パワーリフティング・変化する環境下でも好記録続々! チャレンジカップ京都レポート

2020.10.07.WED 公開

10月3日から4日にかけて「第3回チャレンジカップ京都」がパラ・パワーリフティングのナショナルトレーニングセンター(NTC)競技別強化拠点施設であるサン・アビリティーズ城陽で開催された。新型コロナウイルスの感染拡大による大会の中止や延期が相次いだ中、パワーリフティングの大会も再開を告げた。

パラリンピック出場歴のあるトップ選手から初心者まで幅広い選手が集うチャレンジカップ。出場者は前回より大幅に少ない31人だったが、変化する練習環境でトレーニングを続けた選手たちがたくましさを見せ、5階級で日本新記録が誕生。ここでは、国内トップレベルで活躍する選手たちの現状とともにレポートする。

第3回チャレンジカップ京都は、感染予防に配慮したレイアウトで行われた photo by JPPF

記録更新で大会を盛り上げた“転向組”

コロナ禍にもかかわらず自らの記録を更新し、ポテンシャルを感じさせたのが他競技からの“転向組”の2人だ。

東京パラリンピックのMQSを突破した女子79kg級の坂元智香 photo by JPPF

2017年に陸上競技から転向した坂元智香は、女子79kg級で79㎏の日本新をマーク。3回目の試技で東京2020パラリンピック最低出場資格基準(MQS)である77㎏をクリアすると、記録更新に挑戦する特別試技で79㎏を挙げた。

練習拠点は大分。マシンジムが閉鎖されるなど練習が制限された。自宅でトレーニングを継続したが、定期的に重いバーベルを挙げる練習ができなかったことで不安を抱きながらこの日を迎えたという。それだけに、記録更新は「ビックリしました。まさかここまでやり切れるとは思っていなかった」と驚きを隠せない表情だ。

MQS突破については、「国内でしっかり取れたことは自分でも評価したい」としつつ、「国際大会になると試技に対しての目(ジャッジ)が難しくなるので、誰が見ても白(成功)が取れるように頑張りたい」と笑顔の中に冷静さをのぞかせた。

大会2日目に驚異のパフォーマンスを見せたのが男子65kg級の奥山一輝だ。現在23歳の奥山はもとは車いすテニスの有望選手だったが、ロンドンパラリンピック日本代表の宇城元に勧められ、2017年に競技転向。2019年から成長著しい若手が選抜される次世代ターゲット選手に指名され、ぐんぐん記録を伸ばしている。

今大会では、1回目で144㎏、2回目で148㎏をクリアし、3回目で151kgの日本新記録を樹立。2月の全日本で自らが樹立した141㎏から大幅に記録を塗り替えた。

自己ベストの151㎏を挙げ、コーチとグータッチする奥山一輝

今春、順天堂大学を卒業し、競技に専念できる環境を整えた。そんな矢先の新型コロナウイルス流行で2ヵ月間、練習の自粛を余儀なくされた。母校の練習場所が使用できず、ダンベルを購入して自宅でトレーニングに励んだものの63㎏ほどの体重は一時59㎏まで減少。「体が細くなってしまい、周りからも小さくなったねと言われて……」。それでも「東京パラリンピックの延期は自分にとってはチャンス」と捉えた奥山は、都内のジムに通い、体を作り直して筋力アップ。自粛期間を「(結果的に)いい休みになった」と語れるほどまで状態を戻し、この日の好パフォーマンスを生みだしたのだ。

東京パラリンピック出場への期待は高まるが、世界の壁も高い。国際パラリンピック委員会が指定する国際大会のランキングで圏内の8位に入ることなどが出場への条件となる。そのためにはあと30㎏以上の記録上乗せが目安となるが、「この調子なら、ギリギリ入るくらいまで伸びるのではないかと思う」と手ごたえをのぞかせた。

リモートで行われた報道陣の囲み取材 photo by JPPF

東京パラリンピックを目指す“リオ組”も存在感

もちろん、リオパラリンピックに出場したベテラン勢も負けてはいない。リオでの男子54㎏級から階級を下げ、49kg級で東京パラリンピックを目指す西崎哲男は、特別試技で138㎏の日本新記録。2月にマークした135.5㎏から記録を伸ばし、「冷静な試合運びができたし、目標はクリアした」と振り返った。

日本記録を更新した男子49kg級の西崎哲男 photo by JPPF

第一人者の存在感を示したベテランもいる。2月のワールドカップで左大胸筋を痛め、今回が復帰戦となった男子88㎏級の大堂秀樹は、自身の計画通り確実に3回を成功させ、大会最優秀選手に選出される活躍を見せた。優勝を決めた185㎏は、197kgの自己ベストには遠い記録だが、ケガの影響でコンディションのピークを合わせず臨んだ結果とあって「今日の結果には満足している」と穏やかな表情で語った。

パラリンピック4大会連続出場を目指す。自宅にトレーニングルームがあり、コロナ禍でも練習面での苦労は少なかったという45歳の国内トップリフターは、2021年1月の全日本で完全復活を遂げるつもりだ。

男子ベストリフターに選出された大堂秀樹

室内競技ならではのコロナ対策も

今大会は、新型コロナウイルス感染防止対策のため、無観客で行われた。パワーリフティングは選手同士のコンタクトこそないが、車いすの選手がベンチ台に乗り移ったり、足をベルトで固定させたりする段階で、介助者と接触する場面がある。

スタッフがベンチ台やバーベルもスタッフが1試技ごとに消毒していた

開催にあたって、主催の日本パラ・パワーリフティング連盟と共催の京都府は専門家を交えてガイドラインを定め、選手や関係者に2週間前からの検温やマスクの着用などを義務づけたほか、車いすユーザーが会場入りの際にウイルスを持ち込まないように車いすの消毒を徹底した。

とくに障がいの重い選手に重症化リスクがあるとされるパラスポーツにおいて今春以降、屋内競技の試合実施例はほとんどなく、どのような対策を立てたのか注目された。

「視線が低い車いすユーザーは、飛沫にさらされるリスクがあるので、アリーナの換気はもちろんのこと会場の配置などを考えてもらった」と説明するのは、日本パラ・パワーリフティング連盟のチームドクター・徳永大作氏。

今大会は、選手を4グループに分けて競技が進行し、アップ場にも人数制限を設けたが、徳永氏は「いくつかのカテゴリーごとに入れ替えをして密にならないようにしたのは、リスク軽減という点で成功だったと思う」と手ごたえを語る。選手とメディアの動線が交差したり、スタッフのフェイスシールドが曇り安全面の確保が必要などの課題も見つかり、「他の競技団体にも共有したうえで、安全かつ競技に支障のない形を模索していきたい」と意欲的に話した。

メディアの入場は、各セッション18人に制限された

また、競技中のマスク着用については慎重な議論を要するが、「練習でも試合を想定してマスクを着けていたのでそこまで違和感はなかった」(西崎)「試合が好きなので、うずうずしていた。この形で(試合が)できれば文句はない」(大堂)と選手たちはコメントしていた。

そんな彼らの次の決戦となる「日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会」は2021年1月に都内で予定されている。

text by TEAM A
photo by Hideto Ide

               

『パワーリフティング・変化する環境下でも好記録続々! チャレンジカップ京都レポート』