉ライオンズの赤石竜我(2.5)や、高さのある富山WBCの寺内一真(4.5)など、成長著しい選手たちが今大会に出場した。いずれもU23男子日本代表として、ドバイ、トロントに乗り込む。

一方、U23男子日本代表の選考に敗れた選手もいる。埼玉ライオンズの古川諒(1.0)だ。「まずはチーム(ライオンズ)で自分の存在を確立させること」と語る古川。代表クラスの選手ばかりが揃うチーム内での競争が、ステップアップにつながるはずだ。

国内トッププレーヤーたちと鎬を削り合う日本選手権。その経験が、若手の成長を促している。

埼玉ライオンズの赤石
日本選手権ではU23男子日本代表の壮行会も行われた

※カッコ内は、障がいの種類やレベルによって分けられた持ち点。

text by Hisako Saito
photo by X-1

『[第45回日本車椅子バスケットボール選手権大会]将来を嘱望された若手も奮闘。世界舞台挑戦への糧に』