パリパラリンピックまであと2年……ジャパンパラボッチャで見た日本代表の貪欲さ

パリパラリンピックまであと2年……ジャパンパラボッチャで見た日本代表の貪欲さ
2022.08.30.TUE 公開

3年ぶりに開催された「2022ジャパンパラボッチャ競技大会」。8月19日と20日の2日間にわたり、有観客で行われた。

タイ、韓国、日本代表が対戦

ボッチャの強豪であるタイと韓国からも選手が来日。「海外からも参戦してくれて、火ノ玉ジャパンとしても強化になった」。そう東京2020パラリンピック金メダリストで、エキシビジョンマッチに出場した杉村英孝も言う通り、パリ大会を目指す選手たちにとって練習の成果を確認する、意義のある大会になった。

日本が強豪のBC3クラスで存在感を示した高橋祥太

12月の世界選手権(ブラジル)などにエントリー予定がない、強化指定選手および育成選手が出場。高橋祥太(BC3)、長谷川岳(BC1)といった若手が海外選手と対峙し、大いに躍動した。

また、ボッチャは東京大会で男女混合だった個人戦が、パリ2024パラリンピックでは男女別に分かれて行われることになっており、女性選手の強化も急務となっている。今大会で行われた2つの女子種目は、東京大会銀メダルの田中恵子(BC3)、遠藤裕美(BC1)がそれぞれ制した。

BC1女子ではキム・ユナ(韓国)を下した遠藤裕美が優勝

パリでより高みを目指すために

「世界との差はほとんどない。できる部分も見えたし、(練習ほど)高いパフォーマンスが出ないなと思うところもあった」
金・銀・銅メダルを獲得した東京大会後、火ノ玉ジャパンを指揮することになった井上伸監督は大会全体を総括して述べた。

BC2のベテラン蛯沢文子もタイ選手の胸を借りた

一方、さらなる高みを目指すうえで取り入れているのが「新たな視点」だ。これまで日本代表ではBC3のランプオペレーターやBC1の競技アシスタントは、家族が務めることが多かった。だが、「身近な人がやるのがいいという固定観念があった。東京大会で(団体戦の)メダルを獲ったが、(より上を目指すために)体制を変えていかないと。いろいろ試しながらやっている」と言い、今大会では、杉村のコーチである、内藤由美子コーチが遠藤のアシスタントを務め、東京大会では高橋和樹とコンビを組んだ峠田佑志郎さんが田中のランプオペレーターを務めて強化を図った。

実際に、今年に入ってから峠田とのコンビを解消して、10年来の友人である星豊さんをランプオペレーターとして競技に誘い入れた高橋はこう決意を語る。

「東京大会まで、垰田さんと私なりに積み重ねてきたが、金メダルを獲ることができなかった。さらなる伸びしろについて考えたとき、何か大きな変化をさせないといけないと思った。一番近くで一緒に戦うランプオペレーターを変えることで、自分自身の成長につながるのではないかと考えた」と言い、パリ大会やロス大会の金メダルへの強い思いをのぞかせる。

第2エンドの6球目で自球を押し切れず、相手が2点。「硬いボールを寄せきる調整をしきれなかった」

現在は仕事を辞めて、高橋の介助とランプオペレーターで生計を立てる星さんは、冗談半分で誘われるうちに、高橋の『ギャンブル』に自ら進んで乗ってみたいと思うようになったという。「こんなに面白い経験は他にないだろう、と」

そんなふたりにとって初の代表戦となった今大会は、1勝1敗で2位という結果だった。大会2日目に韓国の25歳、クォン・ジョンホに惜敗した。高橋は「試合前からの動き、試合中もうまくいかなかったことが多々あった。次に向けて、互いに話し合っていきたい」と振り返った。

口でリリーサーを操る韓国のクォン・ジョンホ

さらに、高橋にはランプオペレーターを変更したもう一つの理由がある。「心機一転、ボッチャを楽しみながらやりたい」という思いだ。東京大会のメダルに向けて無我夢中になり「ボッチャを楽しむことを忘れかけていた」という高橋。約半年間、ボッチャ初心者の星さんと練習を重ねることで「私もボッチャ始めたころは、こんなことやっていたなと思い出したりして、ベテランの垰田さんとは違う雰囲気で練習に取り組むことができている」と充実感をのぞかせた。

日本代表に欠けている気持ちは!?

「楽しむ」。銀メダリストの高橋が必死に取り戻そうとしているこの気持ちはボッチャ選手にとってどれほど重要なのだろうか。

チームを引っ張る杉村は、今回来日したタイチーム(東京大会は団体で金メダル)こそ「ボッチャを楽しんでいるチーム」だと語る。

密集したボールの上に自球を乗せる「スギムライジング」を決めて雄たけびを上げた

「タイのセンアンパ選手(世界ランキング1位)と(今回、来日予定だったが体調不良のため)欠場したワッチャラポン・ウォンサ選手(同2位)の2人をいかに崩すかがパリに向けて重要になると思うが、彼らを見ていると実力はもちろんのこと、常にボッチャを楽しんでいる気持ちが溢れ出ている。緊張感やプレッシャーがある真剣勝負の中でも、楽しむ気持ちが大事だと思うので見習いたいなと思う」

今大会のBC2(混合)で優勝したセンアンパは、エキシビジョンで杉村と対戦。新語・流行語大賞にもノミネートされた「スギムライジング」で先制されて会場が沸いても、一緒に拍手をする余裕を見せ、最後は5対3で勝利した。

また、14対0で圧勝した梅村祐紀との対戦では、「観客をがっかりさせたくなかったから、全力でプレーした」と振り返り、自らの球をジャックボールにヒットさせて複数得点の状態にするなど見せ場を披露。「より達成感を得るために、自ら難しいことにチャレンジしている」と飄々と話し、格の違いを見せつけた。

24歳の長谷川岳。質疑応答では「楽しかった」という言葉を繰り返した

だが、楽しむ気持ちは日本代表の若手も負けてはいない。

BC1男子で3選手中3位だったものの、韓国のキム・ドジン(世界ランキング28位)とタイブレイクを演じた長谷川岳は「海外選手との対戦は初めてだったが、今までとの違いはなく国内の選手と同じ感覚でできた」と手ごたえを得た様子。

「楽しもうと思って試合に臨み、緊張した場面もあったが、最後まで楽しくできてよかった」と振り返った。

こうした若手の存在が、ベテラン勢に刺激を与えていることだろう。

BC4は大学生の内田峻介が東京大会代表の古満渉に2勝!

エキシビジョンが行われた大会2日目は372人が来場。1年前、無観客の東京大会で金メダルを獲得した杉村は、駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場に足を運んだ観客の大きな拍手を浴びた。「やっぱりいいですね。応援してくれる人がいるといないでは会場の雰囲気が違うので。(有観客だと)選手自身も、楽しんでプレーできると思うので、多くの人にお越しいただいたことに感謝したい」と笑顔を浮かべて会場を後にした。

text by Asuka Senaga
photo by X-1

『パリパラリンピックまであと2年……ジャパンパラボッチャで見た日本代表の貪欲さ』