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健常者がパラリンピック日本代表に!? メダルも授与される競技アシスタントに注目
パラリンピックに出場するのは、障がいのある選手だけではない。パラアスリートとともに過酷な戦いに挑み、勝利を目指す健常者もいる。ここでは、表彰台に上がるとメダルがもらえる健常者の役割にフォーカスする。
セーブだけでなく声が重要!?
5人制サッカー(ブラインドサッカー)のゴールキーパー
5人制サッカー(ブラインドサッカー)のプレーヤーの中で、唯一アイマスクをしない「選手」がゴールキーパー(GK)だ。全盲のフィールドプレーヤーに対し、GKは晴眼者もしくは弱視者が務める。
音や声を頼りにプレーするフィールドプレーヤーにとってGKの指示はまさに生命線。ブラインドサッカーのGKは、ボールをセーブするだけでなく、実はフィールドプレーヤーに敵や味方の位置、選手間の距離などの細かな情報を送っている。もちろん情報を伝達する上でそれぞれの選手を知ることも重要になるから、チームメイトと過ごす時間も重要。合宿や練習で文字通り同じ釜の飯を食うことでコンビネーションを磨いている。
東京2020パラリンピックで初めてパラリンピックの大舞台に立つ日本代表。そのGKはかつてJリーグなどプロで活躍した選手が名を連ね、熾烈な代表争いを繰り広げる。そんななか重要な国際大会に出場しているのが2008年から日の丸を背負う佐藤大介だ。普段は保育士として働く36歳で、愛称は「ゴリ」。小・中・高時代のGK経験を活かし、学生時代に始めたブラインドサッカーのGKとしても2度世界選手権に出場するなど経験を積んでおり、チームから抜群の信頼を得ている。
阿吽の呼吸でメダルを狙う!
ボッチャのアシスタント
リオ2016パラリンピックのメダル獲得以降、国内でも裾野を広げているボッチャ。卓越したテクニックを誇る日本代表クラスのプレーも見ものだが、障がいのあるなしに関わらず誰でもプレーできるのが人気急上昇の理由だ。リオ後の2017年には一般の会社員が参加する企業対抗のボッチャ大会に1000人以上が参加するなど人気を博している。
そんな誰もがチャレンジできるボッチャにも、健常者がパラリンピックでメダルを狙える役割がある。自己投球ができないBC3クラスのアシスタントだ。アシスタントは選手の指示に従って、ランプ(*1)の方向(角度)や長さ、ボールをリリースする位置(高さ)を調整する。アシスタントはコートに背を向けて座わり、コートを見ることもできなければ、試合中に選手と話をすることもできない。選手の指示のみで、限られた時間内にその意図を汲み取ってランプをセットし、最高の投球を演出しなければならないのだ。
*1ランプ:滑り台式の投球補助具
自国開催のパラリンピックを前に、強い覚悟で挑むアシスタントもいる。リオパラリンピック日本代表の高橋和樹とタッグを組む、峠田(たおだ)佑志郎さんだ。ボッチャ中心の生活を送るために2019年3月、教員として勤めていた特別支援学校を辞めた。高橋の生活介助をしながら、東京パラリンピックのメダル獲得を見据えて共に練習を重ねている。
その他、国内トップ選手では、河本圭亮のアシスタントは母・幸代さんで、有田正行は妻・千穂さんがアシスタントを務めている。共に長い時間を過ごし、互いを良く知ることがアシスタントの最も重要な条件なのかもしれない。
試合中はとにかく大忙し!
トライアスロンのガイド
リオパラリンピックから正式競技となったトライアスロンには、車いすや義足など様々な障がい選手が出場する。そのうち視覚障がいのある選手がメダルを競うクラスでは、健常者がガイドを務め、表彰の際にはパラアスリートと一緒にメダルをもらうことができる。日本のトライアスロン人口は増加傾向にあるというが、トライアスリートなら一度は大会で競技するパラトライアスリートやサポートする人を見たことがあるだろう。
視覚障がいのクラスにつくガイドは、選手と共に競技を行い、トランジションをサポートし(*2)、タンデム(2人乗り自転車)で走行し、ロープをつけて選手と並走する。すべて同じガイドが務めるため、とにかく試合中は息つく暇もなく、選手に負けずとも劣らない競技力とスタミナが必要だ。
ガイドを務める人のバックグラウンドは実に様々で面白い。かつてトライアスロンで活躍したオリンピックメダリスト、3種目のいずれかでプロとして活躍する選手、年配の市民トライアスリート……。東京パラリンピックでは、パラリンピックの舞台で戦う個性豊かなガイドに注目してはいかがだろう。
*2トランジションのサポート:種目が移り変わる際に、ウェットスーツや靴、ヘルメットや義肢の着脱、補給食の渡しなどを行う
選手の分身!?
自転車のパイロット
自転車のBクラスは、タンデムに乗り、視覚障がいのある選手(後席に乗るストーカー)と、晴眼者の選手(前席に乗るパイロット)がペアになってレースで競う。
パイロットには脚力はもちろんのこと、ストーカーと同じ動きをするための技量や判断力が必要になる。また、一瞬のミスがタイムに響くため、2人の息は分身のごとくぴったりであるほどいい。海外、とくに自転車競技が盛んなヨーロッパでは、オリンピックや健常者の世界選手権などで活躍する名選手がパイロットとしてパラリンピックに出場することは珍しくなく、むしろ参加に意欲的なことも多い。
その流れを受け、日本も競輪選手がパイロットを務めるなど、トップ選手の参戦も当たり前になってきた。そのうち実際にメダルを手にしたのが鹿沼由理恵のパイロットを務めた田中まい。田中は現役競輪選手で、デビュー前の2013年にパイロットに誘われて引き受けたものの、競輪との両立は難しく、本業を一時休業しパラリンピックに向けた練習に集中するなどし、リオパラリンピックのロードタイムトライアルで見事銀メダルに輝いた。
そんな田中に影響を受けた「選手」もいる。田中と同じ日体大出身の倉林巧和だ。倉林は、現在強化選手に指定されている木村和平とペアを組みパイロットとして共に活動する。倉林自身、アジア選手権で金メダルを獲得した実力者だが、リオデジャネイロオリンピックの選考レースに敗れ引退を決意。2017年の冬にパイロットに誘われ、その年の夏からペアを組むことに。インドネシア2018アジアパラ競技大会では金メダル2個を獲得するなど目覚ましい活躍を見せている。
まさに“二人三脚”
陸上競技のガイドランナー
陸上競技で視覚障がいの選手が出場する種目を見に行くと、ガイドランナーと呼ばれる伴走者の姿がある。東京パラリンピック種目では、100mから 5000mまでのトラック種目と、42.195kmのマラソンで伴走者が必要となり、T11(全盲から視力0.0025未満)クラスでは必ず伴走者と競技を行わなくてはならない。5000m以上のレースでは2名までガイドランナーのエントリーが認められており、途中で交代する場合も。選手とガイドランナーは輪になったロープ(紐)を握り合って走り、ガイドランナーは路面状況やラップタイム、「10m先に45度の右カーブ」「15㎝の下り段差」など声で具体的な指示をしたり、ロープを引いたり緩めたりして選手を誘導する。
ガイドランナーは走力やガイドとしてのスキルはもちろんだが、選手と同様、ドーピング検査も受けなければならないため、日頃の生活から高い意識が求められる。また、選手の前方に出たり、手を引っ張ったり、押したりするなど速く走るための手助けや、戦略のアドバイスをしたり、選手よりも先にゴールするなどがあった場合は失格となり、国際大会ではしばしば、他国のチームから抗議のやり取りがあったりする。パラリンピックなど国際主要大会では、ガイドも選手と一緒に表彰されるが、ガイドランナーが2名エントリーした場合はガイドランナーにメダルは授与されない。
ガイドランナーには、実業団に所属する現役選手や、箱根駅伝経験者など、長距離を専門にトレーニングしてきた人も多いが、もちろん市民ランナーやランニング愛好者もいるから、数あるパラ種目の中で、健常者が始めやすいのはガイドランナーかもしれない。現在は新型コロナウイルスの影響で自粛中の場合もあるが、各地で伴走クラブやガイドランナーの練習会も実施されている。
東京パラリンピックの男子5000m日本代表に内定している唐澤剣也には、約10名のガイドランナーがおり、彼らは「からけん会」とよばれるチームで唐澤をサポートしている。ドバイ2019世界パラ陸上競技選手権大会で唐澤のガイドランナーを務めたのは茂木洋晃ガイドと星野和昭ガイド。茂木ガイドは普段は実家のトマト農園で働き、星野ガイドはスカイランニング(山岳を駆け上る・下る)のランナーだ。そのドバイ大会で唐澤は男子5000m(T11)で3位になり、見事初の表彰台に! 2名のガイドは残念ながらメダルを手にすることはできなかったが、星野ガイドは、「ガイドはほかにもいるので、メダルがかからないほうがいい」と言い、チームの結束を象徴するコメントを残した。
パラアスリートが主役のパラリンピックだが、健常者が日本代表としてパラリンピックを目指すこともできる。新型コロナウイルスが収束し、パラスポーツの各大会が再開されたらぜひ健常者選手の活躍にも着目して欲しい。
text by TEAM A
photo by X-1