歴史ある街にスポーツが溶け込む! パリで開催されたパラリンピックデーが大盛況
10月9日からチケットの公式販売が始まったパリ2024パラリンピック。その発売を前日に控えた10月8日(日)、パリの街ではJournée Paralympique(以下、パラリンピックデー)が開催された。
会場となったレピュブリック(共和国)広場はパリのランドマークの一つ。3.4ヘクタールという巨大な広場の中央には、フランス共和国と自由を象徴する女神像マリアンヌがそびえる。今回はイベントの様子から、パラリンピックまであと1年を切ったフランスのムードの一端を覗いてみたい。
マクロン大統領からパリ市長、100人超のパラアスリートが集結!
このパラリンピックデーは、パリ2024オリンピック・パラリンピック大会組織委員会、スポーツ・オリンピック・パラリンピック競技大会省、パリ市、CPSF(フランスパラリンピック委員会)による共同イベントで、昨年に続き2度目の開催となる。エマニュエル・マクロン大統領をはじめ、パリのアンヌ・イダルゴ市長、スポーツ省のアメリー・ウデア=カステラ大臣も会場に駆けつけた。
会場には100人超のパラアスリートたちが集結。デモンストレーションやパラスポーツ体験、サイン会など、選手たちと直接触れ合える絶好の機会となった。
会場には車いすテニス、車いすバスケットボール、車いすラグビー、柔道、シッティングバレーボール、卓球、カヌーなどのパラリンピック競技のほか、クライミングやスケートボードなどの人気スポーツがそろい、選手によるデモンストレーションや体験を楽しむ多くの来場者でにぎわいを見せた。
各種テントには、パリ2024大会公式グッズのショップや、パラスポーツを始めたい人のための相談コーナーなども設けられた。
パリ2024大会のマスコットであるフリージュも、会場でこの記念すべき一日を盛り上げた。フリージュは、フランス革命の際に革命戦士たちが使っていた三角のフリジア帽がモチーフになっていて、オリンピック・フリージュとパラリンピック・フリージュの2人は常に一緒にスポーツイベントに登場しているそうだ。フリジア帽をつけたマリアンヌの像があるこの広場で、大いに来場者を沸かせていた。
会場を盛り上げたパラアスリートたち
広場中央のステージでは、パラアスリートたちがイベントを盛り上げた。特別トークゲストとして壇上に招かれたのは、アーチェリーのマット・スタッツマン(アメリカ)。生まれつき両腕がなく、足の指と肩を使った独自のスタイルでプレーする、ロンドン2012大会で銀メダルを獲得したパラアスリートだ。
アーチェリーとの出会いは偶然で、失業中の2010年にTVで狩猟のシーンを観てこれだ、と閃いたという。
「弓を買いに行った店で、店員に聞かれたんだ。どうやって使うつもりかと。家へ帰って、両腕のない人間が弓を引く方法をGoogleで検索したけれど、一件も見つからなかったね。それで自分で研究したんだ」とユーモアたっぷりに語る。
足の指を使って器用にサインをした帽子を観客にプレゼントしたスタッツマン。「できない」と思えることも工夫すれば「できる」に変えられる、そんなインスピレーションを与えてくれるアスリートだ。
「スポーツに限らず、何事にも不可能なんてないんだ。自分がその例として、多くの人に感じてもらいたい」と聴衆の心に深く刻まれる言葉を贈り、大きな拍手を受けた。
いち早くパリ2024大会の出場を決めているフランスのパラアスリートたちも、聴衆から喝采で迎えられた。
「東京大会は(無観客で)特別な状況だったので、パリでは思いきり楽しみたい」と記者に語ってくれたのはシャルル=アントワーヌ・クアク。東京2020パラリンピック陸上競技400m(T20)の金メダリストで、パリ2024パラリンピックへの出場も内定したフランス期待の若きアスリートだ。
同じくパリ2024大会への切符を勝ち取っているのが、陸上競技砲丸投げ(F20)のグローリア・アグブルマグノン。「今年のパラリンピックデーは、去年よりもさらに盛況ね。みんな来年のパリ大会が楽しみで、私も今からエキサイトしています」と弾けるような笑顔で答えてくれた。
みんなが参加しやすい、広く開かれたイベント
広い会場には何箇所も競技スペースがあり、同時にいくつものデモンストレーションが行われ、来場者はたくさんのスポーツが楽しめる。
最初に選手たちが競技のデモンストレーションを行い、続いて参加者がチャレンジしていく。来場者はファミリー層が多く、幼い子どもたちも親と一緒に参加していた。
車いすテニスを体験した2人の少年は、「テニスは普段からやっているんだけど、車いすは初めて乗ったので操作が難しかったな」と感想を語ってくれた。
10月にもかかわらず暑いほどの太陽が照りつける快晴の空の下、会場にはどんどんと人が集まり、競技を体験するために長い列ができるほどだった。会場の広場に直結しているレピュブリック駅はパリ東部の起点として5本のメトロが乗り入れ、駅前にホテルや大きな商店が並ぶ、人の流れがとくに多い場所だ。
偶然通りかかった家族連れや若者のグループが、面白そう、入場自由でスポーツ体験もできるの?と会話をしながら気軽に入場していく。
開催場所の便利さに加え、荷物のセキュリティチェックさえ受ければ入場フリー、参加無料という垣根の低さ。DJセットからは常時音楽が流れてフェスさながら、堅い雰囲気はみじんも感じさせない。フランス国内メディアの注目度も高く、お昼のニュースでもイベントのにぎやかな様子が流れた。
入場自由の野外イベントのため正確な数字は出ないものの、主催者の発表によれば数万人規模の記録的な来場者数だったという。パリ2024パラリンピックのチケットは半数以上が25ユーロ以下と手頃な価格で、家族パスの割引なども充実している。公式販売開始日前日というピンポイントのタイミングで行われたこのパラリンピックデー。パラリンピック競技の周知とパラスポーツの普及、そしてチケット発売のプロモーションという効果は十分に得られたはずだ。「Games Wide Open」をスローガンに掲げるパリ2024大会は、今回のイベントのように街にスポーツが溶け込んだ、高揚感ある場となるのではないだろうか。
text by Yuka Miyakata(Parasapo Lab)
photo by Mika Inoue