ステイホームの新たな温もり!? 誰でも楽しめるオーディオブックの需要が急上昇中

ステイホームの新たな温もり!? 誰でも楽しめるオーディオブックの需要が急上昇中
2020.05.22.FRI 公開

私たちが世の中の情報を得る場所は、新聞からテレビ、パソコン、スマートフォンへと移り変わっている。そんな中、近年音声コンテンツが目覚ましく充実していることをご存じだろうか? 歩きながら、家事をしながら、運動しながらなど「ながら読書」ができる、多忙な現代人にもステイホーム生活にも便利な音声コンテンツ・オーディオブック。その現状をオーディオブックプラットフォーム「audiobook.jp」を運営する株式会社オトバンクの代表取締役社長・久保田裕也さんに伺ってみた。

どこにいても「ながら読書」ができるオーディオブック

©︎Shutterstock

オーディオブックとは本を朗読した音声コンテンツ。つまり聴く本のこと。目で読むテキストコンテンツの場合は、何かをしながら読むことが難しいが、オーディオブックはPCやスマホがあればいつでもどこでも聴くことができるので、スポーツジムで運動をしながら、料理をしながらなど、「ながら読書」ができるのが特徴。忙しくて本を読む暇がないという人にも、ぴったりのコンテンツだ。

「audiobook.jp」は会員数130万人以上、コンテンツ数約3万点を配信する日本最大級のオーディオブックプラットフォーム。ベストセラー小説から映像化された小説、ビジネス書、生活実用書など幅広いジャンルが揃う。また、人気声優・神谷浩史さんら複数キャストで音声ドラマ化した『スマホを落としただけなのに』、俳優の本木雅弘さんが若き日の小澤征爾さんの挑戦を声で表現する『ボクの音楽武者修行』、落語家・林家たけ平さんが一人で何名もの登場人物を演じ分ける浅田次郎さんの『一路』など、作品に合わせたつくりで音声化されているのも特徴だ。

アメリカではすでにメジャー。日本でもヒットする!?

日本のシンクタンクの調査によると、2018年には50~60億円だったオーディオブックの国内市場規模は2024年には260億円になると予想されている(※1)。出版不況と言われる中、オーディオブックは、まさに急成長のコンテンツだ。

久保田さんによると「日本のオーディオブックは今はまだ成熟途中といった状況です。でも、高齢者へのスマホの普及やインフラの充実、著作権に関するさまざまな問題が整理されてきたことによって、昨年あたりから市場は急激に大きくなっていっています」とのこと。

もともと、起業のきっかけは創業者の上田渉さんの本好きだった祖父が、緑内障によって両目を失明したことがきっかけだった。大好きな本が読めなくなった祖父の姿を見た上田さんは「本を耳でも楽しめる世の中を作りたい」と考えたと言う。

久保田さん(以下、久保田):「最初は、対面朗読のNPOを立ち上げようとしました。そこでいろいろ調べてみたところ、アメリカではCDブック(本を朗読してCDにしたもの)を本屋で売るのが当たり前だということがわかりました。日本でも一部の出版社がCDブックを作っていましたが、コンテンツ数はほんのわずかでした。でも目の見えない方や、老眼などで活字が読みづらくなっているご高齢の方をはじめ、オーディオブックを必要としている人はいるはずです。だったら株式会社を作ってコンテンツを充実させて、将来的にはあらゆる場所で、あらゆる人が楽しめるようにしようということになったんです」

オーディオブックがアメリカで発展したのは、多くの人が車通勤をするため、運転中に聴くのに便利だからという話は以前からよく言われていた。アメリカほど車社会ではない日本で同じように発展するのは難しいのだろうか?

久保田:「以前からそういう意見はあるんですよ。でもそれは違います。日本でも都市部を離れれば多くの人が車通勤をしていますからね。日本で長い間オーディオブックが普及しなかったのは、音声コンテンツのアセットが少なかったことによると思います。ですから、サービス立ち上げとともに出版社さんと協力して、コンテンツをとにかく増やすということに注力してきました。」

オトバンクでは、出版社が作家と新たに交わす契約書の相談から、作家への説明、作家が懸念するコンテンツ流出を防止するための技術の開発など、オーディオブック化を阻むあらゆる問題をクリアするために環境を整備。さらに朗読するナレーターを集め、自社スタジオで録音してデータを作成し、「FeBe」(※2018年に「audiobook.jp」へ名称変更)という配信のプラットフォームを立ち上げた。そうして配信しているコンテンツは約3万点となり、今では「Google Play ブックス」や「Apple Books」「himalaya」といった大手コンテンツ配信サービスにデータを提供するまでに。

目指すのは、多様な社会であらゆる人がコンテンツを楽しめる世界

目が見えない人たちにも読書を楽しんで欲しいという思いからスタートしたオトバンクの事業だが、理想は市場が今以上に成熟して、障がいのあるなしに関わらず、あらゆる人があらゆる場所で音声コンテンツを楽しめる世界になることだと久保田さんは言う。

久保田:「中学生の時に障がい者施設でボランティア活動をしたことがあります。その時に、指導してくれたヘルパーさんがとてもいい方でした。『この方は40歳で、あなたより年上だからちゃんと敬語を使ってください』とか、『彼はあなたより2歳年下だから、仲良くして友達になってあげてください』というふうに、障がいのあるなしで区別するのではなくて、同じ人間として当たり前の付き合い方をするということを丁寧に教えてくれました。それが原体験となっていて当社のサービスもインターフェイスを使いやすいようにはしていますが、現状は障がい者の方に向けた特別な取り組みというのは行っていません。まずはオーディオブックというコンテンツ自体が普及し、いろいろな作品を音声で楽しめるという環境を整えるのが重要と考えています。あえて特別な扱いをするのではなく、誰もが当たり前にコンテンツを楽しめる世界を作りたいですね」

オトバンクは企業理念のひとつとして「究極のバリアフリーの達成」を掲げている。それは、「視覚に頼らなくても楽しめる音声コンテンツを普及させることで、視覚に障がいのある人たちにとっても自然と暮らしやすい社会を創造すること」という考えによるものだ。障がいのある人を特別視するのではなく、多様な社会の中で、あらゆる人がエンターテインメントを楽しむことができるD&I(※)の精神にもつながる。
※D&I(ダイバーシティ&インクルージョンの略)=ダイバーシティとは多様性、インクルージョンとは包括・包含の意。マジョリティ(多数派)やマイノリティ(少数派)を区別せず、あらゆる全ての人を含んだものの見方や考え方。

図書館に行かずに本が楽しめる新サービスも!

こうした取り組みの一環として、オトバンクと公共図書館システム「ELCIELO」が連携した「オーディオブック配信サービス」が、今年中に開始される予定だという。 これは、図書館のサイトにPCやスマートフォンからアクセスしてオーディオブックを検索・視聴できるというもの。図書館に行かなくても利用できるので、図書館が家の近くにない人や、高齢者、怪我や病気などで外出ができない人、目の見えない人など、あらゆる人が自宅にいながらにしてオーディオブックを無料で楽しむことができる画期的なサービスだ。>

まだまだ広がる音声コンテンツの可能性

©︎Shutterstock

オーディオブックの他にも、著名人やさまざまな業界の専門家による10~30分程のトークを編集せずにそのまま配信する声のブログ「Voicy(ボイシ―)」など、近年急速に音声メディアの利用者が急増している。今後、音声メディアはどのような広がりを見せるのだろうか。

久保田:「目が見えない方や、老眼などで文字が読みづらいご高齢の方に利用していただけるというのはすごく嬉しいことです。一方でガラケーで電子書籍が読めるようになったのはだいたい2003年頃。つまり現在二十歳くらいの人たちは物心ついたときには電子書籍がありましたし、成長してからはスマホでコミックや動画など、普通にデジタルでコンテンツを楽しんできた世代です。しかも無料が当たり前なんですよね。そういう世代にとって音声メディアや音声コンテンツは、とても身近なものです。最近では自分の声を配信できる「stand.fm」や「Radiotalk」「REC.」といった新しい音声プラットフォームも登場しています。こうして音声コンテンツの市場が広がるのは、すごくいいことだと思っていますし、そうした若い世代やさまざまなシチュエーションに合わせた新しいサービスやコンテンツの提供もどんどん増えていくはずです。当社でもそこに向けた準備を進めています」


久保田さんは音声コンテンツの魅力を「そばに居る感じ」、つまり人の肌触りを感じられる点だという。電話や手紙からメールやSNSへ、私たちのコミュニケーションから人の温もりはどんどん薄れていっている。そんな中、人が温もりのある音声メディアを求めるのは自然の成り行きかもしれない。目の見えない人たちも、そうでない人も、人の温もりを感じられるエンターテイメントを、いつでもどこでも楽しむことができる。それが多様化する社会のコンテンツの在り方なのかもしれない。

audiobook.jp https://audiobook.jp/

<参考リンク>
※1:オーディオブック国内市場規模の調査結果(株式会社日本能率協会総合研究所)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000035568.html

text by Kairi Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga

『ステイホームの新たな温もり!? 誰でも楽しめるオーディオブックの需要が急上昇中』