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[伴走講習会]ブラインドランナー堀越と道下が、大分県立盲学校で生徒らと交流
リオパラリンピック視覚障がい者マラソンの日本代表推薦順位第1位を決めている弱視ランナーの堀越信司と道下美里が2月8日、大分県立盲学校に招かれ、生徒と教職員、同県内在住の視覚障がい者など約80人と交流した。両選手は前日に現地で開催された「別府大分毎日マラソン」に出走していたが、その疲れも見せずに笑顔いっぱいで、講演や伴走練習会に臨んだ。
同校は大分県で唯一視覚障がいのある幼児や児童と生徒、成人が在籍する教育機関。現在は6歳から56歳まで29人が学ぶ。魚形幸助校長によれば、生徒の多くは体育の授業のほか、健康づくりやダイエットなどを目的に走ることを楽しみ、一般のマラソン大会に出場することもあるといい、日本を代表するランナーの来校を歓迎した。
講演会は日本盲人マラソン協会(JBMA)の安田亨平理事を進行役に質疑応答形式で行われ、まず堀越が「NTT西日本所属の堀越信司(ただし)です。通信会社の『信』という漢字が入る名前で、親に感謝です」と口火を切れば、道下は、「見えない方も多いので、まずは私の外見から。身長144cm、体重36kgと、とても小柄です」と自己紹介からスタート。
さらに両選手は、自身の障がいや日常生活での工夫点から、走り始めたきっかけや競技への思いなどを、自身の言葉で語りかけた。参加者からも時折、笑い声がこぼれ、和やかな雰囲気で進んだ。
ランニングとは盲学校時代に出合ったという両選手。水泳から陸上に転向したという堀越は、走り出した途端にどんどん記録が伸びて「楽しくて夢中になった」。そして、コツコツと練習を続けたことで、陸上選手憧れの実業団入部の目標も叶ったといい、「夢を持ち続けることが大切」と語った。
道下は、ダイエット目的で走り始めたら、風を切って走ることがものすごく気持ちよく、魅力にとりつかれた。「そんな私が、まさかこうして日の丸をつけて走ることになるなんて。10数年、走り続けてきてよかった」と笑顔をみせた。
また、見えない状態で走ることの苦労については、弱視ながら単独で走る堀越は、「交通量の少ない道路を選んだり、(実業団の)チームメートに一緒に走ってもらったりする」と話し、走るのに伴走者を必要とする道下は、伴走者探しに苦労した時期もあったが、今は多くの支えがあってありがたい。「視覚障がいがあるからこそ、私は自分の足音や呼吸を聴き、集中して走ることができる」と、両選手ともに「仲間の大切さ」を強調した。
最後に、堀越は「努力したからといって結果が出ないこともあるのがマラソン。でも、努力しなければ、結果は絶対に出ない。僕もリオでいい走りを見せて、結果で恩返ししたい。皆さんもがんばって」と話し、道下は、「自分がやりたいと思えば、環境は変えられる。目標をもって諦めず努力して、ぜひ自分の未来を輝かせてほしい」とそれぞれ、生徒らにエールを送った。
体育館に移動しての伴走講習会では安田理事の解説のもと、道下が伴走者の堀内規生さんや青山由佳さんと一緒にデモンストレーションを見せた。その後、生徒たちも実際に体験。最初は伴走ロープを手に歩くことから始め、ランニングへと移ったが、時間を経ることにスピードアップ。参加者は真剣な表情ながら、日本代表選手との合同練習を楽しんでいた。
積極的に質問も飛んだ。同校専攻科生徒で56歳の舟木和弘さんは、自身のランニングフォームについて、「どうしても傾いてしまう」と質問。道下は、「私もそう。たまに仲間に見てもらって、常にいいフォームを意識するようにしている」とコツを伝授。
同じく小学部2年の波多野舜成君は、「寒い日の準備運動」について質問。道下が「スキップや腿上げなど」と話せば、堀越は「ラジオ体操で、上半身もしっかり動かして」とアドバイスした。波多野君は今日の講演で、「夢を持つことが大切だと学んだ」と満足そうに話してくれた。
道下はイベント終了後、「走ることに意欲的な人が多く、私も力づけられた。リオでの金メダルに向けて、また頑張ります」と感想を話し、刺激を受けた様子だった。
こうしたイベントは視覚障害ランナーや伴走者の普及にもつながり、視覚障害者マラソンのすそ野を広げることになる。JBMAでは選手強化と並び、こうした普及活動も進めていきたいとしている。
text & photos by Kyoko Hoshino