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水泳
東京パラ選考戦を兼ねたジャパンパラ水泳、派遣基準突破で代表つかんだベテランの奮闘と若手の躍動
世界のトップへ挑むために課せられたタイムを、5人のスイマーがクリアした。
東京2020パラリンピック選考会を兼ねた「2021ジャパンパラ水泳競技大会」が23日まで横浜国際プールで行われ、2019年世界選手権で2種目の銀メダルを獲得している富田宇宙、北京パラリンピックの50m平泳ぎ金メダリストである鈴木孝幸に加え、若手の窪田幸太と荻原虎太郎、そして女子は石浦智美の計5人が派遣基準記録を突破。東京パラリンピック日本代表の内定条件を満たした。鈴木は5大会連続、そのほかの選手は初のパラリンピック出場となる。
派遣基準は、パラリンピックでメダル獲得あるいは入賞を期待できる数値に設定されており、記録を突破した選手は夏の本番で上位争いが期待できる。ここではその5選手の戦いを振り返りたい。
先陣切った富田宇宙「絶対に一番に決めたかった」
自力で代表権を獲得する最後のチャンスとなった今大会で、先陣を切って内定を得たのは、富田だった。大会初日、男子400m自由形(S11)に出場すると、予選で4分33秒26を記録。派遣基準の4分40秒93を大きく上回った。富田は、2019年世界選手権で2個の銀メダルを獲得したが、金メダルでの内定を得られなかった悔しさを抱えており「今回の選考戦では、絶対に1番(最初)に内定を獲得する思いでレースに臨みました」と予選からフルスロットル。最終日も100mバタフライ(S11)で予選、決勝ともに派遣基準を突破してみせた。自由形に関して「ひとかきあたりのストローク効率があまり良くない。水をつかむ動作、とくに水をかき始めるときのヒジをしっかりと立てる動作を、もう少し改善したい」と話す一方、大会途中には自由形、バタフライともに腕の回転数に頼ったフォームをキック中心に変えて修正。高みを目指して試行錯誤していることがうかがい知れた。
鈴木孝幸は盤石、大会新連発
富田とともに初日から力を見せつけたのは、経験豊富な鈴木だ。落ち着きのある試合運びで着実に結果を出した。初日の男子200m自由形(S4)、予選は後半に大きく失速したが、想定内。決勝に向けた前半のペースの調整だった。決勝では、2分57秒35で派遣基準記録(3分01秒04)を軽々とクリアした。2日目の150m個人メドレー(SM4)、3日目の50m自由形(S4)でも同様に決勝で予選からタイムを上げ、両種目とも大会新記録で派遣基準記録を突破。勝ち方を知っているベテランらしい泳ぎを見せた。イギリスを拠点にしており、海外の情報にも敏感。同時期開催の欧州選手権に刺激を受け「自分のベストタイムを超えたり、ベストに近いタイムで泳がれているので(銀4個、銅1個のメダルを獲得した)2019年の世界選手権のようにはいかないというか、もっと厳しいレースになるだろうなと想定しています」と最後のパラリンピック挑戦になる可能性を感じている東京大会での決戦に目を向けた。
窪田幸太、課題の後半改善で日本新
最終日には次世代組も躍動した。窪田は、男子100m背泳ぎ(S8)で1分9秒97の日本新記録をマークして派遣基準記録(1分10秒64)を突破した。前半50mは、33秒12。決して楽に入れたわけではなかったと言うが「スタートからの水中キックと、ターン後のバサロキックがうまくいった。課題だった後半も、練習を積んできたことでバテ過ぎないようにできた」と練習で得ていた自信を生かして粘りを見せた。3月の日本パラ水泳選手権でマークした日本記録を1秒17更新したが、東京パラリンピックの参加標準記録(MQS)ランキング3位圏内が8秒台のため「東京パラリンピックでは、9秒台でも(メダル争いは)厳しい。タイムをさらに上げていきたい。メダルとなると、7秒台、6秒台ではじめてメダル争いに加われるかなと考えている」とさらなる進化を誓った。
石浦智美、4度目の挑戦で悲願のパラへ
同様に最終日の予選で派遣基準を突破したのが、ベテランスプリンターの石浦。日本記録を持つ女子50m自由形(S11)で31秒20の大会新記録をマークして、31秒33の派遣基準記録を突破した。決勝もタイムは落ちたが派遣基準をクリア。パラリンピック出場への挑戦4度目にして、初の切符をつかみ取った。「前回(派遣基準に)0.3秒足らず、切符を逃したという経験を踏んで、アスリート転職という形で、環境も経済的な支援とか、そういった(強化環境の)ところを整えてきたことが、こうして結果につながったのは嬉しく、諦めずに続けてくることができたのは、良かったかなと思っています」と笑顔を見せた。左のコースロープ際を泳いでいたことや、後半に息継ぎが増えて失速した点を改善点に挙げ、世界のトップ争いに必要な30秒台突入の青写真を描いた。
荻原虎太郎は失格の危機乗り越えて派遣基準突破
最終日の決勝で、最後に劇的な展開で東京パラリンピック内定を得たのが、荻原だった。最終日の男子100mバタフライ(S8)予選において、75m付近で体が完全に水没したという失格の判定を受けたが、「東京大会のリレーは、大先輩たちと泳げる最後の機会となってしまうので(絶対に決勝を)泳がなければいけないと思っていました」と執念を示した荻原は、抗議、さらに上訴。ようやく進出が認められた決勝で1分05秒25の大会新記録を樹立し、派遣基準記録(1分05秒87)を突破した。息継ぎひとつに技術と駆け引きが含まれたレースだった。予選では安定感を求めて前呼吸にしたにも関わらず水没の判定を受けたが、決勝ではスピードを重視して横呼吸で勝負。水没判定のリスクを負った勝負で結果を残した。失格寸前からの大躍進で大舞台の切符を手に入れ「レース後、多くの選手がおめでとうと言ってくれて、すごく嬉しかった。本当に、みんなに見てもらえているんだなと体感できたので、これからもまたいいレースができるように頑張っていきたい」と喜んだ。
大会後、日本代表内定選手も決定!
上記5人以外では、松田天空が男子100mバタフライ(S14)で派遣基準記録を突破したが、期間内に国際大会で二度のクラス分けを受けることができないため、東京パラリンピックの権利は得られなかった。
ほかに派遣基準を突破したのは、ロンドン2019パラ水泳世界選手権を優勝してすでに推薦内定選手となっていた山口尚秀、東海林大、木村敬一の3人。とくに、山口は、男子100m平泳ぎ(SB14)の予選で同クラスの選手を圧倒。自身の記録を0秒13更新する1分04秒00の世界新記録が場内にアナウンスされると、左腕で力強いガッツポーズを見せた。大会後には、上記選手のほかに、持ちタイムなどを参考に選出された選手を含め、男子14人、女子13人の日本代表推薦選手が発表された。いよいよ陣容も固まり、トビウオパラジャパンの精鋭が、世界へ挑む。
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text by Takaya Hirano
photo by X-1