成田緑夢、村岡桃佳も参戦! 日本パラ陸上競技選手権大会で見た「東京パラリンピック前年」の挑戦と改革
6月1から2日、ヤンマースタジアム長居で日本パラ陸上競技選手権大会が開催された。
多くの選手が11月の世界選手権(ドバイ)出場の条件となる派遣標準記録突破を狙って参加。大会前半はコンディションも良く、各種目の記録更新も期待される中で、選手たちはそれぞれの課題に向き合い、東京2020パラリンピックを見据えた。
世界選手権優勝候補の結果は?
リオパラリンピックの走り幅跳び銀メダリスト・山本篤(T63/片大腿義足)は、5月の北京グランプリで世界記録にあと7㎝と迫る日本記録6m70を樹立したが、今大会は疲労の残る中の試技ということもあり、6m53に終わった。
常々、記録更新には「気持ちが一番大事」と話している。パラ陸上界をけん引するベテランとしての自覚もあるのだろう。この日は記録更新こそならなかったが、大会を盛り上げようと、あえて世界記録更新を予告して大会に臨んでいた。「気候、観客、報道、雰囲気……様々な条件が揃ったタイミングで記録は出る。自分ひとりではどうにもならない」と振り返りつつ、50社を超える報道陣が集まったことについてはニヤリと笑顔。しかし、この日は公式発表2030人という観客で物足りなさも感じているようだった。
それでも、同クラスの選手が8人もエントリーしたことについて「すごくいい雰囲気だった。(リオパラリンピック金メダリストのハインリッヒ・ポポフ氏らと共に取り組んでいる、義足ユーザーのための)ランニングクリニックの成果だと思う」と2020年以降に向けた明るい兆しを喜んだ。
2年前の世界選手権で日本選手唯一の金メダリストだった佐藤友祈(T52/車いす)は、400mと1500mの2種目で2冠。車いす選手にとって、ヤンマースタジアム長居は重く沈み込む厳しいタータン(走路)だが「東京パラリンピックの(建設中の)競技場はどんなタータンかわからない。重いトラックでの経験が大事だと思って出場した」と言い、常に視線の先に東京パラリンピックを意識する。世界のライバル選手と久々に顔を合わせる11月の世界選手権に向けて闘志をたぎらせていた。
東京内定を目指す選手たちの課題と収穫
その世界選手権では、各種目4位以上の国に出場枠が与えられるため、東京パラリンピックの内定者が決まる見込みだ。
「今シーズンは世界選手権で4位以内に入り、東京の出場権を獲ることが目標」と話した高桑早生(T64/片下腿義足)は、走り幅跳びで一本目からしっかりと記録を残し、4本目で5m24を跳んで優勝。「まずまずの結果。これを自信にしてこの先の試合に臨みたい」と笑顔で話した。
3週間前の北京グランプリで400mの日本記録を樹立した重本沙絵(T47/片前腕切断)は、大会2日目に2種目に出場。100mはシーズンベストの12秒94で優勝したが、400mは日本記録の58秒96に届かず1分00秒15のタイム。今季は冬場にアメリカやオーストラリアでトレーニングを積んだ成果が出ているといい、「いい記録を狙っていたけれど、前半のスピードを意識しすぎて、300m過ぎてから失速してしまった」と悔しがった。
視覚障がいクラスの日本記録保持者・高田千明(T11)、澤田優蘭(T12)はともに世界選手権の派遣標準記録に届かなったものの、「一連の動作が噛み合えば記録は簡単に出ると思う」(高田)、「助走と踏切を見直している最中だが、いい跳躍も何本かあった」(澤田)と自信と手ごたえを口にした。
やり投げで新戦力が台頭
そして、今大会で活躍が光ったのは、男子・やり投げの選手たちだ。
「数年前までは(国内の)競技力が低かったが、野球をやっていた選手たちが競技転向したことで記録が出ている。今大会で派遣標準を切った選手もおり、世界選手権には複数の選手を派遣できそう」と、日本パラ陸上競技連盟の指宿立強化委員長も評価する。
鳥取・境高時代にベンチメンバーながら甲子園に出場した高橋峻也は成長著しく、F46 (上肢欠損など)で2位に。優勝は障がい者野球出身の山﨑晃裕で「負けん気が強い自分には野球出身で同じ種目の選手たちの存在は刺激になる」と話し、トップの座を譲らない覚悟だ。
F12の視覚障がいクラスで日本記録を更新し、日本チャンピオンになったのは昨年競技を始めたばかりの大学生・若生裕太だ。甲子園にも出場した日大鶴ケ丘高時代は主将も務めていたが、20歳でレーベル病と診断された。「ステップや投げるときの腕の振りは野球経験が活かされている。下半身を強化するなどして記録を伸ばし、東京パラリンピックに出場したい」と目を輝かせた。また、同じく野球出身の政成晴輝は3位だった。
冬の金メダルを持つ2人の挑戦
「冬の女王が夏に殴り込みだ!」
日本パラ陸上競技連盟の増田明美会長によるアナウンスが会場に響く。大会2日目の100m(T54 /車いす)。平昌2018冬季パラリンピックで金メダルを含む5個のメダルを獲得したアルペンスキーの村岡桃佳が登場し、18秒36で2位に入った。小学2年時に陸上競技を始めたが、中学2年からはアルペンスキーに夢中になり、陸上競技の大会から足が遠のいていた。久しぶりの陸上競技のレースを終えて、「緊張して焦りが出てしまった」と振り返ったが、力強いスタートを見せて高いポテンシャルを示した。世界選手権の派遣標準記録16秒75を切れば東京の舞台も見えてくる。「そんなに甘い世界ではない。2020年はまだまだ遠い」と話しつつ、「ずっと走りたかった。やっぱり陸上競技は楽しい」と充実感をにじませた。
もうひとり、スノーボードの金メダリスト成田緑夢も、東京パラリンピックに向けて。走り高跳び(T44/下肢障がい)でチャレンジを続けている。現在は踏切をテーマに練習を重ねているとし、直前にフォームを変えたものの自己ベストまで2㎝に迫る1m82を記録。「僕はつい最近始めたひよっこ。早く世界のみんなに追いつきたい」と研究を重ね、この日はバーの真横から助走する新たな取り組みで試技を行った。「1m90を跳ぶフィーリングはあるが、1年かかるか、3年かかるか、(東京に)間に合うのか、間に合わないのかはわからない」。そう語る成田らの“東京への道のり”を追うのもまた面白いはずだ。
*第30回日本パラ陸上競技選手権大会リザルトはこちら(外部サイト:日本パラ陸上競技連盟)
text by Asuka Senaga
photo by Rokuro Inoue