未来の公園ってどんな公園? 大きく変わろうとしている、日本の公園の今【前編】
公園は子どもたちがのびのびと遊べる貴重な場所。運動神経や体力の向上、想像力や社会性の発達なども期待できるなど、子どもたちの心身の成長を助ける上で欠かせない場所でもある。日々の生活で当たり前のように存在しているが、実は今、日本の公園が未来社会に向けて大きく変化し始めているのをご存知だろうか? 今回は『みーんなの公園プロジェクト』の矢藤洋子さん、東京都議会議員の龍円愛梨さんのお二人に、日本の公園の現在と未来について話を伺った。
欧米の公園にあって、日本の公園にないものとは?
憩いや遊び、運動、防災などの目的で設置される都市公園。現在、日本全国に10万箇所以上の都市公園があるが、何十年も前からその仕組みや姿を変えていないという公園も多い。そんな中、日本の公園はどう変わろうとしているのだろうか? そのヒントは欧米の公園にある、と教えてくれたのは、誰もが一緒に遊べる公園の普及をめざす市民グループ『みーんなの公園プロジェクト』の矢藤洋子さん。
「欧米では、どんな子どもでも遊べるユニバーサルデザインの視点を取り入れた公園づくりが広がっています。ユニバーサルデザインとは、1980年代にアメリカのロナルド・メイス博士が提唱した、年齢や性別、文化、言語、障がいの有無などに関わらず、どんな人でも利用できるデザインを指したものですが、特にアメリカは、ADA法(障害を持つアメリカ人法※1)があるため、公園のアクセシビリティが着実に改善され、企業やNPOの協力を得ながらよりよい遊び場づくりが進められています。近年は、欧米だけでなくシンガポールや香港などのアジア諸国でもこういったユニバーサルデザインを採用した、インクルーシブ公園(※2)が増えていますね」(矢藤さん)
日本では2006年にバリアフリー法が施行されて以降、公園にも多機能トイレなどのユニバーサルデザインが取り入れられるようになったが、子どものための遊び場に関しては、残念ながらほぼ手付かずの状態。この現状に、声を上げたのが、留学先のアメリカで出産・育児を経験した東京都議会議員の龍円愛梨さんだ。
「スペシャルニーズのあるお子さんやご家族の中には、公園で遊びたい(遊ばせたい)けど、物理的・心理的バリアを感じるから行きたくないという人も少なくありません。でも、インクルーシブ公園はすべての子どもが歓迎され、親御さんや高齢者がコミュニティに参加するきっかけにもなる。単なる遊び場ではなく、人と人をつなぐ場所として機能する可能性を持っているんです」(龍円さん)
※1 ADA法とは、1990年にアメリカで制定された法律「Americans with Disabilities Act of 1990(障害を持つアメリカ人法)」の通称。障がい者に対するあらゆる差別を排除し、合理的配慮がなされるよう定められている。
※2 インクルーシブとは「包括的な」「包み込む」という意味。エクスクルーシブ(排他的、排除的な)の対義語。インクルーシブ公園は、「inclusive playground」を分かりやすく和訳したもので、すべての子どもが共に仲間として遊ぶことを目的として設計された遊具広場を指す。
インクルーシブ公園は、子どもも大人も学べる場
では、ユニバーサルデザインを取り入れたインクルーシブ公園とは、実際にどんな公園なのだろうか。『みーんなの公園プロジェクト』では、あらゆる子どもが自分の力をイキイキと発揮しながらさまざまな友だちとともに遊べる場所こそが、ユニバーサルデザインの遊び場だと定義している。その上で大切な点は5つ。
① 誰もが公平にアクセスでき、遊びに参加できる(アクセシビリティ)
② 誰もが自分の好きな遊びを見つけられる(選択肢がある)
③ 誰もが遊びを通して互いに理解を深められる(インクルージョン)
④ 誰もが安心・安全な環境でのびのびと遊べる(安心・安全)
⑤ 誰もがワクワクしながら自らの世界を大きく広げられる(楽しい!)
これらに配慮することで、地域に根差した有意義な公園になるという。
その例をいくつか紹介する。
段差がなく、配色や素材にも工夫
園路と遊びエリアの境界に段差がなくアクセシブル。エリアごとに舗装の色や素材を変えているので、視覚に障がいのある人でも位置を認識しやすい。
様々な仕掛けが楽しい砂場
車いすや歩行器のままで砂場の中央まで行けるデッキ。その周囲には車いすに乗ったまま遊べるショベルなど、さまざまな仕掛けが配置されている。日除けの下に自然と子どもたちが集まってくるため、交流が生まれやすい。
車いすでも遊べる回転遊具
多様な人が一緒に楽しめる、ベンチや手すりがついた回転遊具。地面との境界に段差がないため、車いすのまま乗り込むことができる。
QRコードを使ってより深く学習
地元の芸術家が製作した在来の野生動物のリアルな像。視覚障がいのある子どもも触って楽しめる。傍にあるQRコードをスマホで読み込むと、その動物に関する詳しい情報を得られる。
二人で揺れるハーモニーブランコ
一人がこぐと、もう一方も一緒に揺れる仕掛けのブランコ。押してあげる人、押してもらう人という関係を生まず、きょうだいや友だち、親子が共に楽しめる工夫がされている。
公園内のステージもみんなで楽しめる
地域の学生やボランティアによるプレイイベントやミニコンサートなどが開かれるステージ。車いすやベビーカーのユーザーもみんなと並んで座れるようベンチなどの配置を工夫してある。
日本でも全国に広がりつつある、ユニバーサルデザインの遊び場
前述したように、ユニバーサルデザインの対象は障がいのある人でもその家族でもなく、“すべての人”だ。
「誰もが思いっきり楽しめるように考えられているので、障がいのある子が遊ぶ姿を見て、初めて『あ、ここはユニバーサルデザインを取り入れた公園なんだ』と気付く人も多い。子どもたちは、お気に入りの公園で遊びながら、D&I(※3)の心を育んでいくことができると思います」(矢藤さん)
今、世界規模でSDGs(※4)達成に向けた取り組みが行われる中、急速に広まっているD&Iという考え方。多様な人が利用する公園で、世界基準となる視野を身につけ、豊かな社会性や情緒を発達させていくことができるという点でも、インクルーシブ公園の存在意義は大きいだろう。そんな世界的な機運もあり、今、日本でもこのインクルーシブ公園への注目が急速に高まっている。
2016年、『みーんなの公園プロジェクト』が公園づくりの指針として『ユニバーサルデザインによる公園の遊び場づくりガイド』(PDF版)をホームページ上で公開。翌年書籍化されると、全国の地方公共団体から連絡が相次ぎ、各地で公園のインクルーシブ化が検討され始めたという。
「ユニバーサルデザインの視点を取り入れたくても、ニーズやノウハウがわからないというケースが多かったようです。また、公園を作る側だけでなく、公園を利用する側からの反響も大きく、これまで公園で遊ぶことを諦めてきた人たちから『私の街にもこんな公園が欲しい』という意見をたくさんもらいました」(矢藤さん)
一方、龍円さんは、2018年に都議会の一般質問でインクルーシブ公園の整備を提案。そのことをきっかけに、東京都は、障がいがある子もない子もすべての子どもたちが共に遊び、楽しむことのできる遊具広場整備の検討を開始した。
日本の公園は、今まさにインクルーシブ化に向かって進み始めたところ。障がいの有無に関係なく、誰もが自然と笑顔になれるような公園が日本中にできれば、未来の公園には多様な子どもが楽しそうに遊ぶ姿で溢れるだろう。
そして今年3月、龍円さんや『みーんなの公園プロジェクト』の声が反映されたインクルーシブ公園が、東京都世田谷区の砧公園内に完成。今後の公園づくりのモデルケースとなるであろうその遊び場について、後編でじっくりと紹介する。
※3 D&Iとは、ダイバーシティ&インクルージョンの略。ダイバーシティとは多様性、インクルージョンとは包括・包含の意。マジョリティ(多数派)やマイノリティ(少数派)を区別せず、あらゆる全ての人を含んだものの見方や考え方。
※4 SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、17のゴール・169のターゲットから構成されている(外務省HPより)。
【後編】はこちら
東京世田谷に新しくできた未来の公園『みんなのひろば』全貌公開!【後編】
PROFILE 龍円愛梨(東京都議会議員)
1977年スウェーデン生まれ。1999年、テレビ朝日に入社し、アナウンサー、社会部記者として活躍。退職後に移住したアメリカ・カリフォルニア州で長男を出産。2015年に東京へ戻り、2017年に東京都議会議員選挙に出馬した。自身が、ダウン症の子を育てるシングルマザーであることから、スペシャルニーズのある人(=特別な支援を必要とする人)も住みやすい社会を目指している。都民ファーストの会所属。
http://airi-ryuen.com
みーんなの公園プロジェクト
岡山市に拠点を置く市民団体。メンバーは、日本にユニバーサルデザインを紹介した一人である柳田宏治氏(倉敷芸術科学大学芸術学部教授)、ベテラン教員として現在も岡山の特別支援学校に勤務する林卓志氏、特別支援学校の元教員でアメリカ在住経験のある矢藤洋子氏の三人。これまで置き去りにされたり排除されたりしていた子どもたちも迎え入れられる公園をイメージして、『みんな』ではなく『みーんな』という言葉を名称に使用。オリジナルの遊び場づくりガイドは『すべての子どもに遊びを』(萌文社)として書籍化されている。
http://www.minnanokoen.net
text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Tomohiko Tagawa