トライアスロン宇田秀生が猛追の銀、「幸せなストレート」で鉄人が泣いた

2021.08.29.SUN 公開

8月28日、東京・お台場エリアを舞台にトライアスロンの初日の競技が行われ、男子PTS4クラスの宇田秀生が銀メダルを獲得した。大会前、「目標はずばり表彰台」と語っていた宇田。パラリンピック初出場ながら、会心のレース運びで同競技初のメダルを日本にもたらした。

課題のスイムは差を埋められず

「スイムでは少し出遅れると思うが、その後のバイク、ランでしっかり前の選手を一人ずつ追って、最後まであきらめず、とにかく3位以内を目指して粘り強いレースができれば」

宇田は大会前の取材でそう語っていたが、まさにその通りの展開だった。

レースは大方の予想通り、序盤から世界ランキング1位のアレクシ・アンカンカン(フランス)が飛び出す形に。スイムを苦手とする宇田にとっては、どのくらいの差でここを終えられるかがポイントだった。もちろん、苦手克服は図ってきた。前哨戦となった今年5月の横浜での大会後は、「スイムは結構ボリュームを上げてやってきた。横浜のときよりは確実にトップの選手に近づいていると思う」と自信をのぞかせていた。それでも本番で差を埋めるまではいかず、トップから約3分差の8位でスイムを終えた。

トライアスロン日本代表の宇田(写真中央)

得意のバイクで一気にメダル圏内に

宇田にとって、お台場のコースは今回が初めてではない。大会前には、「割と好きなコースなので、いいパフォーマンスが発揮できると思う」とも話していた。その言葉通り、バイク2周目で5位に上がると、最後の4周目を終えたときには3位とメダル圏内にジャンプアップしていた。

日本トライアスロン連合のパラリンピック対策チームリーダーを務める富川理充氏は、宇田について、「フィットネステストの結果を見ると、一流の競技者のレベルにまで達しているような持久力。片手のバイクのテクニックもうまい」と評していた。脅威の追い上げを見せた宇田の原動力といえるだろう。

フィジカルやテクニックだけではない。宇田は勝負のポイントを見極める確かな目も持っている。コース全体を見て、「バイクの上り坂で、どれだけ強くペダルを踏めるかがカギになってくる」と語っていた宇田。地の利も最大限に生かしての猛追だ。

バイクで追い上げる宇田

粘り強い走りでメダルを手繰り寄せる

レースはいよいよ最後のランへ。ここでも粘り強い走りを見せると、2周目で2位に上がり、最後は3位との差をさらに広げてのフィニッシュ。「ターゲットが見えている間は絶対にあきらめないという気持ちでレースに臨んだ。僕としてはいいレース展開だったと思う」と振り返った。

自らの手で手繰り寄せたメダル。ゴール後は、人目もはばからず泣いた。

「ゴールする直前からいろいろな気持ちが込み上げてきて、こらえるのにいっぱいいっぱいだった。最後はすごく幸せなストレートでした」

「たくさんの人に支えてもらい今日のレースができた」と語る宇田。レース後は思いが込み上げた

見せ続けたいパラアスリートの競技力

ライバルの選手たちは、共に戦ってきた仲間たちでもある。宇田は彼らにも特別な感情を抱いていた。パンデミック下にもかかわらず、世界各地のレースで合わせていたいつもの顔が、今日という日、ここ東京に集ったのだ。

「みんなで走ることができて、本当に幸せなレースだった。いつものレースとは少し雰囲気は違ったけど、出場しているメンバーはいつもの素晴らしいライバルたちで、気持ちのいいレースができた。僕に限らず、パラアスリートは健常者と同じ量、同じ質のトレーニングを日頃から積み、この舞台に立っている。そうした競技力というものも評価してもらえたらと思う」

自らを「目立ちたがり屋」と評するなど、今大会7人が出場する日本のトライアスロンチームのムードメーカー的な存在でもある宇田。だからといって、ただのお調子者というわけではない。真っすぐに競技と向き合い、仲間やこれまで支えてくれた人への感謝を伝える表情からは、メダリストとしての矜持が垣間見えた。

日の丸を掲げ、銀メダル獲得を喜んだ

edited by TEAM A
text by Kenichi Kume
photo by JunTsukida

『トライアスロン宇田秀生が猛追の銀、「幸せなストレート」で鉄人が泣いた』