「本番は記録が出る予感」東京大会に向けて選手も準備着々。パラのテストイベントが終了

2021.05.31.MON 公開

東京2020大会開催に向け、新型コロナウイルス感染症のために中断していたテストイベントが再開し、4月から5月にかけて無観客で開催された。パラリンピックでは車いすラグビー水泳陸上競技射撃の4競技のテストイベントを実施。コロナ対策に加え、競技運営の進行の確認や選手・関係者の導線確認が行われたが、実際に競技を行った選手にとって設備はもちろんのこと、プールの水やスタジアムの走路の感触を確かめる機会にもなった。

連携や導線などの改善すべき点を確認

東京大会1年延期が決まった後、初のテストイベントとなったのが、4月3、4日に本番会場で行われた「運営テスト―車いすラグビー」。国立代々木競技場では、オリンピック・パラリンピック期間中に3競技(ハンドボール、車いすラグビー、バドミントン)が順次行われることから、床の設営から撤去にかかる所要時間を検証。想定通り3時間程度で転換できると確認されたという。

「会場の雰囲気とコートの明るさの感触を味わえてよかった」と池崎 photo by Tokyo 2020

車いすラグビーならではのポイントとして床の清掃がある。車いすラグビーはターンも多く、床に車輪の跡や(車いすやボールの滑り止めとして使用する)松やにが付着するため、度々床の清掃が行われる。運営テストでも、清掃時間や床材への影響をチェックした。ちなみに床は、最新のウッドタイプの床材を国内で初めて使用したと言い、紅白戦でその床の感触を確かめた日本代表候補の池崎大輔は「フロアの感覚がいつも練習している場所と違う」と感想を述べ、「(床に合わせて、車いすを漕ぐときに使う)体幹や瞬発力を鍛えないといけない」とコメントした。

加えて、キャプテンの池透暢は「奥行き、空間がとても広い。今回は、コートの中での距離感やフロアの感触、選手たちの声の届き方などを経験したいと思っていた。やりにくいところ、意外といけるところもあった」と話しており、情報収集のよい機会になったようだ。

東京パラリンピックの水泳会場となる東京アクアティクスセンター photo by Takashi Okui

4月26日には、水泳のテストイベント「READY STEADY TOKYO―パラ水泳」が東京アクアティクスセンターで行われた。とくに、実施種目の多い水泳ならではのタイトなタイムスケジュールや、計時種目という観点からのテクノロジー(計測や計時システムなど)を重点的に、表彰やスポーツプレゼンテーション、進行の連携やオペレーションのほか、スタート台からタッチ板まで正確に動いてるかなどの確認がなされた。

水泳の知的障がいクラスで金メダルが期待されるオールラウンダーの山口尚秀 photo by Takashi Okui

今回のテストでは、パラリンピックでの課題となる選手の輸送も本番と同じように実施。競技開始前はウォーミングアップの時間が重なり、選手たちが集中するため、それをどうスムーズに進められるかを検証した。まだ具体的な改善点は示されていないが、今回のレポートや現場の声を集めて本番の輸送に反映するという。

一方で、「運営上さまざまなところにケーブルが配置されているため、スタッフを配置するかアナウンスのみで対応するかなど、注意を促すためオペレーションをどうするかというところも課題となった」と東京2020組織委員会大会運営局次長・森泰夫氏。アクセシビリティに優れているとされる会場ではあるが、実際に運営して見えてきた部分もあったようだ。

パラ水泳では導線の確保など本番とほぼ同様の形で行われた photo by Takashi Okui

5月に入り、11日に行われたのが「READY STEADY TOKYO―パラ陸上競技」。水泳以上に種目数が多い陸上競技は、各レースの間に行う表彰などをスムーズに行えないと進行管理への影響が大きくなる。新型コロナ対策を万全にしながら進行にどのような影響があるか、また、競技場内での電動カートの定期的な運航の時間割など綿密な検証が行われた。

パラ陸上では選手や大会ボランティアを含め、関係者約10,000人が参加し、本番と同じように競技を行いながらテストが行われた。ほとんどの選手が新しい国立競技場に足を踏み入れるのは初めてで、本番に向けて気持ちを高鳴らせながらタータン(走路)の感触を確かめた。

表彰のオペレーションも確認 photo by X-1

日本のトップスプリンターのひとりである井谷俊介は100mに出場した。

片足義足で走る井谷にとって、走りやすい走路だったと言い、「(ホームストレートは)反発を得やすく推進力を感じやすい。僕のフィーリングに合っていて、好タイムが狙えそう。他の選手も本番でいい記録を出すんじゃないかな。観客と選手の距離が近いので、義足が地面を踏んでる音や選手の息遣いが聞こえると思う」と話して汗をぬぐった。

ただし、パラリンピックではアクセシビリティが重要になるだけに、通路の幅が狭いことや、勾配のある上りのスロープが車いすの選手の負担になるのではとの声が、多数の選手から挙がっていた。

義足アスリートにとっては、反発を得られると好評だった photo by X-1

射撃のテストイベント「READY STEADY TOKYO―射撃」は、5月17日から21日の5日間、陸上自衛隊朝霞訓練場にてオリンピック・パラリンピック合同で開催された。会場は5月10日に射撃場として指定認可が下りたばかりという、できたてだ。

確認事項としては、全体的なコントロールもそうだが、銃などの取り扱いに関する、例えば、競技で使う物品の空港内での出入、輸送、保管、管理といった一連のオペレーションなど射撃特有の項目を綿密にチェックした。

パラ射撃については、「一番の懸念事項としては選手の移動。代表団にとっても懸念事項になっていると思う。また、フィールドオブプレイのエリアに関しては、フローリングのところがもう少し改善される必要がある」とスポーツマネージャーのピーター・アンダーヒル氏は話している。

真新しく木材の匂いが漂う射撃会場 photo by Asuka Senaga

新型コロナウイルス感染症対策から見えた課題

新型コロナウイルス感染症対策は、各競技のテストイベントに共通して検討すべき最重要課題となった。

【テストイベントにおけるコロナ対策】
<最小限の物理的な接触>

・人との接触を最小限に抑える。
・ハグや握手などの物理的な接触を避ける。
・選手との距離は2mを確保する。その他の人との距離は運営上のスペース内で少なくとも1mを確保する。
・閉鎖された空間や混雑は出来る限り避ける。

<衛生管理>
・定期的に手洗い、可能な場合は手指消毒剤を使用する。
・屋外で他社との距離を2m以上確保御できる場合以外は、マスクを常時着用する。
・咳をする際は、マスク、ティッシュ、袖などで口元を覆う。
・歌ったり連呼したりせず、拍手することでアスリートを応援する。
・可能な限り共有物品の使用を避けるか、それらを消毒する。
・30分ごとに部屋と共有スペースを換気する。

テストイベントでは、上記の基本的な感染症対策やスクリーニングテストが実施されたが、併せてポイントとなったのが、逐次行う消毒作業がどのくらいタイムスケジュールに影響を及ぼすか、ソーシャルディスタンスを保ちながらどのように導線の分離を行うかといった項目。会場の規模やレイアウト、関係者の人数に違いがあるため、各競技で対応が異なり、それぞれに合った対策・対応が求められた。

その中で、競技ならではの対策、工夫もテストイベントで見受けられた。
例えば、車いすラグビーでは、車いすラグビー連盟からの提案で、控室から出入りするドアの前後に消毒液を浸したタオルを置き車輪を素早く負担なく消毒できるようにした。

日本車いすラグビー連盟からの提案で、出入り口には消毒液に浸したタオルを敷き、車輪を消毒する試行をしたという photo by Tokyo 2020

また、インタビューを行うミックスゾーン(取材場所)について、試合後に選手とメディアの導線が重なったり、ミックスゾーンが狭かったり、インタビュー時に選手との間隔を一定以上空けてしまうと声が聞き取れないなどの課題も挙がった。マイクやスピーカーの設置、今回のテストイベントでも取り入れられたリモート取材といった対応も今後さらに進められるだろう。

text by TEAM A
key visual by X-1

『「本番は記録が出る予感」東京大会に向けて選手も準備着々。パラのテストイベントが終了』