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水泳“悲願の金メダリスト”木村敬一、魅せ続けるパラ水泳の存在感
11月20日から21日、千葉県国際総合水泳場で開催された第38回日本パラ水泳選手権大会。東京2020パラリンピックに出場した選手にとっては大会後初のレースという選手も多くいた。
水泳の日本代表チームは、東京パラリンピックで金3を含む計13個のメダルを獲得。一際注目を浴びた。
今大会は「次のパリ2024パラリンピック、来年の世界選手権(ポルトガル)、アジアパラ競技大会(中国)への第一歩」と上垣匠監督。そんな中、ベテラン選手たちは、自国開催のパラリンピックを終えた今をパラ水泳を知ってもらうチャンスととらえている。
東京パラリンピックの男子100mバタフライ(S11/視覚障がい)で“悲願の金メダリスト”となった木村敬一もそのひとり。今大会は無観客開催ながら「もう一度泳いでいるところを見ていただき、報告する日にしたいなと」とそのモチベーションを語っている。
東京パラ以来のレースで“恩返し”
この日本選手権で木村は50mのバタフライと自由形にエントリー。まずは大会初日のバタフライに登場し、28秒16の大会新をマークした。東京パラリンピックの100mバタフライでワンツーフィニッシュを飾った富田宇宙はエントリーしておらず、木村のクラスでは唯一の出場で結果は優勝だった。
東京パラリンピック後はテレビ出演や自身の出版記念イベントなど多忙な生活を送っており、練習量は多くて週に3~4回、泳ぐ距離も少なかったという。タッピングも“ぶっつけ本番”だった。そんな中でまずまずのタイムを残し、金メダリストとしてホッとした様子だ。
「思っていたよりもちゃんと泳げたかな。タイムも28秒後半か29秒はかかると思っていたのでよかった。50mなので気持ちも楽でした」と振り返り、東京パラ後初のレースは「いいレース」だったと話した。
このレースは東京パラリンピックに出場した16歳の日向楓(運動機能障がい)ら他のクラスの選手とともに泳いだ。実は、第4レーンの木村は入場のとき、普段から仲のいいS10クラスの久保大樹(運動機能障がい)に手を引かれてスタート台まで歩を進めた。パラリンピックで木村がタッパーとともに入場していたシーンをテレビで観たという人もいるだろう。隣の第5レーンで泳いだ久保は、ある思いがあってレースでは初めて木村の手引きをしたと言う。
久保は明かす。
「選手同士が助け合うことは、合宿では普通に行われていること。(障がいの重い選手は)何でもかんでも手伝ってもらうイメージが強いと思いますが、実際は特別に手を借りなくても選手同士でできることはたくさんあるんです。それを見て感じることは人によってさまざまだと思いますが、何か感じ取ってもらえたらと思いますし、スタートまで一緒に行くとか、そういったことが普通になっていけばいいなと思います」
東京パラリンピック期間中、テレビのハイライトで解説を務めた久保は、「僕自身、健常者から障害者になり、パラ水泳の世界に飛び込んだとき、木村敬一などのトップ選手を見て『自分の知らない世界があるんだ』と衝撃を受けた。東京パラで多くの皆さんもそう感じたのでは。まずはパラ水泳を知ってもらうことが大切。これからどういうことができるか、どう魅力を発信していくか、選手自身も考えているところです」とアピールした。
そんな久保とのレースについて木村は、「とくにライバルというわけではないけれど、楽しくレースできてよかったです」とコメントし、その後ふたりは大会の模様を配信するYouTubeで絶妙な掛け合いを繰り広げていた。
今後の目標は語らず
2日目の50m自由形は「スピードを出していい記録を狙えるよう頑張ります」と話していた木村だったが、26秒82で記録更新ならず。それでも大会を笑顔で締めくくった。
来年6月にはポルトガルで行われる世界選手権を控える。今後については何も決まっていない。「毎日いろんなことをこなしていき、一日一日を大事にしていきたいと思います」と今後の競技活動への明言を避けている。
銀メダル2個と銅メダル2個に終わったリオパラリンピック後も、次の目標をなかなか明言しなかった。当時は「4年間、東京パラリンピックに向けたトレーニングを乗り切る自信がなかった。1年くらいはぼーっとしていた」と話していたが、今は違う。“悲願の金メダリスト”になり、伝えられるものが多くある。
「今は、いろんなところに呼んでいただいているので、応援してくださった皆さんに少しでもパラリンピックのことを話したり、メダルを見てもらったりしたいと思います」
木村がパラリンピックの余韻に浸っていたいのは、喜んでくれる人たちがいるからだ。現在、31歳。全盲の金メダリストはこれからどんな姿を見せてくれるのか。楽しみは尽きない。
text by Asuka Senaga
photo by X-1