テコンドー初のパラ単独試合で伊藤力と工藤俊介が優勝!

テコンドー初のパラ単独試合で伊藤力、工藤俊介がV
2018.09.05.WED 公開

9月2日、日本財団パラアリーナにて平成30年度下期のパラテコンドー強化指定・育成指定選手の選考会が行われた。パラテコンドーの大会は、一般のテコンドー大会との併催が多く、単独での開催は初めて。今回は障がいの程度によって分けられるクラス別はなく、男子は−61kg級と+61kg級の2階級に分かれ、それぞれ5名が参加するトーナメントを実施。女子は参加選手が太田渉子のみとなったため、特別選考試合の形式で行われた。

【-61kg級】火花散る! パイオニア伊藤と若手の星野が激突

-61kg級の決勝に進出したのは、この競技のパイオニアである伊藤力と、今年8月に韓国で行われた金雲龍カップパラテコンドー選手権でその伊藤に勝利を納めて3位入賞を果たした高校2年生の新鋭・星野佑介。伊藤は準決勝でキックボクシング出身の重水浩次を20ポイント差による勝利で下し、星野は本年上期の強化選手である阿渡健太に対して14-5の差をつける勝利で決勝進出を果たした。

伊藤陣営はビデオリプレイを要求するなど終始、自分たちのリズムで試合を進めた

「先月、負けているので、その反省を踏まえて対策をしてきた」という伊藤は試合開始から積極的に仕掛ける。自身の欠損している右腕を前ではなく左腕を前にして構え、星野が得意とする右前足の蹴りをディフェンスして蹴り返すという作戦だ。星野も譲ることなく、蹴られたらすぐに蹴り返し、ポイントをイーブンに戻す。途中までポイント差は反則による1ポイントのみという一進一退の攻防が続くが、拮抗した中で差をつけたのは、やはり試合経験の豊富な伊藤だった。右の蹴りを当ててポイントを取ると、すかさず同じ技を連発して続けてポイントを奪い差を広げる。星野陣営もタイム要求によって流れを断ち切り、タイムあけに攻勢に出ようとするが、ティッチャギ(後ろ蹴り)が下半身に当たる反則となってしまった際に、伊藤陣営はビデオリプレイを要求して時間をうまく使うなど、試合の流れを渡そうとしない。最後は追い上げようと前に出る星野の蹴りをかわして自分の蹴りをヒットさせる試合巧者ぶりを見せ、18-14で伊藤が優勝を果たした。

相手を巧みにガードしながら試合を進める星野(左)

試合後、「東京パラリンピックでの金メダルがテコンドーを始めたときからの目標。その点はブレずに残り2年間でレベルアップを果たしたい」と語った伊藤。「競技を始めてまだ2年なので、テコンドーはまだ初級者」だと謙虚に話すが、いくつもの国際大会で実績を残すなど経験を積んでおり、パラテコンドーを牽引する存在としてもその両肩にかかる期待は大きい。

【+61kg級】工藤と田中が激しい蹴り合いで魅せた!

+61kg級はともに上期の強化指定選手である工藤俊介と田中光哉によって決勝が争われた。両者とも準決勝では相手の蹴りによるポイントは許さず、20ポイント差を付けての勝利で勝ち上がってきているだけに頭一つ抜けた存在といっていい。そして決勝でもレベルの高い好勝負を展開する。

長身から繰り出す蹴りで試合を制した工藤(右)

積極的に前に出て、自分から蹴って行くのは工藤。実力者同士の対戦では、カウンターを狙う展開になりやすいパラテコンドーにおいて、自ら仕掛けていく勝負姿勢は見ていて気持ちが良い。対する田中はステップのスピードに光るものがあり、相手の蹴りをかわしてすぐに蹴り返す展開を得意とする。工藤が先にポイントを奪っても、田中がすぐに取り返す一進一退の展開が続き、残り45秒までポイントがイーブンという伯仲した試合に。最後は、先に40ポイントを獲得したら勝利というルールにより、工藤が激しい蹴り合いを制した。

「日本での大会は昨年2月の全日本選手権以来だったので緊張しました。自分が得意とする前足での攻撃は出せましたが、課題として取り組んでいる180°回ってのカウンターが出せなかったので、その点をもっと強化したい」と試合後に語った工藤。目標は東京パラリンピックでの金メダルだが「まずは来年の世界選手権で自分のレベルを確認し、上を目指してレベルアップしていきたい」と気を引き締め直していた。

【女子】特別選考試合に挑んだ冬季パラリンピアンの太田

今年のアジアパラテコンドー選手権では3位だった太田(左)

元は冬季競技のクロスカントリースキースキーやバイアスロンの選手として活躍し、パラリンピックでもそれぞれメダルを獲得している女子の太田渉子は特別選考試合で健常のテコンドー選手である木下まどかと対戦。経験豊富な木下の動きに9-21で敗れるものの、距離の詰まった状態から相手を押して空間を作って蹴るなど、試合慣れした動きを見せた。

スキー選手としては2014年に引退しているため「体作りからやり直している」という太田だが、パラテコンドーの魅力は「ダイナミックな足技があって、見ていてもやっていても楽しいこと、そして練習では一般の選手と競い合えることですね」と語り、「女子の選手がもっと増えてほしい。私が出場することでアピールになれば」と続けた。

2020年の東京開催に向けて本格的に動き始めたパラテコンドー。着実に競技人口が増えていることで、高校生の星野など期待の新鋭も育ってきており、地元開催に向けて期待が高まる。

パラアリーナでの試合も初。一般観覧席も設けられた

今大会の結果を受けて、平成30年下期の強化指定・育成指定選手の選考結果は後日、全日本テコンドー協会より発表される。

※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。

text by Shigeki Masutani
photo by X-1

『テコンドー初のパラ単独試合で伊藤力と工藤俊介が優勝!』