トライアスロンワールドカップ宮崎大会・米岡聡と中澤隆がエイジ部門で健闘!

トライアスロンワールドカップ宮崎大会・米岡聡と中澤隆が健闘!
2018.11.16.FRI 公開

11月10日から2日間、「ITUトライアスロンワールドカップ」が宮崎市のみやざき臨海公園周辺で開かれ、11日の「エイジ部門*」にパラトライアスロン強化指定選手の米岡聡と中澤隆(PTVIクラス/視覚障がい)が初出場した。「第1回日本エイジグループトライアスロン選手権」も兼ねたレースで、二人はそれぞれの目標を胸に、市民トライアスリートのトップクラスの選手約500人の中で実力を試した。
*エイジ部門:年代区分ごとに表彰する形式で競技を行う

パラとは異なり、エイジでは多くの参加者が一斉にスタートする

トライアスロンには様々な距離の種目があるが、障がいのある選手対象のパラトライアスロンは25.75km(スイム0.75km、バイク20km、ラン5km)のスプリントディスタンスで競うのが一般的だ。だが、この日のレースはその倍の51.5km(スイム1.5km、バイク40km、ラン10km)で競うオリンピックディスタンス。不慣れな距離と初めてのコース、そして、パラ単独のレースよりも多くの参加者といった条件だったものの、二人は大健闘。米岡が2時間32分51秒で総合92位(完走396人中)で先着、中澤も2時間33分36秒で同99位と続き、ともに「ほぼ目標通り」と話す成績で、今季最後のレースを締めくくった。

スタート前に笑顔を見せた米岡(右)ペアと中澤(左)ペア
タンデム自転車の経験を積む貴重な実践の場でもある

マラソンと二刀流の米岡が先着!

PTVI(視覚障がい)クラスはガイドとともに競技を行う。全盲の米岡は、9月の大会でオリンピックディスタンスは経験済みで、「距離は気にせず、レース経験を増やしたい」と参加を決めた。日ごろは、タンデムで走れる公道は条例によりまだ少なく、海で泳ぐ機会も限られる。そのため、実際のコースで競技することや、スイムからバイク、そしてランへと、次の種目へと移るトランジションを試せる機会は貴重だ。

「目標は2時間30分だったので少し足りないが、前回から10分ほど縮められた。いろいろなアクシデントを差し引けば、各パートとも思い通りに走れた」と手ごたえを口にした。

アクシデントの一つはスイムパートだ。ガイドとロープなどでつながるため、互いの脚に巻いたゴムチューブが途中で緩み、結び直すために何度も減速せざるをえなかった。バイクパートでは漕ぎ出そうとしたところ、狭いコースの両脇に立てられた柵に衝突。その衝撃で米岡が握るハンドルが外れ、修理のためにタイムをロスした。

バイクパートではハンドルが外れるアクシデント

そのため、スイムは36分34秒、256位でアップしたが、出遅れたバイクでも徐々にリズムをつかみ1時間16分33秒と153位まで上げ、ランは39分44秒と全体32位の好タイムでカバー。前を走っていた中澤をフィニッシュ前1㎞ほどでとらえた。

米岡は陸上競技のマラソンとの”二刀流”の選手で、マラソンの自己ベストは2時間49分台だ。トライアスロンはもともとマラソンのクロストレーニングとして2013年に始めたが、国内レースに年に数回出る程度だった。

マラソンランナーでもある米岡(右)はランが強みだ

だが、トライアスロンのガイドや所属先など多くの人に支えられるなか、「もっと成果を分かち合いたい」と、今季からトライアスロンの練習量を増やし、海外のレースにも参戦を始めた。得意のランを武器に、スイムやバイクの強化にも取り組み、8月のアジア大会(フィリピン・マウントマヨン)では2位に入るなど着実に力をつけている。

今回ともに出場した川村勇気ガイドとは、7月の初顔合わせ以来、2回目のレース。川村ガイドは米岡について「前回(7月)に比べ、スイムとバイクがかなりレベルアップしていた。ランもペースを上げて走り切れたのは次につながる」と話し、「米岡選手はアクシデントがあってもポジティブに切り替えられる力がある。自然の中でトラブルも多いトライアスロンでは精神力は欠かせない」と評価する。

川村ガイドと出場した米岡(右)はスイムの練習で力をつける

また、スイムやバイクの練習で心肺機能が高まり、マラソンのスピード持久力もアップし、“二刀流”の効果も感じているという。米岡は「いろんな方の指導のおかげで少しずつ成長し、結果もついてきた。今年はステップを一つ上がれた。来季はもう一段階上げられるよう、さらにがんばりたい」と意気込みを語った。

来季での巻き返しを誓った中澤

一方の中澤は、スイムは 32分30秒、159位で泳ぎ切り、バイクも1時間13分45秒で90位まで上げたが、ランは47分21秒にとどまった。だが、ペアを組んだ森田充ガイドが初めてレースガイドを務めたこともあり、レース後は「目標通り、無事に完走できてよかった」と安堵の表情を見せた。

森田ガイドと泳ぐ中澤(手前)
159位でスイムアップした中澤ペア

中澤は弱視の選手で、トライアスロン歴7年目。今年は、7月のアジア選手権で6位、9月のグランドファイナルも13位に終わるなど、「思ったような成績が残せなかった」と話す。今季は数名のガイドと大会に出場したが、二人のコミュニケーションの重要性を痛感するなど、「いろいろ勉強になった1年だった」と振り返った。

男子PTVI(視覚障がい)クラスが東京2020パラリンピックの新たな実施種目に決定し、「選手層が厚くなったのは嬉しいが、競争も激しくなっている。東京大会は大きな目標として、来年はまずランを強化し、自分の力を出し切る1年にしたい」。今季で得た課題を克服し、来季は飛躍することを誓った。

トライアスロンはこれで今季最終戦を終え、オフシーズンに入った。米岡は12月のマラソンで自己記録更新に挑むが、その後はトライアスロンにシフトし、来季の初戦となる3月初旬のワールドカップ(オーストラリア・デボンポート)に備えるという。中澤も同レースに照準を合わせる。ガイドとのチームワークも磨きながら、互いに刺激し合い、さらなる成長に期待したい。

ランパートで米岡ペアに抜かれるも無事に完走した中澤ペア

視覚障がい選手に欠かせないガイド

PTVI(視覚障がい)クラスの選手は、目の代わりとなって競技をサポートするガイドが欠かせないが、トライアスリートとしての経験や実力に加え、練習や遠征を共にする時間の捻出も必要になる。選手はガイド探しに苦労することも少なくない。

森田ガイドは同じトライアスロンクラブの中澤がガイドを探していると聞き、手を挙げた。トライアスロン歴30年ほどだが、「ランでは自分がきつくなり、(中澤の)足を引っ張ってしまった」と難しさも口にしたが、「一人で走るレースとは違った。この年齢(52歳)で新しいことにチャレンジできたのは嬉しい。とくにタンデムは2人で漕ぐ分、速い。“異次元のスピード体験”は新鮮だった」と振り返った。

新たなチャレンジによる楽しさを知ったという森田ガイド(前)

川村ガイドも、トライアスロン歴30年以上で、レース経験も豊富だ。「個人としてはやるだけやったので、これからは誰かの役に立ちたいとガイドを始めたが、実は(競技者として)自分のためにもなっている。もっと多くの人にガイドにチャレンジしてほしい。皆で日本のパラトライアスロン界全体のレベルアップにも貢献できれば」と力を込める。ただし、サイズの大きなタンデムの輸送費など経済的な負担も少なくない。「ガイドのハードルを低くするには、さまざまな環境整備も必要」と課題も挙げた。

川村ガイド(左)は豊富なレース経験を活かしてガイドを務めた

ガイドの確保は、競技の普及や強化の第一歩。さらには、ペアとしての信頼関係やチームワークを時間をかけて育める環境づくりなども大事だろう。

※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。

text by Kyoko Hoshino
photo by X-1

『トライアスロンワールドカップ宮崎大会・米岡聡と中澤隆がエイジ部門で健闘!』