「真逆だから、補い合える」夏冬パラ出場夫婦のリアル対談

「真逆だから、補い合える」夏冬パラ出場夫婦のリアル対談
2023.02.14.TUE 公開

東京2020パラリンピックに出場した水泳の西田杏選手と北京2022冬季パラリンピックに出場したクロスカントリースキーの森宏明選手。約1年前に入籍したふたりは、同い年のアスリート夫婦です。それぞれの目標に向かいながら、競技と仕事で大忙しのふたりの新婚生活を語ってもらいました。

西田 杏(にしだ・あん)|水泳
水泳(50mバタフライ)で東京2020パラリンピックに出場。パリパラリンピック出場を競技生活の集大成と位置づけ、練習に励んでいる。趣味は漫画を読むこと。遠征の必需品はイカとナッツ。

森 宏明(もり・ひろあき)|クロスカントリースキー
元野球少年。クロスカントリースキーで北京2022パラリンピックに出場。新聞社の事業部でバリバリ働きながら、2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ大会を目指す。両足義足で陸上競技にも挑戦。

2021年の年末に入籍したふたり。同じパラアスリートといっても、西田選手の「プール」、森選手の「雪上」と活動の場は異なります。ズバリ出会いはどこですか?

森 宏明(以下、ヒロ):出会いはJPC(日本パラリンピック委員会)の新人を対象とするアスリート研修会でした。

西田 杏(以下、アン):私は高校生のときから海外のレースに出場しているので、新人?という感じだけど、20代前半だったということで研修の対象になって。(隣の森選手を指さしながら)こっちは本物の新人(笑)

ヒロ:アイスブレイクで話したときから面白い子だなという印象でした。自分のプロフィールにひとつだけ嘘を混ぜて紹介し、ウソを見極めるというお題だったのですが……彼女、18歳って言っていました(笑)

アン:でも、話しているうちに、同い年だと知ってめちゃくちゃ嬉しくて。つい「同い年!」って言っちゃったんです。

ヒロ:嘘をつかなきゃいけないのに、自分で白状しちゃうところがなんというか自分の中でツボでした。

アン:よく周りからは5歳くらい下に見られます。大人っぽくなりたいです(笑)

周りの反応は? 「匂わせとかしなかったので(笑)結婚を報告したらびっくりされました」

明るくキュートな笑顔が印象的な西田選手と物腰穏やかな好青年タイプの森選手。ふたりは互いを「真逆」だと表現します。

アン:実は、めちゃくちゃ真面目な人だから、私には合わないかなって思っていたこともありました。初見がスーツ姿っていうのもあったのかもしれませんが(笑)

ヒロ:確かに……性格とか真逆なんですよ。

アン:気が合わないわけじゃないけど、「逆だな」っていうのはあります。

ヒロ:例えば、僕、すぐに迷子になるんです(笑)

アン:そう、地図も読めないの(笑)

ヒロ:僕はスマホの地図を読むのもひと苦労で、どうにかこうにか目的地にたどり着くという感じなのに、アンちゃんは頭に地図が入っているみたい。

アン:以前、山梨に旅行に行ったことがあるんですが、私が運転を担当したので、「地図係はよろしく」っていうことになったんだけど、もう途中から「いいや」ってなりました(笑)

ヒロ:結局僕は「飲み物係」になりました。

アン:なにそれ。

ヒロ:あと「BGM係」ね。

アン:なんというか、私の方がざっくりしていてO型っぽいかも……ヒロくんのほうがA型というかんじで気が利く(笑)

ヒロ:いやいや、そんなことないよ!

アン:彼は女子力が高くて、出かけるときに洋服の裾や襟を整えてくれます。おまけに、虫が嫌いで……よく怖がっています。

ヒロ:あ、それ取材で言っちゃうの? 虫は本当に苦手なんですよ。

「相手の尊敬するところは、他人に対して優しいところです」。レースで優勝した際の景品も次世代の若手に譲ってしまうそうです

アン:私は大雑把で、例えば部屋も塵さえ落ちていなければ物が散らかっていても気にしないんです。

ヒロ:僕は整頓したいので、アンちゃんが合宿で家にいないときがチャンス!とばかりにびしっと片づけます。

アン:遠征から帰ると、スーツケースの中のものを全部バーンと出さないと気が済まなくて。で、出しっぱなしなんです。

ヒロ:「そろそろ片づけを……」と言ってみるんですが、結局僕が片づけます。

アン:水泳の練習で夕ご飯作り終わる時間には、もう“HP0”(体力ゼロ) なんで……!

ヒロ:僕たちは、お互いに足りない部分を補い合っているというか。それでバランスが取れているのかもしれません。

合宿や遠征も多く、自宅で一緒に過ごす時間は多くありません。そんなふたりが大切にしているのは食事の時間です。

ヒロ:ふたりが合うなって思うのは、食生活ですね。

アン:どっちもお肉が苦手で野菜が好きだよね。

ヒロ:トレーニングや仕事で本当にお互いの時間が合わないんです。一緒にゆっくりする時間がない分、一緒にご飯を食べる時間を大切にしています。

アン:朝ごはんは、時間を合わせてくれています。

「僕の実家の卵焼きも砂糖が入っていました」(森選手)「ひとり分よりふたり分の方が、料理もやる気が出ます」(西田選手)

ヒロ:アンちゃんが作る卵焼きは絶品です。シンプルだけど、ふわふわなんですよ。マヨネーズが入っているんだよね?

アン:そう。出汁のほかに、お砂糖と醤油も入れます。母から教わったのですが、めっちゃキレイに巻けます!

ヒロ:アンちゃんはお義母さんとすごく仲いいんですよ。

アン:料理のレシピを知りたいときは、ネットで検索するより、母に電話します。それで、うまくできたら写真を撮って母に送るんです。

自転車が好きなのは数少ない(?)共通点。一日オフの日は、電動アシスト付きスポーツバイクで都内を走ります

ケンカはほとんどしないというふたり。なんでもホンネで話すけど、競技の話はあまりしないそうで……。

ヒロ:あるとき、僕がスキーのことで弱音を吐いたことがあるんですが、「え? なに? それでパラリンピックを目指すの?」みたいにボロクソに言われて……。それ以降、あまり話さないようにしています(苦笑)

アン:競技のことだけはちょっとダメだね。私はただやっているだけの人が嫌いなんです。明確な目標がないと応援できない。

ヒロ:おっしゃる通りです。

アン:競技のことになると、私も熱くなっちゃうから、あまり競技の話はしないようにしようねって話しています。

ヒロ:彼女は本当に芯が強くて。なにがあっても競技中心のスケジュールを崩さず、決めたことを延々とやるんです。

アン:そりゃそうでしょう。パラ界では私の方が先輩です(笑)

ヒロ:それでも、北京パラリンピックのときは「楽しんでね」という感じで送り出してもらいました。パリは……ぜひ現地へ! アンちゃんの勇姿を観に行けたらいいですね。

「最近、のどかな田舎で暮らすのもいいなって思います。一軒家のマイホームに憧れますね」(西田選手)

text by TEAM A
photo by X-1

『「真逆だから、補い合える」夏冬パラ出場夫婦のリアル対談』