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スノーボード
【Road to Beijing 2022】全国障がい者スノーボード選手権&サポーターズカップ・激戦の下腿障害クラスで市川貴仁が4連覇!
7回目を迎える「全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップ」が、3月14日、2年ぶりに長野県・白馬乗鞍温泉スキー場で開催。実施されたスノーボードクロスは、本来、2人同時に出走し、より速くゴールしたほうが勝ちというノックアウト形式だが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、1人が単独で2本ずつ滑り、より速く滑ったほうが勝ちというタイムレース形式で行われ、9部門でチャンピオンが誕生した。
下腿障害クラスは市川が4連覇!
春を告げる雷が都心で鳴り響いた日、長野にも雨が強く降った。だが翌日は快晴で、気温がぐんぐん上昇し、コースは柔らかい春の雪に。転倒しやすいコンディションのなか、北京2022冬季パラリンピック出場を狙う選手たちが参戦するエキスパート男子「上肢障害」「大腿障害」「下腿障害」の3クラスが注目を浴びた。
もっとも激しい戦いになったのは、「下腿障害」。4連覇をねらう市川貴仁と、2月にフィンランドで行われたワールドカップで4位に入った岡本圭司が熱い火花を散らした。
1本目は、市川が32秒17でフィニッシュし、「板が走らなかった」という岡本に1秒78の大差をつける。だが、2本目、「だんだんワックスが合ってきたので攻めた」という岡本は、低い姿勢を保つ弾丸の滑りで31秒99を叩き出した。
しかし、ディフェンディングチャンピオンは、この強気の攻めに屈しなかった。「1本目、(いい)タイムが出たけど、2本目はもっとできる」と手応えを感じていた市川は、31秒12で滑走し、ゴール下で待ち構えていた岡本にガッツポーズ。
市川は、「昨日までやっていた(白馬近くの)鹿島槍合宿で、圭司さんにこてんぱんにやられていたので、思わずガッツしてしまいました」と振り返り、岡本は「合宿では10連勝くらいしてたけど、いっちーは、やっぱり勝負強い」と苦笑していた。
市川は「カービング」、岡本は「縦セクション」が得意
実はこの言葉に、北京出場を目指す2人の強みと課題が含まれている。標高差のある鹿島槍での合宿は、ジャンプなど上下動のある縦セクションや、急斜度のスタートセクションのトレーニングを可能にした。
これらのセクションは、元はフリースタイルのプロライダーだった岡本の得意分野だ。「(フリースタイル時代の経験があるから)、僕は細かいスタートセクションやキッカー(ジャンプ台)が速いんです」と自己分析する。
そのため、ノックアウト形式では「圭司さんにスタートセクションで0.5秒くらい差を付けられ、先行されてしまう」と市川は嘆き、岡本が逃げ切るのがパターンになっている。
一方、市川の強みは、カービング力だ。今回も、実況アナウンサーが「魔のカーブ」と連呼した終盤の難所を、「転ばず、加速もできるカービング法」で乗り切った。
タイムレースで速さだけを追求するなら市川に分があり、岡本は、「いま、速さならいっちー。僕にとっては、それも課題です」と振り返った。もちろん、市川の課題は、いかにスタートセッションで前に出るか、だ。
このように市川と岡本は、それぞれの得手・不得手を認め合いながら、切磋琢磨している。岡本によれば、今回、欠場した田渕伸司を含めた3人は、「悪いところを教え合ったりもする、めっちゃ仲のいい関係」だという。
表彰台では、市川が「僕の大会なんでね」と冗談をいいながら4連覇の賞状を高々と掲げると、岡本が「お前のじゃねーし」と突っ込みで返す、ほのぼのした光景が広がり、「一緒に北京に出たい」という言葉が、2人の本心だということが窺われた。
世界ランキング1位の小栗は2本とも転倒
「大腿障害」は、平昌パラリンピック代表の小栗大地のみ出場となったため、小栗が3年ぶりに優勝した。
しかし、2本とも転倒し、タイムは43秒63と振るわず。小栗は申し訳なさそうに、「ざくざくの雪が苦手というのもありますが、言い訳すると、義足が合宿中に壊れ、足部は歩行用を使っていました」と打ち明けた。
だが、平昌パラリンピックで2種目ともメダルに届かず終わった無念から3年経ち、自信は増している。
平昌のレースが終わった翌日から、スタンスを健足である左足を後ろにする「グーフィー」に変えた。
「健足が後ろだと、後ろ足で蹴ってジャンプする動きができるので、苦手だった縦セクションをこなしやすくなるからです。ターンの入り方は難しくなりますが、もともとターンは得意なので、対応できると思いました」
スタンス変更という大改革の成果をやっと出せたのが、今年2月のワールドカップ。「グーフィーに違和感がなくなるまで3年かかった」という小栗は、平昌パラリンピックのスノーボードクロス銀メダリストであるクリス・ボス(オランダ)に勝ち、うれしい初優勝を遂げた。
「一騎打ちじゃなかったので……」と、喜びは爆発させていなかったが、それでも北京パラリンピックでは、「目標は金メダル。(平昌で金銀の)ノア・エリオットとマイク・シュルツ(ともにアメリカ)に勝ちたい」と打倒・メダリストに意欲を燃やしていた。
大岩根が上肢障害クラス3連覇
「上肢障害」の部は、大岩根正隆が3回目の出場で3連覇を飾って「ホッとしました」と優しげな顔をほころばせた。
17歳のとき、バイクの事故で右腕を肩から失った40歳は、2017年にスノーボードを本格的に始め、北京パラリンピックを目指している。
大きな課題はスタート。2年前、「片腕なので両手でレバーを引けない分、タイムが遅い」と話していた大岩根は、今回、左手で右側のレバーを掴んで斜面に飛び出すスタートを体に馴染ませていた。これで「体を引く量が増し、板をまっすぐに出せるようになった」と速さを増し、世界トップに近づきつつある。2月のワールドカップでは、スノーボードクロス4位の好成績だった。
北京に向けて「課題は3つ。スタートをより速くすること。かかと側のターンの改善。筋肉をあと5kg増やして加速をつけること」と明確に目標設定していた。
大会を終え、二星謙一スノーボード委員長は、北京パラリンピックに向けた強化について話し、「平昌の後、2年間は選手の地力をつけるため、大会より合宿やトレーニングを優先し、とくに勝負が決まりやすいスタートセクションを重点的にやってきました。今年からは、バンク、キッカー、ターンのトータルコースで仕上げていきたい」としたうえで、「北京でメダルは獲れると思っています」と自信を滲ませていた。
下腿障害エキスパート男子:1位 市川貴仁 2位 岡本圭司 3位 小礒孝章
大腿障害エキスパート男子:1位 小栗大地
上肢障害エキスパート男子:1位 大岩根正隆 2位 洌崎晃宏 3位 橋本広司
下腿障害一般男子:1位 後田風吹 2位 長山豪 3位 岩瀬亮祐
下腿障害一般女子:1位 坂下恵里 2位 橋口みどり3位 小林はま江
大腿障害一般男子:1位 中川清治 2位 辻林慧
上肢障害一般男子:1位 嶋田年起
健常者男子:1位 高嶋侑真 2位 杉田亮 3位 上橋健一
健常者女子:1位 大岩根涼子 2位 岡本純子 3位 市川美貴
text by Yoshimi Suzuki
photo by X-1