子どもにスポーツをさせる前に親が知っておきたいケガのリスクやメンテナンスのこと

2023.08.30.WED 公開

子を持つ親の心理としては、誰もが我が子には安全にスポーツさせたいと思うのではないでしょうか。でも「偏った運動ばかりすると身体の成長に影響が出てしまうのではないか?」 「スクールに任せっぱなしで良いのかな?」「自宅ではどんなケアをすれば良いんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか? そこでスケートボードの元プロ選手でありながら、現在は理学療法士としても活躍する中坂優太さんに、子どもの身体について伺いました。

子どものスポーツ障害のリスクについて

プロスケーターとして活躍した経歴を持つ理学療法士の中坂優太さん

ーー子どもがスポーツを行う際にありがちなケガにはどんなものがありますか?

中坂さん(以下敬称略):その前に、スポーツにおけるケガには大きく分けてスポーツ外傷とスポーツ障害の2種類があります。スポーツ外傷は強いストレスが生じて起こる身体の異常で、アクシデントによって起こることが多いです。骨折、打撲、捻挫、脱臼、筋断裂などがそれに当たります。
対してスポーツ障害は、同一部位に小さなストレスが繰り返し積み重なって起こる身体の異常で、日々の蓄積が突然痛みになります。疲労骨折、関節炎、腰椎椎間板ヘルニア、ジャンパー膝、野球肘などですね。
では子どもにありがちなケガが何かと言われると、お子さんがどういうスポーツをしているかによって変わってくるので、一概にこれが多いとは言いきれません。野球なら肘だったり、サッカーなら足だったりと競技特性によって変わってきます。

しかもお子さんの身体的ポテンシャルによって度合いも変わってくるのでどんな影響が出るとは断言できないですが、一つのスポーツをやり続けるということは、競技によっては偏った運動となり、それが身体の変形や痛みに繋がることは考えられます。
ただ分かりやすいスポーツ外傷と比べ、スポーツ障害は気付かないことが多く、痛くなって初めてわかるというケースが多いので注意が必要です。こういったメカニカルストレスの蓄積によるものは、実はスポーツ外傷よりもやっかいなので、親御さんも気を使いながら接していくと良いと思います。

ーースポーツ障害の予防のために保護者が知っておくべきことやできることはありますか?

中坂:スポーツ障害を引き起こす前に、お子さんが行う競技について、起こりやすいスポーツ障害の例を知っておいた方が良いですね。それだけで対応の早さが変わるので。私の専門であるスケートボードは、圧倒的に脚のケガが多いです。特に足関節が多く、次に膝、股関節の順番になります。症例でいうと内反捻挫、剥離骨折、足底筋膜炎、シーバー病などですね。お子さんの競技でどんなケガが起こりやすいのか調べてみてください。検索すればすぐに出てきます。
あとは予防方法を知り、少しでもリスクを減らしておくことも重要です。どんなスポーツにも言えることは運動前後のケアです。事前にそういった対策をしておくことは競技寿命を延ばすことに繋がります。またその辺りはスクールに任せっぱなしという人もいるかもしれませんが、指導者に専門知識があるとは限りませんので、基本的には自分の身体は自分で守るという意識は持っておいた方が良いでしょう。
トップ選手になればなるほどリスクも高くなるので、私はそのリスクを減らすためのストレッチ指導やトレーニング指導を行っています。競技性が高くなればなるほどリスクが高くなるのは、基本的にどのスポーツも同じなので、お子さんの競技力に合わせた対策をとることが、指導者はもちろん、保護者の方にも必要な要素だと思っています。

片足で立った時のバランスを見る中坂さん。しっかり筋肉が動いているかを評価し、運動に繋げている

普段から取り入れておきたいストレッチやケアは?

太ももの前の大きな筋肉を伸ばすストレッチは、オスグッド病などの予防に効果的。運動前後に行うと◎。フォームをしっかりとって行おう
ふくらはぎの筋肉を伸ばすストレッチはアキレス腱炎などの予防に効果的。これもしっかりとフォームをとって、運動前後に行うと良い

ーーどんなストレッチ、ケアを行うと良いのですか?

中坂:競技特性や発達、疾患によって必要なストレッチやケアは違うので一概に言えないですが、抗重力筋(重力に対して姿勢を保持するために働く筋肉)をストレッチすることは有効です。例えば、サッカーなど主に脚を動かす競技では、大腿四頭筋という太ももを伸ばすストレッチや、下腿三頭筋と言う足首を伸ばすストレッチになります。上記の写真でその動作を実践しているので、良かったら試してみてください。

ーーストレッチを行うタイミングや回数はどれくらいが適切なのでしょうか?

中坂:左右10秒を1セットとして始めていきましょう。これを1~2週間毎日続けます。徐々に慣れてきたら1セットずつ増やしていき、再度1~2週間毎日続けます。目標として3セットはできるようになりたいですね。習慣化できそうな数から始めることをオススメします。頑張りすぎると続きません。あくまで継続できることが重要なので、始めは数秒でも良いと思います。とにかく子どものうちから習慣化し、セルフケアできるようにしていきましょう。

ーー静的ストレッチと動的ストレッチの違いや使い分けについて教えてください。

中坂:静的ストレッチは、関節を通常の可動域以上の位置で固定し、一定時間保持して筋肉を伸ばすもので、動的ストレッチはリズミカル、時には反動を用いて関節を通常の可動域以上に動かして筋肉を伸ばすものです。前者は、関節可動域を増大させることはできますが、過度に伸ばし過ぎると力発揮能力や収縮速度は低下してしまいます。一方で後者は、体温を上昇させ筋肉の反応や身体感覚を高めることができ、筋パワーを高めることができます。
競技特性や目的によって専門的アプローチがあるので、用途に応じて選択することが大切だと思います。
子どもは日々成長し、変化するので、身体のコンディションに日頃から意識を向け、気付けることが大切なことだと思います。
誰でもすぐにできることとしては、痛みや異変の兆候が出た時にすぐに行けるかかりつけ医を持つことをお勧めします。MRIやレントゲンなどの客観的データを蓄積しておくことも、医師が正確な判断がしやすいので良いと思います。病院はためらわずにすぐに行きましょう。
またどんなスポーツにも共通して言えることは、必ずリセットすることです。ダメージをうけたらしっかりと回復させること。その日の疲れはその日のうちにと言うのを意識していただくと良いと思います。

見落としがち? 子どもにスポーツをさせる上で注意すべきこと

ーー子どもの身体面で親が見落としがちなところはありますか?

中坂:長時間のハードな運動でエネルギーを使い切ってしまい、成長に当てる栄養が足りていないというのはよくある話ですね。上手くなるために練習内容や時間に目が行きがちですが、栄養管理、休息の管理こそが親にできる最大のサポートです。
ただココを意識できる人は多くはありません。エネルギーを最適なタイミングで摂ることは、成長においても、疲労回復やスポーツ障害の予防においてもとても有効です。また所属を決める時、メディカルリテラシーが高いチームを選ぶということも判断基準にして良いでしょう。

ーー中坂さんが指導されている子どもたちで、何か身体に関する印象的なエピソードはありましたか?

中坂:あるキッズスケーターがスランプに陥り、普段できていたことが全くできなくなってしまったことがありました。メンタルも相当やられてしまって、家族共々スケートボードを辞めてしまおうかというくらい深刻な悩みになっていました。そこで原因を調べたら、足の動きの左右差からくる身体の問題でした。その子にとって向き合うべきところがスケートボードではなく身体であったため、毎日取り組むべき運動療法を提案したんです。
その後問題は解決し、スランプから抜け出していろんな技ができるようになりました。スケートボードでなった身体の異常ですが、しっかりケアを続けてパフォーマンスを引き出せるようになった経験は、その子の人生において大きな自信になると思いますね。

ーーその他に親御さんからよく質問されることなどもあれば教えてください。

中坂:私のように医療に携わっていると、ケガの予防や対応は当たり前の知識ですが、親御さんの中には子どものスポーツ競技において、そのあたりの知識を持ち合わせてない人が多く、ギャップを感じることがあります。特に私が専門とするスケートボード界はその傾向が強いように感じます。
リスクのある技に挑戦し、例え失敗して地面に打ち付けられたとしても、その心意気に拍手! といったようなカルチャーの要素がそうさせているのかもしれないですが、近年は低年齢化が加速して子どものスポーツになりつつあるので、それをそのまま当てはめることはあまりにも危険です。
そこで私は、スケートボーダーやキッズのスケートボーダーを持つ親御さんに向けて、スケートボードによくあるスポーツ障害の例や基礎的な対応方法、子どもの発達とスケートボードの関係について発信したりする、専門トレーナーとしての活動も行なっています。
身体はひとつしかありません。早くに使い切ってしまい、短い現役生活で終わってしまうのはあまりにももったいないです。しっかりケアをすることで長く健康に楽しめる方法があるのだから、その知識は入れておきたいところですね。僕のinstagramアカウント、@sk8_clinicではスケートボードで最も起こりやすい、グリッチョと呼ばれる足首の捻挫や、子どもとスケートボードについての話、他にも腰痛の話などを専門的に解説しているので、もし気になった人がいたら、そちらも確認してみてください。もちろんその他のスポーツでも質問があれば喜んで対応します。未来ある子どもと共により良いスポーツライフを送っていきましょう!


スポーツ競技は、子どもの健康を促進して身体の発達を促す一方で、スポーツ障害を引き起こすことがあります。これは簡単にいうと、スポーツが原因で起きる身体のトラブルです。子どもの頃に酷使しすぎると、大人になってからの身体に影響を及ぼすこともあるので、これらを予防するためにも、保護者や指導者の方もある程度の知識を持つことは大切ですね。そうして、より良いスポーツライフを愛おしい我が子と共に送っていきましょう!

【教えてくれた人】 中坂優太さん
プロスケーターとして活躍した経験を持ちながらも、理学療法士の資格も持つスケートボード指導の専門家。現在は静岡市内にてコンディショニングルームを併設したスケートパーク、F2O PARKを運営しながら、運動学に基づいた独自のシェイプを落とし込んだキッズデッキブランド、excellentを展開中。双方の知識と経験を活かしたオリジナルメソッドで行うスクールも好評を博している。

協力:F2O PARK(https://f2o-park.com
静岡市葵区にある3階建て5種類のエリアからなる室内スケートパーク&ショップ。初心者からトッププロまで全国各地から様々な人が訪れている。

photo and text by Yoshio Yoshida

『子どもにスポーツをさせる前に親が知っておきたいケガのリスクやメンテナンスのこと』