インクルーシブな視点で新しい価値やアイデアを生み出す<後編>

2020.03.24.TUE 公開

企業や自治体が取り組むべき社会課題のテーマとして、最近注目を集めているSDGs(※)。しかし、企業によってはなにをやって良いかわからないという戸惑いの声も少なくない。そんな中、ワークショップを行うことによって、SDGsの取り組み内容を模索できるのではないかと、期待が高まっている。ワークショップデザイナーのタキザワケイタさんは、ワークショップにインクルーシブな視点を取り入れると、SDGsにもつながる新しい価値やアイデアが生まれやすいという。インクルーシブな視点とは、いったいどんなものなのか、タキザワさんに伺ってみた。
※SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、17のゴール・169のターゲットから構成されている(外務省HPより)。

障がいがあるからこそ、イノベーションは起こせる!?

インクルーシブとは、「包み込むような、包括的な」という意味があるが、昨今、ダイバーシティ(多様性)という言葉とともに注目されているキーワードだ。これは、マジョリティ(多数派)やマイノリティ(少数派)を区別せず、あらゆる全ての人を含んだものの見方や考え方を差し、SDGsの大前提として掲げられている、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことに繋がっている。

タキザワさんがリーダーをつとめる一般社団法人PLAYERSは、多様なスキルを持ったプロボノチームで、視覚や聴覚に障がいを持ったメンバーも在籍している。そこでは障がいという個性から発想を得て、新たな価値を生み出そうとする、インクルーシブなワークショップを多数開催している。

「ある時ふと『車を見たことがない人がイメージする、理想の車ってどんな形をしているんだろう?』という疑問が湧きました。そこで、視覚障がい者がレゴブロックでアイデアを発想する『暗闇LEGOワークショップ』を企画。2名の視覚障がい者と、アイマスクをした晴眼者1名で実施しました。レゴはシンプルな形のパーツに絞り、慣れてきたら徐々に複雑なパーツを追加。レゴをなくしてしまわないようにケースやマット、黒部分が盛り上がって触ることができる立体コピーなど、視覚障がい者でもワークに集中できる環境をつくりました。」

「暗闇LEGO ワークショップ」では3つのチャレンジをしたという。

①視覚障がい者がレゴを使いこなす

見えない、見えにくい状態でもレゴの形を認識し、組み合わせることで意図を表現することができるように、ツールや場、プログラムをデザインする。

②障がいの有無をこえた関係性をつくる

レゴで手を動かしながら内省し、レゴを通じて対話することで、障がいの有無をこえたフラットな対話を実現する。

③障がいがあるからこその価値を生み出す

レゴを通じて理想の状態を表現することで、障がいがあるからこその新しい価値を生み出す。

視覚障がい者がつくったレゴに、タキザワさんはハッとさせられたのだそうだ。

「その女性はお孫さんがいて、孫ともっと外で遊びたいと思っていたそうです。そして、レゴで自宅の庭をつくられたのですが、さまざな段差や手すりが沢山あるんです。普通に考えれば、視覚に障がいがあるので、なるべく段差がなくて自由にどこまでも歩ける方がいいかと思うのですが… でも、その方曰く、段差や手すりがあることで、いま自分がどこにいるかがわかると。そんな庭ならば孫と思い切り遊べるんだそうです」

障がいのある人を目の前にすると、困っていることがあるに違いない。それを助けてあげなければいけないと、健常者の常識で考えがちだ。しかしそれは思い込みであることも多いようだ。

「このワークショップを通して分かったのは、障がいのある人との共創はイノベーションを起こす可能性を秘めているということ。例えば、晴眼者は普段は見えているので、レゴを上手に作ろうとしてしまいますが、視覚障がい者は上手く作れないのが当たり前なので、自分の想いや欲求がダイレクトに現れてくるんです。そこから思いがけないイノベーティブなアイデアが生まれてくる可能性を強く感じました。これからも『暗闇LEGOワークショップ』は改善しながら、継続的に開催していきたいです。」

障がいのあるなしを超え、一緒になってワクワクし世の中の問題に立ち向かう

障がいのある人とのワークショップで起こりがちなのが、「困りごとは何ですか?」と質問攻めになってしまうことなのだそう。つまり、困りごとをなんとか補って解決してあげよう、という視点になってしまうという。

「聴覚障がい者とのワークショップでは、聴覚障がいのある運営メンバーが、手話でファシリテーションを行いました。その際に思いつきで、“お菓子とドリンクを用意してあるのでご自由にどうぞ”という案内を手話でしてみたんです。すると、手話がわかる聴覚障がい者が健聴者に教えてあげるという、いつもとは立場の逆転が起きました」

そんな今までの健常者の常識が覆るようなことがよくあるのだそうだ。他にも、レポーターになるのが夢だという聴覚障がい者の男性が、口では「美味しい」とレポートしながらも、手話では本音として「不味い」と言ってしまうという、手話がわかる人だけが楽しめる“お笑い”など、障がいという個性を生かしたアイデアがたくさん生まれたという。

「僕たちはどうしても、障がいがある人は助けてあげなくちゃいけないと思いがちです。一方で障がい者からは、障がい者という立場に甘んじてばかりではいけない、という声も聞きます。僕は障がいのあるなしを超えて互いを尊重し合い、インクルージョンな社会を目指す仲間として、一緒にワクワクしながら世の中の問題に立ち向かっていきたいんです」

困りごとを解決するだけでなく、、新たな価値を生み出すために

タキザワさんが障がいのある人とのワークショップで目指していることが3つあるそうだ。

「PLAYERSで活動している中で感じるのは、今の日本は障がいのある人と健常者が出会う機会があまりに少ないということ。インクルーシブデザインワークショップを定期的に開催していくことで、障がい者と健常者の良い出会いや体験をたくさん作っていくのがひとつ。
そして、障がいのある人との共創によって生まれる、新たな価値やアイデアを提供し続ける。
最後に、生まれたアイデアをアイデアで終わらせずに、企業とのコラボレーションなどを通じてプロトタイピングや実証実験を行い、実用化までチャレンジしていきたいです」

発信機が内蔵された点字ブロック「VIBLO」。視覚障害者が近づくと、その場所と道案内の情報がLINEに届く。

タキザワさんがリーダーをつとめるPLAYERSの活動からは、新しいサービスのアイデアが続々と生まれ、さまざまな企業と連携しながら実用化が検討されている。その一つ、点字ブロックをテクノロジーでアップデートし、視覚障がい者が一人でも安心して外出でき、より豊かな生活を送ることを目指した「VIBLO」である。これが実現すれば、視覚に障がいがある人が点字ブロックからの情報をもとに、もっと気軽に外出ができるようになるというのだ。

「電車で立っているのがつらい妊婦と、席をゆずりたい人をマッチングするサービス『スマート・マタニティマーク』を開発した時に、視覚障がい者の知人に“これがあれば僕も妊婦さんに席を譲ることができる”と言われました。障害のある人でも誰かの役に立ちたいし、実際にできることは沢山あるはず。僕は障がいのある方と出会えたことで、多くのことを学ばせてもらいました。そして、間違いなくこれからの人生が豊かで刺激的なものになりました。それらへの感謝も込めて、これからも一緒になってワクワクし、世の中の問題に立ち向かっていきます」


タキザワさんのお話を聞いていると、たびたび「楽しい」というフレーズが出てくる。満面の笑顔だから本心なのだ。ワークショップをすることが楽しい、障がいがある人と一緒に物を作ることが楽しい。確かに、いろいろな事例について伺っていると楽しそうなので、つい自分も仲間に入れてほしくなる。企業のワークショップにしろ、障がい者を交えたインクルーシブデザインワークショップにしろ、「楽しい」をいかに見つけるかが重要なのではないだろうか。そんなことを実感させられた。

参考動画:DIVERSITY&INCLUSION WORKSHOP・聴覚障がい者が熱狂するエンタメコンテンツを共創する(https://youtu.be/fX_PmYZB0ik

この記事の<前編>はこちら↓
ワークショップでアイデアを生み出す“成功”の秘訣<前編>
https://www.parasapo.tokyo/topics/25185

PROFILE タキザワ ケイタ
インクルーシブデザイナー・プロジェクトファシリテーター 新規事業・商品開発・ブランディング・人材育成・組織開発など企業が抱える課題や、社会課題の解決に向け活動している。 筑波大学 非常勤講師/青山学院大学 ワークショップデザイナー育成プログラム 講師/LEGO® SERIOUSPLAY® 認定ファシリテーター/PLAYERS 主宰/&HANDプロジェクト リーダー https://keitatakizawa.themedia.jp/

Text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
Photo by Keiji Takahashi

『インクルーシブな視点で新しい価値やアイデアを生み出す<後編>』