ボッチャのアジア・オセアニア地区選手権、BC3ペアで銀も、それぞれの敗戦が教えてくれたもの

2019.07.25.THU 公開
                      

ボッチャ日本代表“火ノ玉ジャパン”にとって今年最大の戦いである「BISFed 2019 Seoul Boccia アジア・オセアニア地区選手権」が7月5日から9日にかけて韓国・ソウルで行われた。

各国にとって東京2020パラリンピックの出場枠がかかる大会であり、その開催国枠を持つ日本も枠拡大を狙って出場。決死の覚悟で臨む各国の中でどんな結果を残すのか、注目はその一点だった。

<BC3ペア戦>初戦の敗戦を乗り越え銀メダル

団体戦銀メダルの(前列左から)田中恵子、河本圭亮、高橋和樹

日本からは4クラスある個人戦と団体戦3種目に10人が派遣された。結果から先に言えば、獲得したメダルは個人戦で銀1、団体戦で銀1個だ。

このうち団体戦は、12月のドバイ・ワールドオープンで優勝を飾って勢いに乗るBC3クラスがペア戦で銀メダルに輝き、東京パラリンピックのメダル獲得への期待も感じさせた。

そのBC3のメンバーは、全日本チャンピオンの河本圭亮、リオパラリンピック日本代表の高橋和樹、競技歴15年の田中恵子。競技アシスタントらを含むチームの連帯感が光った。

予選リーグ初戦のタイ戦は4-6の黒星スタート。敗因は、前日までの個人戦をそれぞれが引きずっていたこと、それに伴うコミュニケーション不足だった。「正直言って雰囲気が悪かった。いつもだったらここで崩れてしまうけれど、3人がしっかり課題に向き合えたことが大きかった」と上田裕之コーチはチームの成長に目を見張る。

河本も「3人でしっかり気持ちを切り替えようと話し合った」と言い、敗戦をきっかけに、コミュニケーションをより具体的にしたと振り返った。

そして迎えた世界ランキング2位のオーストラリア戦。1エンドで女性プレーヤー田中を投入し、1点リードすると、第2エンドからは高橋が代わり、第4エンドで相手の見えにくい位置にアプローチするなどして4点を奪って5-2で勝利。続く、ニュージーランド戦は7-0で快勝し、決勝トーナメント進出を決めた。

準決勝の相手、韓国も世界ランキング3位の強豪だ。試合開始から両者ともにミスのないハイレベルな展開が進む。第3エンドを1-1で迎えた日本は、ジャックボールに近い投球位置の高橋がジャックボール手前にボールを寄せ、続く投球で相手ボールを弾き出す。河本も2球目で味方のボールを内側に寄せる見事な投球を見せ、日本のボールを再三押し出す韓国に負けじと、最後の一球を決めて値千金の1点を奪ってみせた。最終エンドも、河本が先行の相手ボールをズラして高橋が得点圏に投球する連携プレーやスピードボールで相手ボールを弾いた日本が2得点を挙げ、4-1で勝利を飾った。

予選では強豪オーストラリアに勝利した

「オーストラリアや韓国など、世界のトップランカーに勝てたのは東京に向けて一つの自信になった」と高橋は胸を張る。

とりわけ韓国戦では試合中、選手たちの笑顔が目立った。東京パラリンピックで「全クラスメダル獲得」を目標に掲げている日本チームは、他のクラスの選手の試合も選手やスタッフ全員がコートを見守り、声援を送るのだが、高橋などは時折、顔を上げてスタンドのスタッフに視線を送っていて、適度にリラックスしている様子が見て取れた。

そんな姿を森祐輔コーチも、「今まで表情が硬いことが多く、力を発揮できなかった。その表情がだんだん緩んできたのもいい傾向だと思う」と評価した。

日本チームの選手やスタッフが見守るなか、決勝のコートに入場する

決勝戦は、個々の力で上回る香港にいきなり3点を取られ、その後も加点を許すが、このままでは終わらない。最終エンドではロング位置にジャックボールを投げた後、そのボールの裏に自球を置いたところから5点をひっくり返そうと仕掛けたのだ。結局得点は2点にとどまり、2-5で敗れたが、東京パラリンピックで「みんなが応援したくなる選手」を目指す彼らは、最後まであきらない姿勢を貫いた。

「当然目指しているところは金メダルだったので、そこを獲れなかったのが今は悔しい。東京ではもっと輝くメダルを獲れるようにがんばりたい」
金メダルに届かず、高橋は悔しさを露わにした。

香港との差はどこにあるのか。河本は冷静に語る。
「相手は個々のボールの精度が高いのはもちろん、どこに置いたら相手が嫌がるか考えてプレーするのがうまい。それを合わせるコミュニケーション能力の高さもあった。でも、日本もコミュニケーションはできているので、よりよくするためにみんなで練習していきたい」

田中も笑顔で前を向く。
「ペアの河本君といっぱいコミュニケーションを取ってプレーできたのが成長した点。仲間と一緒に戦うことができ、ここまで来れたのがすごくうれしい。この3人でプレーできるのなら、東京パラリンピックも目指したい」

BC3の選手たちはまだまだ強くなりそうだ。

決勝前の円陣で気合いを入れるBC3の選手たち

<BC1-2チーム戦>東京金メダルのための正念場

BC3のメンバーが躍動した、隣のコートで行われていたBC1-2チームの決勝戦。そこにリオパラリンピック銀メダルの日本チームの姿はなかった。スタンドで決勝を見ていた藤井友里子は言う。

「もっといいパフォーマンスができていれば……ここしばらくメダルを獲れなかったことがないので、すごく悔しい気持ちで決勝を見ていた」

東京パラリンピックで金メダルを目指すBC1-2チームは、今大会でも優勝した絶対王者のタイを倒しにソウルに乗り込んだが、まさかの予選2戦全敗。決勝トーナメントに進めなかったのは2015年以来だ。

BC1-2の (写真左から)藤井友里子、中村拓海、廣瀬隆喜、杉村英孝

村上光輝監督は力なくこう話す。
「東京パラリンピックが近づいてきて、日本の選手たちは勝たなくてはならないプレッシャーを感じているんだなと思ったし、中国と韓国がタイに並ぶ実力をつけている。日本がミスした云々ではなく、実力で負けている感じもあり、ショックは大きいと思う」

初戦で格下のマレーシアに敗れ、後のない状況で中国との対戦。第2エンドで大量4点を奪われたものの、第4エンドで逆転。しかし第5エンドで再び逆転されると、最終エンドも相手の好ショットに押される形で6-8で敗れた。

強豪・中国と接戦を繰り広げるも敗戦した

序盤の失点が響いた。キャプテンの杉村英孝はこう弁明する。
「自分が思い描くプレーとそれに対しての(味方の)プレーが合わないところがあった。(試合中の)限られた時間の中でやりたいことをいかに伝えるかも大事だし、仲間からも意見を吸い上げなくてはいけない。自分に責任がある」

味方のコースを開けるパワーショットを披露した廣瀬隆喜も、「今振り返ると、試合中に杉村キャプテンと情報共有しなければいけない部分があった。どうしても長年やっている仲間だからと思ってしまって」と反省した。

中国戦で出場機会のなかった中村拓海は、大会を通じて「日本は技術の精度で他チームに負けていた」と危機感を口にした。

BC1-2チームへの周囲の期待が膨らむ中で、チーム内にメダルを獲り続けていた不安があったことは否定できない。だからこそ、負けたから見えてくるものがあるはずだ。

「この悔しい思いは絶対、このチームを強くさせてくれると思う。東京まで残り1年、個々のスキルを上げつつ、仲良しチームというよりは何でも言い合える雰囲気を作り、メダル争いができるチームにしていきたい」

個人戦はBC2の杉村が銀メダルに輝いた

そう力を込める杉村は、個人戦では銀メダルの活躍を見せている。

村上監督が続ける。「日本はリオまでは個々の技術は高くなく、フォローし合おうという気持ちが強かったから勝ててきた。でも、今はレベルが高くなっている分、味方にどこか依存してしまっている部分があるかもしれない」。それでも、言い訳をせずに負けに向き合う選手たちに頼もしさを感じているようだった。

<BC4ペア戦>敗戦の悔しさは今後の成長の糧に

BC4の (写真左から)唐司あみ、江崎峻、古満渉

常に注目を浴びるBC1-2の陰で、ペア戦予選敗退の悔しさをのぞかせたのが、大学生の江崎峻が引っ張るBC4だ。

世界ランキング20位の日本は、同2位のタイに2-9、同13位の韓国に1-5で敗れたが、両試合で第1エンドでプレーした高校生の唐司あみは「タイ戦の2球目で失敗した反省を生かし、韓国戦では(第1エンドで)1点取ることができた」と前向きに話し、国内の選考試合を勝ち抜いて代表になった古満渉も「反省点もあるが、自分たちのいいプレーもあり、勝敗がどちらに転ぶかというところまでは戦えている。あとはいいプレーを1エンドではなく4エンド続けられるかだ」と世界と戦える手ごたえを口にした。

終始、積極的な声がけでチームを盛り立てていた江崎は「守りに入るのではなく、攻めることはできた。でも、やはり強豪は少しアプローチがズレただけでもつけ込んでくる。僕たちもいいところまで行ったけれど……」と悔しそうに語った。

決戦を終え、それぞれの思いを語った火ノ玉ジャパンの選手たち。この敗戦を東京パラリンピックの勝機に変えられるか。

今年最大の決戦はオリンピック公園内に位置するSKハンドボール競技場で行われた

text & photo by Asuka Senaga

『ボッチャのアジア・オセアニア地区選手権、BC3ペアで銀も、それぞれの敗戦が教えてくれたもの』