最強全盲スイマーはいかに育ったのか? 悲願の金メダルを目指す木村敬一のエピソード5選

2021.08.30.MON 公開

東京2020パラリンピック水泳競技の金メダル候補であり、ユーモアあふれるコメントにも注目の全盲スイマー・木村敬一が、いよいよ登場。3種目に出場する木村は、8月30日午前の200m個人メドレー予選でこの大会初めての泳ぎを披露し、全体3位と順調な滑り出しを見せた。今回、パラサポWEBでは木村の秘蔵エピソードを紹介! 小学4年から水泳を始めた木村は、いかに世界のトップスイマーへと成長したのか?

<エピソードその1> 6歳から親元を離れて寄宿舎生活

2歳の時に視力を失った木村は、盲学校の小学部入学とともに寄宿舎生活をスタートさせた。盲学校が家から離れていたためだが、寄宿舎生活は先生や友だちのおかげで楽しく快適に過ごせていたようだ。とはいえ、両親はいつでも木村のことが心配。週末は帰宅するが、母親は木村を学校に送り届けるたび、後ろ髪を引かれる思いだったという。小さな頃から木村をサポートし続けた両親のためにも、東京大会ではいい泳ぎを見せたい。

<エピソードその2> 中学時代のプールは防火水槽! 12m

「今の環境は敬一には物足りなくなる」。我が子の将来を見抜いていた父親のすすめで、生まれ育った滋賀を離れて東京の中学に入学した木村。部活は水泳部に入った。しかし学校のプールは一般的な25m、50mのコースではない。もともと防火水槽だったところにコースロープを張ったような設備で、12mしかなかったという。部活の時間には日当たりもない場所だったため、寒いなか震えながら練習をすることもあった。過酷な環境下での経験が、木村の底力になっているはずだ。

中3のときの木村(右は恩師でありタッパーの寺西さん)photo by TOKYO GAS

<エピソードその3> 仲間がいるから頑張れる

高校時代、ほとんど一人で練習をしていた木村は「水泳は孤独なスポーツだ」と思っていたが、大学の水泳サークルでその価値観が変わる。健常者と同じ水泳サークルに入った木村は、初めて大人数で練習をする環境に身を置いたのだ。みんなとの練習は楽しく、「仲間がいるから頑張れる」と思えるようにもなった。高校時代に挑んだ北京大会では世界との実力差を痛感した木村だが、大学時代の成長により、ロンドン大会では銀メダルと銅メダルを持ち帰った。これまで出会った多くの人たちのためにも、次は金メダルが欲しい。

<エピソードその4> 先輩たちへの感謝を忘れない

トップスイマーへと成長した木村は、気づけば自分が目標としていた先輩スイマーたちを超えるほどまでになっていた。普通なら、「自分が頑張ってきたからだ」と思うところかもしれないが、木村は先輩たちが切り拓いてきた道を進んでいることを忘れない。先輩たちの時代は、まだパラアスリートのための環境が整っていなかった。それを整えてくれたのは、日本代表選手団の河合純一団長をはじめとする先輩たちのがんばりだ。そのおかげで企業や社会からのサポートも厚くなった。木村はそんな周囲への感謝の気持ちを常に持ち続けている。

<エピソードその5> 金メダルを獲るために単身渡米

金メダルが欲しい! そのために環境を変えようと考えた木村は、2018年に単身渡米し、さらなる成長を目指した。英語はほとんど話せない。知り合いもいない。それでも、東京大会で金メダルを獲るべく、練習拠点をアメリカに移した。「ずっと追い求めている金メダルの色がいったいどんな色なのか、見当もつかない」という木村だが、悲願の金メダルを手にすべく、やれることはすべてやり尽くした。

<参考著書>
『闇を泳ぐ ~全盲スイマー、自分を超えて世界に挑む。~ 木村敬一』

木村敬一著/ミライカナイ(2021年8月20日発売)
2歳で視力を失った木村がパラ水泳メダリストに成長するまでの半生を、ユーモアたっぷりに記した初の著書。本人いわく、見どころは中高生時代のエピソード。夜中に寮の部屋をこっそり抜け出して食堂の自販機にジュースを買いに行ったり、宿代を持たずにローカル線で福島旅行に出かけたり。単なる自伝本ではなく、読者にも興味と発見の多い一冊となっている。

text by TEAM A
key visual by Takashi Okui

『最強全盲スイマーはいかに育ったのか? 悲願の金メダルを目指す木村敬一のエピソード5選』