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シューズ0.5足分の微調整で引き寄せた銅メダル! 陸上・ユニバーサルリレーが見せる多様性競技の面白さ
東京2020パラリンピックで初めて採用された陸上競技の4×100mユニバーサルリレーで、日本が銅メダルを獲得した。その裏には、時間をかけて磨き上げてきたタッチワークの妙があった。
「多様性」と「調和」のユニバーサルリレー
それは、予想もしない結末だった。「中国、失格」。その瞬間、日本の銅メダルが決まった。選手たちの悔しさに包まれた報道エリアは、一転、メダル会見に変わった。
思えば、予選からツキがあった。予選第2組を2位で終えた日本は、その時点で暫定4位。決勝進出の条件は、最終組を走る4ヵ国すべてがタイムで日本を下回るという厳しいものだった。しかし、実際には最終組のどの国も日本のタイムを上回ることができず、日本の決勝進出が決まったのだ。
ユニバーサルリレーは、障がいの異なる4人の選手(ガイドを除く)が、バトンではなく「タッチ」で次の走者につなぐ混合種目。第1走者は視覚障がい、第2走者は切断・機能障がい、第3走者は立位の脳性まひ、第4走者は車いすと、走順ごとに該当カテゴリーが定められており、メンバーは男女2人ずつで構成される。男女の走順はチームによって異なる。パラリンピックの精神の一つでもある「多様性」と「調和」を象徴する種目といえるだろう。
シューズ0.5足分の細かな調整
新種目でのメダル獲得を目指し、日本代表チームは合宿などを通して強化を図ってきた。とくにフォーカスしたのが「タッチワーク」だ。短距離のメダリストが顔をそろえる海外勢に対し、個々の走力で劣る日本はそこに磨きをかけることで世界との距離を縮めてきた。
ユニバーサルリレー担当の高野大樹コーチは、ここまでの成果をこう語る。
「選手やスタッフの中で、1周(400m)をロスなくきれいにまわる共通のイメージを持てたことが大きかった。そこに対する不安感を取り除けたというのは、合宿や多くの試合に出てきた一つの成果だと思う」
予選レース後の日本チームの分析では、第1走から第2走、第2走から第3走、第3走から第4走、それぞれのタッチワークで日本チームに「0.1秒」のロスがあった。そのため、決勝ではチェックマーク(※)の位置を、第1走から第2走で「1足分」、第2走から第3走で「0.5足分」伸ばし、第3走から第4走で「0.5足分」“縮める”という細かな調整を図った。
※前走者がどの位置に来たらスタートを切るかを示した目安。テイクオーバーゾーン(次の走者にタッチする区間)内で1カ所だけマークすることができる。
ドバイでの苦い経験を糧に
しかし、タッチワークの技術をどんなに追求しても、次の走者へつなげられなければ意味がない。日本には苦い経験がある。2019年にドバイで開かれた世界選手権で、第3走から第4走へのタッチが届かず失格となったのだ。このときのことを、「前日練習で(第3走から第4走への)チェックマークの距離がつかめたので、その日の風を考えて(チェックマークの位置)を決めた。届かなかったのは、天候を読めなかった僕らスタッフの責任」と高野コーチは振り返る。
100分の1秒を争うリレー競技において、走力で劣る国は少しでもその差を埋めるためにギリギリの勝負を仕掛ける。そのとき、思わぬミスが生じる。だから、メダルの第一条件は「まずゴールすること」。決勝を前にした選手たちに、高野コーチはそう告げて送り出した。
障がいや性別の組み合わせが競技の面白さ
リレーメンバーの一人、澤田優蘭(T12/視覚障がい)の決勝後の言葉が、この種目の魅力を表していた。
「ユニバーサルリレーは、障がいや性別、本当にバラバラで、何通りもの組み合わせがある。だからこそ、すごく難しいこともたくさんあって。私は試合の中でもずっと、『私たちならきっとできる』と自分に言い聞かせていたけど、(他のメンバーがいることは)個人的にも心強かったし、多様性を象徴した種目だったと思う」
障がいや性別、種目のまざりあった、みんなでつかんだメダル。しかしこれに満足はできない。3年後のパリ大会に向けて、世界との差を埋める戦いはこれからも続いていく。
edited by TEAM A
text by Kenichi Kume
key visual by AFLO SPORT