自国開催のパラリンピックにかける夢。ボートの有力選手に注目!

パラリンピック競技 ボートの有力選手に注目
2018.09.04.TUE 公開

2018年8月下旬の2日間、神奈川県・相模湖でパラリンピック競技であるボート(パラローイング)の世界選手権(9月・ブルガリア)に向けた選手強化合宿が行われた。

集まったのは、世界選手権のPR1(※1)シングルスカル(男女)、PR2(※2)男子シングルスカル、PR3(※3)男子ペアに出場する男子4人と女子1人の強化指定選手たち。さらに育成選手2人も合宿に加わった。現在、強化指定選手5人は、東京2020パラリンピック出場を目指している。

※1 PR1:腕・肩の機能はあるが、胴体・下肢の機能が極小またはない漕手
※2 PR2:腕・肩・胴体の機能があり、下肢に障がいがあるためスライディングシートが使えない漕手
※3 PR3:腕・肩・胴体・下肢の機能があるが四肢に障がいがある、または視覚障がいの漕手
リオでダブルススカルに出場した駒崎茂は競技パートナー募集中だ

強化状況についてパラローイング岡本悟本部長は、こう説明する。
「もちろん全種目での出場が目標です。日本国内では女子の層が薄く、東京の4種目(※4)のうち、男女混合のダブルスカルと舵手付きフォアは、まだ女子選手を育成している段階ですが、見通しは明るい状況です」

東京パラリンピックの出場枠は、各種目「12」。2019年9月の世界選手権と、2020年春の最終予選でほぼ決定する見込みだ。自国開催のパラリンピック出場を目指し、ボートに情熱を注ぐ選手たちに話を聞いた。

※4 東京パラリンピックで実施されるのは、PR1シングルスカル(1人乗り)男女、PR2ダブルスカル(2人乗り)混合、PR3舵手付きフォア 混合の4種目
強化合宿で汗を流す遠藤隆行
9月の世界選手権ではシングルスカルに出場する市川友美

競技転向組、期待の新人、50代の星など、個性豊かな日本代表!

●遠藤 隆行(えんどう・たかゆき)

バンクーバーパラリンピック日本代表選手団では開会式の旗手を務めた遠藤隆行

40歳/埼玉県/両大腿欠損/2018年世界選手権・PR1男子シングルスカル出場
パラアイスホッケー(旧名アイススレッジホッケー)日本代表として、2002年、2006年、2010年冬季パラリンピック大会に出場。とくに2010年バンクーバー大会ではチームのキャプテンを務め、銀メダル獲得に貢献した“レジェンド”だ。

「2010年のバンクーバー大会が終わったあと、アイスホッケーから離れたんです。でも2013年に東京でのパラリンピック開催が決まって、何かやりたいなと。そこで縁あってボートを始めたんです。

アイススレッジホッケーと違うのは、自分が漕がなきゃ進まないっていうこと。ホッケーは、2、3分全力でやって交替で休んでという競技。だから2,000mを約10分間、漕ぎ続けるのは長い(笑)。“氷をかく”“水をかく”という点は似ているかもしれませんが。

現在の課題は、新しいことにチャレンジしていかないと、ということですね。たとえば、よい姿勢を見つけるにしても、今までのことを変えるわけだから、試行錯誤の際にはどうしても違和感がある。でもチャレンジしていかないと、何をしてもベストを見つけられません。

それにしてもいろいろ簡単ではありませんね。じつはボートを始めたとき、日本一になれば、東京大会に出られるのかなと思っていたんですよ。でも、そんなに甘くなかった(苦笑)。だから、違う種目を考えている……というのは冗談で(笑)もう頑張るしかないという心境です」

●市川 友美(いちかわ・ともみ)

発掘イベントがきっかけで競技を始めた市川友美

38歳/東京都/脊髄損傷/2018年世界選手権・PR1女子シングルスカル出場
2016年に参加した「パラリンピック選手発掘プログラム」でボートに出会い、競技を始めた。大戸淳之介ヘッドコーチが「テクニックはだいぶいい。あとはフィジカル」と評価する日本でもっともメダルが有望視されている選手だ。

「東京パラリンピックの開催が決まって、私も出たいなと思ったんです。無理だという人もいましたが、わたし、身長が立てると174.5㎝と高いので、これを生かさない手はないなと(笑)。ボートを始めてよかったのは水辺に行けたことですね。水に関することはプールなら可能だけど、ほかは難しいと思っていたのでうれしかったです。

競技としては、2017年10月に香港の大会で優勝。とはいっても2人だけの争いでした。だから実質的な初出場は、2018年5月のイタリアの大会です。PR1女子シングルススカルに7艇出て、4回戦って5位、4位、3位、5位でした。この結果について私は惨敗だと思っていないんです。正直、(世界の上位と)かけ離れていないと感じました。まだ時間はあるし、頑張れるな、と。

あと仕事のあとの毎日のトレーニングはきついですが、とにかくやり始めるようにしています。6年前、ケガをして以来、心配してくれる人が多かったなか、私がいまボートをやって元気でいることを知って安心してくれる人たちがいる。それが競技を続けるモチベーションになっています」

●駒崎 茂(こまざき・しげる)

リオパラリンピック日本代表の駒崎茂

56歳/栃木県/両脚切断/2018年世界選手権・PR2男子シングルスカル出場
2018年リオパラリンピックでは混合ダブルススカルに出場。結果は12位。東京大会でも同種目の出場を目指し、現在、パートナーを模索中。昨年には孫も誕生した“50代の星”だ。

「リオのときのパートナーは競技を離れましたが、私は東京大会に出たいので、パートナーを探しています。幸い、見通しは暗くないんです。東京開催に向け、いろんな方が奔走し、選手発掘が進んでいます。2019年9月の世界選手権で新しいパートナーと東京の出場権を獲得することがいまの目標です。

ボートを始めたのは7年前ですね。ボートの面白さは、レースに勝つことが重視されることだと思います。ボートは自然相手なので、同じ条件のときがありません。もちろん記録は大事ですが、その勝負に勝つことが面白いんです。

パラリンピックもオリンピックも、ボート競技ではまだメダルがないので、オールジャパンチームとして切磋琢磨できればと思いますし、9月の世界選手権では自分の経験を活かして先頭に立っていきたいと思っています」

●西岡 利拡(にしおか・としひろ)

もっとも競技歴の長い西岡利拡

46歳/広島県/左肘下まひ/2018年世界選手権・PR3男子ペア出場
35歳から競技を始め、強化選手のなかでもっともボート歴が長い。パラリンピックには、PR3混合舵手つきフォアでの出場を目指す。東京大会に向けては女子クルーを募っており、今年の世界選手権には、有安とPR3男子ペアで初出場する。

「2008年の北京パラリンピックでボート競技が採用され、以来、パラリンピック出場を目指してボートを続けてきました。しかし、一度も出場ならず。出るまで続けてやろうという思いでやっています。

住んでいるのは広島ですが、練習拠点は琵琶湖です。月に1、2回琵琶湖に通い、月に1回程度、全日本の強化合宿もある。パラリンピックの採用種目である混合フォアは、パートナーがいないのでいまは有安選手との男子ペアで、競技力向上に努めています。
ボートは2人の息を合わせて漕がないと、まったく進まなくなってしまうので、いつでもフォアで結果を出せるようにも準備しています」

●有安 諒平(ありやす・りょうへい)

柔道から転向した有安諒平

31歳/東京都/視覚障がい(黄斑部変性症)/2018年世界選手権・PR3男子ペア出場
視覚障がい者柔道を20歳から約8年続けたのち、2016年にボートに転向。現在は大学院生でもあり、杏林大学大学院で運動と視覚をテーマに神経生理学の基礎研究を行っている。

「僕がパラリンピック出場を目指している混合フォアは、肢体不自由者と視覚障がい者、さらに健常者、男女が混じって一つの艇に乗ります。そんな競技はほかにないのではないでしょうか。

視覚障がい者は状況判断が難しいけど、とにかくエンジンになってねという役割がある。一方、肢体不自由の人は出力は下がることもあるけど、全体の統制が求められる。お互いの苦手をコントロールし合って、一緒にできるのがいいんです。もうすぐ強化指定選手に求められる標準記録を越える女子選手も出てくる見込みで、1年後には形を作りたいです。

大学院では、視覚障がいの治療法を開発したいという思いでやっていて、時間も多くとられるのですが、僕には、強くなって、障がいがあってもスポーツをあきらめる必要はないことを伝えたい気持ちもあるんです。大学院とボートどちらも頑張りたいし、両立していくつもりです」

世界選手権に向けた強化合宿に参加した選手、関係者ら。東京2020パラリンピック2年前の節目に行われた。
ボート競技について:
https://www.parasapo.tokyo/sports/rowing

text by Yoshimi Suzuki
Photo by Yoshio Kato

『自国開催のパラリンピックにかける夢。ボートの有力選手に注目!』