「CPEDI Gotemba2023 3★」で見たパリ2024パラリンピックを見据えるライダーたちの現状

2023.11.10.FRI 公開

馬術競技のパリ2024パラリンピック出場権争いは、クライマックスを迎えようとしている。

国際連盟のパラリンピックランキングに反映されるポイント対象レースの終了を12月末に控えて、11月3日~5日、静岡県の御殿場市馬術・スポーツセンターで「CPEDI Gotemba2023 3★」が開催された。

グレードIIIの稲葉は愛馬のカサノバと出場した

4年ぶりの「3★」開催の意義

海外から指折りの競技役員が来日したが、エントリーしたのは日本選手ばかり。強化指定選手の吉越奏詞稲葉将高嶋活士、城寿文、育成指定選手の大川順一郎、常石勝義、宮路満英が出場した。

このタイミングで海外の人馬が来日することは、検疫などの関係で時間を要し、他の大会に出場できなくなる理由から現実的ではなく、国内におけるパラ馬術の強化を担う日本障がい者乗馬協会は事実上、日本選手しか出場できない機会を作り出した。

河野正寿事務局長は、言葉に力をこめる。

「もちろん国内の競技関係者育成という目的もあるが、一番は日本代表選手がパリパラリンピックに出場できるよう、自身が普段乗っている馬で好成績を残してほしい思いがあった」

こうした願いから開催された4年ぶりの「3★」大会。その舞台を最大限に活かしたのが、東京2020パラリンピック日本代表の稲葉(グレードIII)と愛馬のカサノバだ。

表彰式で笑顔を見せる稲葉(右)とJRAの元騎手・常石

とくに2日目のパラグランプリB課目では68.778%をマーク。合計点を135.334%とし、パリの最低基準を突破しただけではなく、昨年からヨーロッパの競技会でコンビを組むヒューゼットBHとの68.389%(合計点の最高は135.778%)を超えるポイントを記録し、パリに向けて前進した。

自信を手にした一方で危機感もある。「日本の選手がヨーロッパで代表になろうと思ったら誰一人代表になれない。それほど(馬術の先進国は)選手層が厚い」と稲葉

2日目を終えた稲葉は充実感を浮かべて語る。

「1日目は、(審判の評価として)もう少し活発性があったほうがよかったのではと伝え聞いたので、2日目はそれを意識しました。その分、ミスはあったけれど、スコアを上げることができたし、(パラリンピックランキングの)ポイントを上乗せできた意味でもよかった。意味のある競技会になったと思います」

稲葉とカサノバは、フリースタイルでも72.745%の好成績。クラス統合で争う「第7回全日本パラ馬術大会」のタイトルも手にし、12月のパリパラレース最終戦に向けて弾みをつけた。

また、強化指定選手で最も若い23歳の吉越(グレードII)は今春、大学を卒業。社会人になり、週3日のデスクワークをこなしながら、海外転戦で力をつける。6月の大会では、フリースタイルで70%超えをマークして「自信につながっている」と話し、パリで表彰台を目指していると明かした。

吉越は課目を終えると満面の笑顔を見せてアピールした

今大会は二頭乗りで臨み、ALWA THEMISと67.889%(パラグランプリB)を記録。ヨーロッパで新たな馬も購入したと言い、最後の選考レースでランキングポイント上乗せを目指す。

吉越と同じグレードIIの宮路は特殊馬具の軽量化を図り、パリ出場へのチャンスをうかがう

日本チームを活性化する“新人”の存在も

強化指定選手の中には、東京パラリンピック後の新たなメンバーもいる。2021年にパラ馬術デビューした城(グレードV)。自身もケガをする2020年まで障害馬術や馬場馬術の競技会に出場していた経験がある期待の星だ。馬術選手の妻にすすめられてパラリンピックへの挑戦を決意した。

「(ケガをした)当時は、蹄鉄を打つ仕事ももうできないと思っていたし、新しい目標ができました。パラ馬術を始めてよかったと思っています」

今大会は、「初日は大きなミスがあったが、2日目は(持ち前の)馬の歩様を邪魔することなくでき、アピールできたかな」

東京パラリンピックは映像で見て、馬のクオリティや選手の技術に驚いたという城。だがグレードVのレベルは高く、現在グレードVの世界ランキング27位に位置する。

「パラ馬術にトライする前は、正直なところ、もう少しいけるかなと思っていましたが、すぐに高い壁なんだなと痛感しました」

とはいえ、今では日本チームのキーマンだ。福岡で乗馬クラブを経営し、まさに馬とともに生きる城の存在は、日本の選手たちに刺激と活気をもたらしている。明るいキャラクターの城は、これからの活躍が期待される選手だ。

パリの選考レースはクライマックスへ

大川は今大会で唯一の白馬、童夢と出場した

そして、新たに浮上してきたのが今年、グレードIIからカテゴリー変更になった大川順一郎(グレードI)だ。今大会の初日に全選手最高の67.014%をマークし、「いい評価がプレッシャーになり緊張した」という2日目は思うように得点が伸びなかった。

グレードIで優勝した大川は、電動車いすに乗る

筋肉が落ちていく進行性の難病を患っている大川。「グレードIになったということは、病気が進行しているということ。グレードIIでも手ごたえがあったので複雑な気持ち」と明かすが、常歩と速歩で演技するグレードIIから、常歩のみのグレードIで演技することになり、パラリンピックへ可能性は広がったと言えるかもしれない。

「常歩だけは難しいけれど、もうやるしかない」と腹をくくる大川。ヨーロッパでは、自身がドイツの厩舎からレンタルした馬、ジョーカーとともに勝負をかける。

グレードIVの高嶋は、東京パラリンピックを経験し、再び最高峰の大会に出場したい思いを口にした

text by Asuka Senaga
photo by X-1

『「CPEDI Gotemba2023 3★」で見たパリ2024パラリンピックを見据えるライダーたちの現状』