【海外武者修行日記】車いすバスケットボール・赤石竜我、100%競技に打ち込める環境で進化中!

2025.02.12.WED 公開

ドイツ1部リーグで、シーズン最終盤を戦っている車いすバスケットボール赤石竜我現地レポート。シリーズ第2回は、チームメートとのコミュニケーションツールや、赤石が感じているドイツと日本の違いについてお届けする。

赤石 竜我(あかいし・りゅうが)|車いすバスケットボール


2000年9月11日生まれ、埼玉県出身。東京パラリンピックで銀メダルを獲得した男子日本代表の最年少メンバー。2024年4月1日、10年間所属した埼玉ライオンズから川崎WSCへ移籍。同年9月よりドイツのケルン99ersでプレー。コロプラ所属。一人で過ごすことが苦にならないタイプだが、少し寂しいなと思ったら、日本に電話をすることも。「日本代表で一緒にプレーした岩井孝義選手、川原凜選手からは『どんな感じ?』って連絡がきました」。

コミュニケーションツールあれこれ

年末年始はチーム活動がオフだったため、日本に一時帰国しました。チームメートからおみやげに日本のお菓子をリクエストされていたので抹茶味のチョコレートなどを購入し、ドイツに戻った後、初練習で配りました。日本食はドイツでも人気なので喜んでもらえたのですが、中でも大好評だったのが、パッケージに『ONE PIECE』や『名探偵コナン』といったアニメのキャラクターが描かれているチョコレートです。

日本のマンガやアニメも人気で、アニメ好きのチームメートからも「最新の『ONE PIECE』のエピソード見た?」なんてよく話しかけられます。「僕は『ONE PIECE』はマンガしか読んでないけど、エピソードはわかるよ」とか、「キャラクターは誰が好き?」なんていう話で盛り上がったりします。もともと大好きなマンガやアニメで会話が自然と広がるのはうれしいです。

同じく大好きなゲームもいいコミュニケーションツールになっています。パリ大会の銅メダリストでチームのエース的な存在であるトーマス(・ライアー/ドイツ代表)と、リサ(・バーゲンタール/女子ドイツ代表)とは同い年ということもあり、とくに仲良くさせてもらっているのですが、トーマスが「俺の家で一緒にゲームしようぜ」と誘ってくれて、3人で『NBA2K』というゲームをしたこともあります。

チームメートに配った日本のお土産
photo provided by Akaishi himself

ほかのチームメートもみないい人ばかりです。ケルンのチームには、過去に村上直広選手、篠田匡世選手、豊島英選手、秋田啓選手といった日本人選手が在籍したことがあるからか、最初からウェルカムという感じで、のびのびとプレーさせてもらっています。一緒にプレーすると、この人はこういう選手なんだなとか、こういうプレーが好きなんだなといった特徴がわかってきます。相手も同じことで、僕のことをめちゃくちゃ速いやつって思ってくれているのが伝わってきましたし、仲間として認めてくれたのも感じ取れました。コミュニケーションを図る上で、バスケットボールも立派なツールの1つなのだと改めて実感しています。

100%バスケットボールに集中

自宅は、練習場所の体育館へ徒歩5分、フィットネスジムへ徒歩20分のところにあります。日本では、練習や試合に行くのに車で片道1時間はかかっていたことを考えると恵まれていますし、チームメート以外に友だちや知人がいないこともあって、自由時間がものすごく増えました。その分、筋トレでフィジカルを強化したり、しっかり睡眠を取って体力を回復させたりすることに時間を使えています。100%バスケットボールに集中できるこの環境は、本当にありがたいです。

ドイツのケルン99ersでプレーする赤石

フィジカルトレーニングに取り組んでいるのは、ドイツのプレー強度が高いことも一因です。激しいコンタクトをバンバンしてくるのですが、海外ではこれがデフォルトで、国際大会でもちょっとのことでは審判は笛を吹かないことが多いのです。日本も国際舞台で勝つためには、その強度になれる必要があるでしょうね。香西宏昭選手からも「激しいコンタクトを受け流す力を身につけた方がいい」「どうファウルを誘うかが大事になってくる」といったアドバイスをもらったこともあり、もっとこちらの強度に合わせたプレーができるよう、フィジカルも技術も磨いていかなくてはと思っています。

一方で、日本の方が優れていることもあります。とくにピックをかわす動作やオフェンスに対するコンタクトといったチェアスキルは相当高いと思います。こちらの選手はそのあたりのスキルが足りないため、すぐにファウルになったり、簡単に点を取られたりすることが多いです。

新たな武器を手に入れたい

個人としては、本来の武器であるディフェンスやスピードは、世界トップレベルにあると言っていいと思っています。では、なぜドイツに来たのかというと、こうしたすでに持っている武器をさらに磨くためではありません。小さな頃からディフェンスもオフェンスもどっちもできる世界一のプレーヤーになりたいという思いがあり、新たな武器としてオフェンス面を進化させるためです。ハジコーチにもそう伝えたところ、「なるほど、わかった。俺も協力するよ」と受け止めてくれました。その結果、いまはポイントガードという司令塔のようなポジションを任されています。

名将ハジコーチのもとでゲームを組み立てる力を養っている

ポイントガードは、日本でも少しずつプレーする機会が増えていたポジションで、全体を見渡す視野の広さや、選手ごとに合わせるプレーにも自信があるのですが、経験の浅さゆえにゲームメーク力が弱く、課題を浮き彫りにできたと思っています。

ゲームメーク力を養うには、実戦経験を積むのがいちばんです。ですから、まずは試合の中で「あの瞬間はあそこにパスを出したけど、あの人もフリーだったよな」と感じたり考えたりすることで、プレーの選択肢を増やすことを心がけています。また、試合後に動画で自分のプレーを振り返ることにも力を入れています。さらに、YouTubeでフィリップ・ジェームズ・プラット(イギリス)や、スティーブ・セリオ(アメリカ)といった海外の名選手たちのプレーを見て、彼らが何を考え、どのタイミングでパスを出して、どのタイミングでシュートにいってるかを勉強しているところです。

試合経験を積むことができるのもヨーロッパでプレーする理由だ

海外挑戦で一番大切なこと

我が強い海外選手の中でプレーするには、僕も遠慮せず、エゴを出すことが必要と感じています。でも一番大切なのは、自分の軸をぶらさないことかもしれません。僕にとっての軸とは、バスケットボールが上手くなりたい、世界一になりたい、そのためにも東京大会のときのように強い日本代表を復活させたい、ということ。僕の中に、勝利への執念、成長への飢えが譲れない部分としてあるのです。

ケルンの選手たちは、みんなが負けず嫌い。僕と同じように上手くなりたいって思っている選手ばかりだから、練習中の紅白戦でさえ、うまくいかなかったり負けたりすると、ふてくされたり怒ったり。ほとんど子どもです。でも、彼らのバスケットボールに対する思いは、本当に強いものがあります。僕もバスケットボールが大好きだから、シンプルに「彼らもバスケが好きなんだな」と感じられるのも、「俺らと一緒にうまくなろうぜ」という感じで接してくれることもうれしいです。

バスケットボールが好きな世界の仲間たちとの出会いは、海外挑戦で得た財産!

同じ思いの選手たちと一緒にプレーできるって、すごく幸せなこと。毎日が楽しいですし、これこそ海外に来てよかったと思えることかもしれません。おかげで、初の海外一人暮らしではありますが、ホームシックとは無縁です。バスケットボール100%の生活をこれからも全力で楽しみます!

<第3回は4月公開予定!>

text by TEAM A
photo by Laci Perenyi

『【海外武者修行日記】車いすバスケットボール・赤石竜我、100%競技に打ち込める環境で進化中!』